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上田西高等学校(長野)

2013.09.13

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創部53年目の夏、初の頂点を目指してスタートした新チーム

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話をしてくれた上田西の3年生部員5名

 「中学の時、『上田西で野球をやりたい』と周囲に話したら、『西高に行ったら甲子園に行けないよ』と言われたことがありました。それが悔しくて、それなら絶対に行ってやるって思ったんです』」
 3年生投手の柳沢和希が、この夏を終えた時、そう口にしたように、上田西高校は、これまで夏の甲子園は、近いようで、遠い存在だった。

 県大会では、ベスト8の常連校。いわば県内の強豪校のひとつであった上田西
 しかし、そこまでは勝ち上がることはできても、あと一歩で勝ちきれない。『だからこそ、自分たちの代で』という思いが、彼らは強かった。

「西高は春勝てるけど、夏勝てないと、言われ続けてきました。『上田西は甲子園に行けない』そんな周囲の声なんて関係ないという証明を自分たちの代でしたかった」
 この夏までキャプテンを務めた大塚雅也(3年)もそう語った。

 そして、上田西ナインは、その思いを実現させた。
 2013年、創部53年目の夏。
 上田西は、悲願の甲子園初出場を決めた。部員たちは、大会前から確信していたことがあったと話す。

「最後の夏は、あとは自分たちの力を出すだけだっていう思いで臨みました。自信はありました。僕らは自信をつけるために、今まで練習に取り組んできたので。
 とくに決勝戦は負ける気はしなかったですね。これで甲子園に行けなかったら、俺たちの人生って、なんなんだろうって話してたくらい(笑)これだけやってきて、行けないはずがないよなって」

 昨今の強豪私立校からみれば珍しく感じるかもしれないが、今年の3年生たちは、中学時代は軟式経験者ばかり。全国大会を経験したスター選手が揃っていたわけでもない。
 それでも、彼らは、新チームが始まってからの一年間で、選手として、またチームとして大きな成長を遂げていった。

[page_break:メンバー自らが提案!一年間、続けた朝の自主練習]

メンバー自らが提案!一年間、続けた朝の自主練習

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 2012年7月14日。
 この夏、2回戦で長野日大に破れた上田西は、すぐに新チームがスタートした。
 同年2月から、硬式野球部監督に就任していた原 公彦監督は、まず部員たちにチームの練習の在り方について、問いた。

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上田西 原 公彦監督

上田西は、このままのチームでいいのか。甲子園を目指している選手が今のような練習の雰囲気でいいのか。練習は集中してやらなきゃいけないし、自主練習も当たり前だと思っている。それを一年間続けるだけで、来年の夏は、上までいけるはずだぞ」
 実は原監督は、ここで指揮をとるまでは、硬式野球部を指導した経験はなかった。硬式野球部に携わったのは、自身が高校球児だった24年ぶり。
 しかし、2005年から6年間、同校軟式野球部の監督を務め、そこで2年連続で全国大会出場に導いた経験を持つ。1回きりのトーナメントを勝ち上がれるチームになるために、大切なことを知っていた。

「軟式野球部を指導していた頃、1日1時間半しか練習できなくても、専用のグラウンドを持っていなくても、練習を突き詰めてやれば全国に行けることが分かりました。
 その中でも全体練習の効率というのはすごく大事ですが、それを補う自主練習はもっと大事だと私は考えていました。
 というのも、どんな強豪校でもやっている練習は変わらないんですよね。バッティングをやって、守備もやっている。だから全体練習でやることは変わらないなら、差をつけるとしたら、自主練習しかないんです。あとは、練習中の集中力。そこを変えていけば、強豪校と対等にやれると思いました。今年の3年生たちに、その思いが通じたようです」

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バッティング練習

 翌日の朝7時。グラウンドには、練習着を着た部員たちの姿があった。全体練習ではない。自主練習だ。
「監督から朝練習をやれと言われたわけではないんです。自分たちが、朝練習をやりたかったから来ました。監督はいつも、僕たちがこれをやりたいというと『やってみなよ』と言ってくれて、そのかわり、いつも『1日で終わらせずに集中して続けろよ』と言うんです」

  もちろん、新チームがスタートした翌日からの新たな取り組みに、すべての部員が同じ方向を向いて、同じ思いを持って、取り組んでいたわけではない。それでも、半数以上が同じ方向を向き、真剣に毎朝練習に取り組み続ける姿をみて、周りのメンバーにも、その思いは自然と伝わっていった。
 気づけば部員全員が、同じモチベーションで、同じ目標を持って、朝の自主練習に臨むようになっていったという。

 平日は毎朝7時から7時40分までは自主練習。7時40分から8時までは全体で、スイング練習。これを彼らは、本当に全員で一年間、やり通した。
 なぜ、そこまでチームで徹底できたのだろうか。
 キャプテンだった大塚は、こう語る。

「自主練習は、もちろん上手くなるためのものですが自信をつけるという意味もあると思うんです。自信をつけるということは、チームのみんなから信頼される選手でいるということ。練習をやってないやつがいれば、周りのやつらが『練習やれよ』って言えるくらいのチームでした。なぜって聞かれれば、僕らは甲子園に行きたかったんで、それはもう当たり前のことでした」

 秋季大会では、選手たちが自ら、「試合を重ねるごとに成長していった」と振り返るように、地区大会初戦を1対0で辛勝。
「この1点は振り逃げでランナーが出て、盗塁して、次の打者の振り逃げで取った1点でした。秋の試合は全然打てないし、バントもエンドランもろくにできないチームだったんです。それでもピッチャー4人の継投で抑えて勝ち上がっていくことができました」(大塚)と、この大会で上田西は、県大会決勝戦まで勝ち上がっていく。

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6度の延長戦を戦い抜いた秋季大会

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2012年秋季大会より

 秋季県大会決勝戦では、佐久長聖に0対1で敗退するも、2季ぶりの北信越大会出場を果たした。
 北信越大会では、粘りの野球をみせる。
 初戦の県央工戦では、1対1の延長15回引き分け再試合となり、翌日の再試合では、初回に一挙5点を奪うと、リードを守り6対1で勝利。さらに、準々決勝の星稜戦でも、浦野-花里-関-柳澤の4投手の継投リレーで、4対3で逆転勝ち。

 しかし、“センバツ出場”に大きく近づく一勝をかけた敦賀気比との準決勝では、上田西は、1対2の延長11回サヨナラ負けを喫した。

「秋は、県大会でも延長戦を2度戦っていて、北信越大会をあわせると4度も延長戦を経験したことになります。なんとか、ピッチャーをつぎ込みながら、継投で勝つことができました。これだけ戦って、ピッチャー4人の中で、誰も完投した選手がいないんですよね。みんなで役割分担しながら、よく投げてくれました。
 打線はバントもできない、エンドランもできないという状態でしたが、それでも、粘り強さはすごく持っていましたね」(原監督)

 敦賀気比に敗れ、あと一歩で選抜に届かなかった悔しさを持ったまま冬を迎えた上田西ナイン。
 しかし、時間が経つにつれ、次第にその悔しさは、過去の満足感へと変わっていく。
 12月初旬には、普段は静かに選手を見守っている原監督が、
「練習に集中してないなら、もう一回やり直せ」と、厳しく叱る場面も目立った。

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当時を振り返って

 そして、お正月の三ヶ日が終わると、チームの中で、今の状態に危機感を感じていた部員たちが中心となって、ある計画を立てる。大塚が振り返る。
「もともと2年生は仲が良かったんですが、やっぱりチームとしてまとまるのって、大変な部分で、自分もそこが一番苦労しました。でも、そこがよくなれば、必然的にチームって強くなっていくものだと思っていたので、お正月明けに、チームが一つにまとまるために、自分たちで予約して、練習後にみんなで焼肉の食べ放題に行ったんです」

「あの焼肉の効果はすごいですよ!これは、どのチームもやったほうがいいって思うくらい、チームの仲は深まりました」(荒井圭佑武田竜樹・3年生)
 メンバーたちが声を揃えて言うほど、これが一つのきっかけとなって、上田西ナインは再び絆を強めていった。

辛い練習を楽しむ工夫

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 この年の冬、上田西が取り組んだことは、秋季大会で課題となったバントと、体作りだ。
 バント練習は、選手たちで自ら決めて、朝練習で取り組むことにした。毎日100球のバントを、約1時間かけて徹底的に練習。
 体作りもウエイトを中心に、筋量を増やして、戦える体を作っていった。また、『ラントレ』といって、走るトレーニングにも多く時間を割いた。
 校内の階段を1階から4階までを50往復駆け上がるメニューや、1人をおんぶしたまま20往復するメニューなど、その他グラウンド内でも様々な距離設定で、毎日、体力の限界まで走り込んだ。

 このトレーニングを「3年間で一番辛い練習だった」と、部員たちは振り返る。
 しかし、彼らは笑って、こう付け加えた。
「でも、超楽しかったよな」
「辛い練習だからこそ、盛り上がったよね。ムードメーカーの平井を中心に、みんなの提案で音楽をかけながら取り組んだりしたね」
「体も足腰も鍛えられたけど、一番は精神面が鍛えられた。最後はいつも達成感があったよね」
 3年生の部員たちは口々に当時の思いを語った。

 モチベーションが下がりがちな冬の期間、上田西の部員たちは、自分たちで工夫しながら、テクニカル面も、またメンタル面も強化していった。
 また、本格的にチームで、メンタルトレーニングも取り入れ始め、それが、この年の代の選手たちには、ピタリとハマった。

「秋の大会とは全然ベンチの雰囲気も違いましたね。秋は点差が離れたら、ベンチからの声が小さくなったりしたけど、春はみんなが試合を楽しもうっていう考えを持ってプレーしていました」

  春の目標は、明確だった。
『北信越大会に行って、敦賀気比と戦おう』――

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前向きに向き合えた“練習”が本当に力に変わる

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敦賀気比戦を振り返る原監督

 原監督は振り返る。
「お前たちがどこまで成長したのか、もう一度、北信越大会に行って確かめようと伝えました。選手たちのモチベーションは高かったですね。春の選抜では、ベスト4に入った敦賀気比にもう一回、食らいついてみたい。そんな思いが伝わってきました」

 そして、上田西は春季県大会で、3季ぶりに長野県大会を制すると、進んだ北信越大会では、初戦で再び敦賀気比と対戦することになる。
 上田西は、延長戦14回まで粘るも、最後は2対3で力尽きた。
 それでも、この一戦は、選手たちにとって、大きな自信になった。

 しかし、6月に入ると、途端に練習試合で勝てなくなる。それでも、
「もう一度、謙虚に野球に取り組んでみよう。春優勝したことを自信にしながら、俺たちのプレーは泥臭く、元気に!」
と、互いに声を掛け合っていく。

 春から本格的に取り組んだメンタルトレーニング部長に任命されたムードメーカーの平井洸希は振り返る。
「この頃になると、練習中もプラスの言葉だけをみんなが発するようになっていたんです。それをみて、このチームは甲子園行けるなと感じました。

 夏直前まで、チームの課題として残ったバッティングでは、フリーバッティングの時も、まずはメンバーで集まって、
「今日はここを意識してみよう。フライは打たないようにしよう」と目標を決めて一人一人が打席に入った。

「飛ばすことも大事だけど、ライナー性の強い当たりを弾道を下げて遠くに飛ばすほうが、試合では生きてくると気付きました」と、選手たちは自分の順番を待っている時間は、後ろで、自分のスイングと打球の軌道までのイメージトレーニングを繰り返した。

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2012年春季北信越大会より 浦野峻汰投手

 また、練習試合で敗れたとしても、『試合でミスしたことは、その日のうちに練習をしてから帰宅する』ということも、部員たちの中では、自然と習慣になっていたという。
 指揮官から指示をされて取り組んだ練習やトレーニングではなく、常に自分たちで振り返り、改善をし、前向きに向き合ってきた野球だからこそ、わずか一年の期間であっても上田西の選手たちは、大きな成長曲線を描くことができたのだ。

「西高は春勝てるけど、夏勝てない」
「西高に行ったら甲子園に行けないよ」
 この夏は、そんな周囲の声をすべて吹き飛ばすかのような、勝ち上がりで上田西は、一気に長野県の頂点に上り詰めた。

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「優勝を決めた瞬間は、もう最高でしたね。朝7時から夜10時すぎまで練習して、家に帰る。これだけ一年間、自分たちは練習してきたんだという自信が、僕たちを後押ししました」(大塚)

 憧れ続けた夢の甲子園の舞台では、初戦の木更津総合に、惜しくも5対7で敗れたものの、上田西ナインは胸をはって、球場をあとにした。

 8月の終わり。3年生たちがいなくなった朝のグラウンドに、1、2年生たちが集まり始める。新たな歴史と伝統を、しっかりと刻み込み、上田西の3年生部員たちは、熱く輝いた3年間の高校野球生活にピリオドを打った。

上田西・原監督に質問!

Q 指導面において工夫したことは何ですか?
 選手への伝え方はものすごく、工夫しました。

 上から頭ごなしに言っても今の生徒たちは聞かないので、プライドを押さえつけないように、やる気をいかにくすぐるか。細かな野球の技術指導よりも、そちらのほうの工夫が大きかったです。彼らは、何も言われないからいいやではなく、何も言われないということをプラスに捉えてくれました。


Q 原監督の指導方針を教えてください。


 指導の切り口は色々あると思います。
 正解はないので、どの切り口をとってもいいと思いますが、試合で勝つためにはいろんな能力を使わないとダメなので、形にとらわれずに、チームに取り入れられるものがあれば、どんどん取り入れてみること。本当にいろんなものを取り入れてみて、その中で取捨選択してみる。それが、このチームは、上手くはまりましたね。

上田西高校野球部 3年生メンバーからのメッセージ


Q 後輩たちに強いチームになるためのメッセージをお願いします!


 僕たちはとにかく、チームの一体感が大事だと考えていました。いかに、一つになれるか。
 あとは、練習はとにかくすること。とくに一番、やってもらいたいのは、自主練習です。個々の技術は練習をやっていれば、いくらでも伸びると思うので、まずは一番難しい『チームが一つになること』を目標として過ごしたほうがいいと思います。練習以外の日も一緒に遊んだりするのも大事です。

上田西高校野球部の皆さん、ありがとうございました!

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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