都立大島高等学校(東京)
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東京都の離島ながら、例年、東東京大会で上位に進出するチームが都立大島。
1997年夏にベスト8、2006年夏にベスト8、2011年夏はベスト16まで勝ち進んだ。参加校数が、140校ちかくある東東京で、なぜ都立大島はベスト8まで残る強さを持っているのだろうか。
限られた環境で結果を残せる都立大島の強さ
そもそも、都立大島は離島という面から、大きなハンディを持っている。
通常、大島から東京都内に移動するには、飛行機と船を使用するが、高校生の場合は金銭的にも安い船を利用する。その船にも、2種類あり、2時間弱で到着する高速便、5時間以上もかかる大型船がある。もちろん、スケジュールによっては大型船を利用する場合も少なくない。
ベスト8入りした2006年は、10泊11日という超過酷なスケジュールを経験した。都立大島の天野一道監督に当時の状況を伺うと、
「試合に勝って、その夜、大型船に乗って早朝に大島に帰ってきて、授業をして、練習をする。それでまた、その夜に出発して、車中泊をして、朝に都内入りして、そのまま試合に臨んでいました。大型船の車中泊は基本的に雑魚寝なんです。また都内のホテルといっても自宅とは違って緊張感がありますから、基本的に疲れが取れないじゃないですか。そういう経験を慣れるためにも、シーズン前には、都内の遠征を組むようにしています」
しかし、遠征も、費用の関係上、頻繁にできるわけではない。
新チームがスタートして初めの遠征は、秋季大会一次予選だ。
一次予選敗退以降は、春の一次予選までは島外で試合をすることはない。当然、練習試合数は他校に比べて少なくなる。
都立大島高校野球部 天野信道監督
今年も、公式戦以外で、都内に遠征へ赴いたのは合計4回だ。
4月に1回、5月に1回、6月に2回。土日で2試合ずつ行うと仮定すると、この3ヶ月間で16試合しか練習試合が出来ないということになる。
さらに、離島は本島に比べて人口数が圧倒的に少ない。部員は毎年15人前後。
15人前後となれば、紅白戦さえも出来ない。そして、当然ながら他校の偵察も出来ず、実践経験やデータ収集でも、夏までにライバル校との差は開いていく。そんな環境の中で、なぜ都立大島は夏に強いチームになれるのだろうか。
まずは、2011年のベスト16に勝ち進めた要因を都立大島の天野信道監督に伺った。
「基本的に都立大島は人数が少ないので、3年生だけのチームとか、上級生主体というチーム作りはできません。2011年のチームは、3学年にバランス良く適材適所が出来る選手が揃ったチームだったこと。また、投手を出来る選手が1、2年生に3人いたことが大きかったですね。エースという子がいなかったので、自分たちが任されたポジションを一生懸命投げてくれました。それが攻撃にも、つながって勝ち上がれたと思います」
2011年の試合結果を振り返ると、2回戦の北豊島工戦で4人、3回戦の城北戦で4人、4回戦の青稜では4人、青山学院戦で3人の投手が登板しており、継投・継投で勝ち上がっていった。マウンドに上がった選手が、それぞれ自分の役割を全うしたこと。そして、投手陣のリズムの良いピッチングに、野手も応えて、攻撃ではつなぐバッティングを展開できた。3回戦の城北戦も4対3の1点差ゲームを制し、4回戦の青稜戦(2011年7月21日)では、1対2で迎えた7回から逆転。粘り強さをみせた。
5回戦の青山学院戦(2011年7月25日)は、都立大島のスタンドには、友情応援で他校の部員たちが100人駆けつけた。大歓声の中、熱戦を繰り広げるも、最後はコールドで力尽きた。それでも、限られた環境の中で、高校野球生活を送る都立大島の躍進は見事だった。
打ち勝つチームを目指す
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2013年夏、今年もまた上位進出を目指す。
今年の都立大島は、部員15名のうち6名が、投手にもなれる。もちろん、野手兼任。総力戦で戦うつもりだ。昨夏、背番号1を背負った高田 凌(3年)を中心に、継投策で勝ち上がっていきたい。
また、今年は、守り勝つチームではなく、打てるチームを目指してきた。2年前の夏のように、2、3点を取って守り勝つのではなく、8点取られたら9点取り返す。
打撃練習の合言葉は「強く、形良く振る」
強く振ることを心がけるだけではなく、良いフォームで振ることにこだわった。普段の練習では7割がバッティング練習となる。マシンでの打撃、投手を立たせてのケース打撃を年間通して行なっていく。
主将の高木航志も、全体的な打撃力の向上を感じている。
「新チーム当初は外野まで飛ばすのがやっとの選手が多かったのですが、この1年で、外野へ打ち返せる選手が多くなり、ここ最近の練習試合では長打も多くなってきました」
部員が15人だけなので、選手一人が一日の練習で打てる数は多くなる。
しかし、そんな中で、大きな課題も浮かび上がってきた。
実戦経験の少なさから生まれる走塁のミス
大島の主力打者
「とにかく学ぶことばかりです」と振り返る練習試合。
普段の打撃練習の成果もあり、ヒットは出るが、練習試合では相手投手のけん制に誘われ、ランナーが刺される場面も目立った。
天野監督は、
「実戦経験の少なさが走塁のミスにつながっていると思います。チームが走塁の技術を高めるには、対戦校の技術を真似るしかない。走塁の良いところ、捕球して投げるまで速さ、足の速い選手の動きを真剣に見て、それをインプットする。それらを忘れないようにして、島に帰ってからの練習に生かしていきました」
練習試合の機会はそう多くはないだけに、一つ一つの練習試合が貴重なものになる。選手たちは練習試合の重要性を強く認識しているのだ。
練習試合では1試合が終わるごとに、高木主将が中心となって、選手個別にミーティングを行う場面も。高木は、
「良い雰囲気で試合が出来ていなかったので、その指摘をしました。この試合の反省、今後の練習の取り組み方などを常に話し合っています」と語る。
大島の主力投手陣
天野監督は選手がお互いにミーティングしている姿を見て、
「彼らは経験がないので、同じミスを繰り返す傾向があるんですよね。それを繰り返さないように彼らなりに考えていると思います」
年間のゲーム数が、ライバル校よりも少ないからこそ、都立大島のナインは、1つの練習試合から学ぼうという貪欲な気持ちがとても強いのだ。
この夏に向けて、天野監督はこう語ってくれた。
「自分たちが出来ることを一生懸命にやって、いかに自分たちの野球を徹底できるかだと思います。言われるだけではなく、言われたことを理解して、自分たちでやり抜く。自立することが大事。自分たちの野球が徹底できていたチームこそが、これまでも勝ち上がっていますから」
今年の都立大島の選手たちを見ていても、確かに自主性が高いことがうかがえる。2013年夏も熱い旋風を巻き起こせるか。
7月12日、ついに初戦を迎える。
(文=河嶋宗一)