Column

三重高等学校(三重)【前編】

2014.11.17

 三重県松阪市に位置する三重高等学校。校舎に隣接する野球部専用グラウンドを訪れると中村 好治監督が出迎えてくれた。

毎日、全選手と言葉を交わす指揮官

『調子はどうだ?』日常的に中村監督と選手の間に会話がある(三重高等学校)

 今年の春に監督に就任し、いきなり夏の三重を制覇。甲子園大会では決勝大阪桐蔭に僅差で敗れたが、堂々の準優勝。穏やかな笑顔でタクトを振るう中村監督の下、ノビノビとした表情で聖地を暴れ回る選手たちの姿が実に印象的だった。

「毎日、選手全員に声をかけるようにしています。最低でも一日一回、全選手と言葉を交わそう。そう心に決めています」

 監督としてチームを率いる上でのこだわりを訊ねると、そんな答えが返ってきた。現在、部員数は1、2年生合わせて65人。3年生が在籍していた時期は100人を超える大所帯となる。しかし、中村監督は全部員と言葉を交わす日々を就任以来、ずっと続けてきた。

「『調子はどうだ?』といった何気ない問いかけから、野球の話になることはもちろん、プライベートの話や交際している彼女の話に流れていくこともあります。それを全選手と毎日続けると、会話をする中で気持ちが入っているのかいないのかといったこともわかってくる。悩みがあるのか、体調がいいのか悪いのかといったこともわかってくるんです」

ベストパフォーマンスを発揮するためのけが予防

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[page_break:一緒に走ることで選手の変化に気付く]

一緒に走ることで選手の変化に気付く

 

グラウンドのそこここで見られる選手と中村監督のコミュニケーション(三重高等学校)

 練習終盤におこなうクーリングダウンのメニューでは、選手たちと並んでグラウンドの外周を走る中村監督の姿を毎日見ることができる。

「一緒に走る一番の目的は彼らとの会話です。日替わりで4、5人指名して、グラウンドの外周を一緒にワイワイ言いながら走るケースが多いですね。クーリングダウンは笑って話ができるくらいのスピードで走るのが一番らしいので、その面でも有効なんです」

 立場や学年に関係なく、一年を通して頻度が均等になるよう気を配りながらその日、一緒に走るメンバーをピックアップしていく。悩んでいそうな選手がいるときは、あえてその選手一人だけを呼び出し、二人で走るケースもある。

 三重中京大の監督を務めていた時の教え子である則本 昂大(現東北楽天)2014年インタビューも中村監督と一緒に走った選手の一人だ。

「則本が『監督とのしゃべりながらのランニングはすごくリラックスできました』と言ってくれたんです。それならば、三重高校でも引き続きやらない手はないなと。心のケアと体のケアは連動しているわけですから」

 指導者をする以上、選手との対話は欠かせない。その考えに至る原点は中村監督自身の過去の体験にあった。

「高校時代、同学年の選手が180人いたんです。当然、監督としゃべる機会などそうそうない。でも時折監督と交わした会話は鮮明に覚えていますし、なによりものすごく嬉しかったんです。だから、自分が監督になったら、どんなに選手の数が多くても、必ず毎日全員に話しかけようと思ったんです」

ベストパフォーマンスを発揮するためのけが予防

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[page_break:監督はマッサージの達人!]

監督はマッサージの達人!

“ゴッドハンド”こと、中村監督のマッサージ。効果はてきめん(三重高等学校)

 三重高校野球部の場合、監督と選手間の対話のきっかけが選手サイドからのアプローチであるケースが多いのが特徴だ。必ずしも、中村監督からの一方的な問いかけで会話が始まるわけではない。

「学年や立場関係なく、いろんな選手が、ひっきりなしに僕の所へやってきますね。野球に関する技術的な質問、悩みを切り出してくることもあれば、私生活の悩みを打ち明けてくることもある。その頻度と数は日本中の野球部の中で一番なんじゃないかと思う時があります。選手側からアプローチを起こしやすい雰囲気は作れているんじゃないかと思う」

 その風通しのいい雰囲気は、選手サイドから、体に不調があった場合の指導者サイドへの速やかな申告にもつながる。

「選手たちには体の調子がおかしければ、違和感レベルでも申告してきなさいと伝えてますが、全員がきっちりと伝えてきます。ケガを隠し、無理を重ねるうちにケガが重症化してしまうといったケースはうちでは起こりえないんじゃないかと思っています」

 マッサージの達人でもある中村監督。勉強を重ねる中で辿りついた、ツボを刺激する施術法は激痛を伴うが効果は絶大。そのマッサージ施術を求め、中村監督の前に選手による行列ができることは三重高校野球部では日常茶飯事だ。

「ピッチャー、野手、上級生、下級生に関係なく、希望者は全員マッサージします。一人3分もあれば効果はてきめん。このマッサージをしながら選手たちといろんな会話ができますし、体の状態も把握することができる。マッサージを受けたいという時点で選手たちのほうからぼくと話したいということでもありますから。一方通行の会話じゃないので、僕自身も嬉しいし、楽しいんです」

 この日、夏の甲子園を沸かせた前チームのエース、今井 重太朗投手がトレーニングのためにグラウンドを訪れていた。練習終わりには中村監督のマッサージを希望し、苦痛に顔をゆがませながら中村監督に体を預ける事、約3分。「ものすごく痛いんですけど、終わったらすごく楽になるんですよね。効果絶大です」と笑顔で語ってくれた。

 ゴッドハンドの持ち主がチームの指揮官。チームの故障予防の観点でいえば最高の環境といえよう。

(後編では三重高校の投手・野手それぞれのケガ予防のための工夫をお伝えしていきます!)

(取材・文 服部 健太郎

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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