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盛岡大学附属高等学校(岩手)

2013.05.07

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 今年のセンバツ。盛岡大附は、春夏通算10度目の出場にして初勝利を挙げた。初出場の安田学園に4対3でサヨナラ勝ち。

「今までの先輩方の苦労も感じながらですね、校歌を大きい声で歌わせてもらいました」

 関口清治監督は、勝利監督インタビューで答えた。関口監督が高校3年だった95年夏の初出場から昨夏まで9連敗(春2度、夏7度)の記録をつくった。しかし、甲子園での9敗から、また、出場できずに敗れていった世代からの学びが、この春ついに結びついた全国1勝。続く、敦賀気比との3回戦では、0対3で敗れたものの、盛岡大附にとっては歴史的な春となった。

 投打のバランスの良さに加え、守備では2試合とも無失策。記録に残らないミスもほとんどなかった。「守備に自信なく臨んだ甲子園がノーエラーだったので、オッという、嬉しい誤算でした」(関口監督)。ビックリするようなシフトを敷くことはないし、いちいち選手に守備位置を指示することも多くない。1日に何時間もノックをするなんてこともない。守りへの強いこだわりもない。ただ、盛岡大附には、守備に対する特別な思いがある。

今の甲子園で勝つためには守れる土台があるかどうか

 関口監督は言う。「甲子園に守れないチームは行っちゃいけないんです」。この言葉には過去の教訓がある。

 例えば、2003年。この年はセンバツに初出場し、夏は4度目の出場を果たした。「1年で2試合しか甲子園で試合をしていないのに、11個もエラーしたんです」と、当時はコーチだった関口監督。春に5個、夏に6個の失策を記録。センバツでは横浜に0対10、夏は延長10回の末、福井商に6対8でそれぞれ敗れた。「挟殺プレーでアウトにしているのに、ボールを落としたり、バント処理で完全にアウトのタイミングなのに、ワンバウンドのボールを投げたり。相手がアウトになろうとしているのに生かしてしまうエラーでした」。甲子園という特別な舞台での緊張から、投手を中心とした守備重視のチームは崩れた。

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▲盛岡大付 関口清治監督

 その後も守備に重点を置いたチームを作り、甲子園出場は果たすものの、甲子園にたどり着けても、そこで勝てない―。

「今の甲子園は守り勝つだけじゃ勝てない場所だなと。守れて、なおかつ打てるチームじゃないと勝てないなと思います。守れることが前提で乗り込んで行かないと勝負にならない。守備だけのチームでも甲子園には行き着いていたので、甲子園で勝つと考えた時にバッティングのチームじゃないと勝てないんだなというのは痛いほど感じていました。なおかつ、守れる。いや、なおかつ、というより、守れる土台があって、それにバッティングが積み重なって行くという感じですね」

 2012年、岩手は好投手がズラリと並んでいた。特に、花巻東には大谷翔平がいた。大谷を打てなければ岩手の頂点は取れない。甲子園に出場することは難しい。そこで、それまでの東北地方では珍しく攻撃力で甲子園を勝ち上がった光星学院の打撃を取り入れる。当時、光星学院の総監督だった金沢成奉氏(現・明秀日立監督)を招き、打撃を強化した。そうして、昨夏は花巻東を破って甲子園へ。初勝利への期待も高まったが、延長12回、4対5で敗退。またも初勝利はお預けとなった。この試合では3失策。試合後、関口監督は「守りのミスを覚悟してバッティングに費やして来たのでエラーは責められない」とコメントしている。

 だからといって、守備重視のチームには戻さなかった。それは、やはり過去の教訓「甲子園は守り勝つだけじゃ勝てない」があり、大切なのは「守れる土台」があるかどうか、だからだ。

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▲松崎部長のノック

 では、いつ、その土台を作るのか。

 冬。雪が降り始めると、グラウンドで守備練習はできなくなる。特に降り始めがやっかいだ。夜間にカチカチに凍った土は日中の日差しで溶け、グラウンドはぐちゃぐちゃになる。盛岡大附に室内練習場はないため、その状態で練習をするわけだが、当然、守備練習はできない。そうなるとどんなに雪解け水が浮いていようと打撃練習に費やす。だから、グラウンドが使用できる秋のうちに守りを鍛える。春の始めに守備を確認した後は、攻撃を重視した実践的な練習が多くなり、改めて守備練習をすることはないという。

「雪が降る前に守備の基本動作、ボールへの入り方や足の使い方をみっちりやります。シーズンが始まってからの守備練習の時間は以前に比べてかなり減っています。減っているんですけど、なぜか逆に守れるようになった。それはちょっと不思議だと思います」

 シーズン中、週5日はバッティング練習に充てられる。ナイター設備がないため、あれもこれもと欲張って豊富なメニューを消化するようなことはしない。守備練習は週に1回あるか、ないか。

 秋に集中して守備の基本練習を行い、「冬に入る前に形は作ってしまう」(関口監督)わけだが、盛岡大附のメニューは次のようになっている。

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ゴロ捕球(すべて手で転がしたボール)

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▲写真4のように捕球した地点でしっかり止まる。捕球した位置を確認する。

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▲捕球したら写真4のようにバックステップして送球する

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▲逆シングルで捕球

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▲ゴロ捕球をしたら写真6のように、しっかりおへその位置にボールとグラブを持って来る

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写真12

▲打球を捕球しきれず、弾いてしまった時を想定した練習。2メートルほど手前に1球だけ置いておき、転がって来た球を捕ったらその場に置いて、素早く2メートルほど手前に置いておいた球をつかんで送球。

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ボール回し

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 塁間17~18メートルの短い距離でボール回し。

「内野手は高いボールを投げるやつは守れないですよね。また、みんなが徹底された動きをしていれば、まとまったチームに見える。鍛えられているなと。ところが、例えば、足の使い方が違ったり、動きがバラバラだったりすると鍛えられていないなというのを感じる。よくシートノックの時、相手チームのそこを見ます。うちは右足を上げて待つんですが、秋の間にかなり徹底してやります」(関口監督)

ミニダイヤモンド

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 ボール回しの距離でゴロを入れる。ゲッツー、ボールファースト、バックホームの3種類がある。ゴロを捕球してから送球までの一連の流れを止めることなく続けていく。

 ゲッツーの場合、ホームベースにいる選手がサードベースにゴロを転がし、サードベースにいる選手はセカンドベースにいる選手に送球し、さらにファーストベースにいる選手までボールを送る。次はサードベースにいる選手が先ほどのホームベースにいる選手の役割になり、セカンドベースにいる選手にゴロを転がして捕球した選手はファーストベースの選手に送球。ファーストベースの選手はホームに投げる。

 役割が変わっていくため、すべてのポジションの動きを理解していなければならず、相当、頭を使うことにもなる。

「ノックよりもボールを扱うのに効率がいいです。ソフトボールの距離で守備練習をやると速さが生まれていいと聞いたことがあり、東北福祉大時代にやっていたこの練習を取り入れたんです。秋はほとんど、こればっかりやっています」

 外野手はカバーリングと一歩目の反応、間の声に重点を置く。ノックで実際に打球を受ける人は1人。周りは「前!」とか「後ろ!」とか打球方向を声に出し、ただ自分の番を待つようなことはしない。また、二手に分かれ、その間に打球を打ってもらい、どちらが捕るか声をかける。捕らない方はカバーに入る。こうしたノックにアメリカンノックもひたすら受けて、外野手の土台は築かれていく。

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許せるエラーと許せないエラー

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 主将でセカンドを守る三浦智聡(3年)が「反復練習なので動きが体に染み込んでいきます」と言えば、高校球界屈指のショート・望月直也(3年)は「捕球してから低いまま送球できるようになりました。球出しも速くなりました」と成果を実感している。こうして、秋に守りのベースを作り、厳しく長い冬に打力を強化。春の訪れとともに実戦に入って行くことになる。

「守れて、打てるチームが甲子園で勝てるというふうに選手には植え付けています。エラーはもちろんあるんですけど、打球に果敢に突っ込んで行って弾いた、これは許せるエラーだと。やるべきことを怠ったエラー、例えば、ベースカバーに誰もいなかったとか、カバーリングをしていないとか、頭のミスのエラーは許せないなと思っています。あとは前に来られない心の弱いエラーや風が頭に入っていない、相手の情報が頭に入っていないなど準備のないエラー。そういうことをしているチームは甲子園に行っちゃダメだよと常々、言っています。プレーの中で起きるエラーはあるので、絶対。何も準備がない、何も考えてないエラーさえなければ、あとは打撃を鍛えれば甲子園でやれるんだなというのは感じています」と関口監督。この春、それが証明され、確信になった。

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▲盛岡大付 望月直也選手

 盛岡大附が守備で目指すことを聞いた時、望月は次のように話した。

「1イニングに2個以上のエラーをやらない。1人がやったミスを次の人までやらない。連鎖をさせないことです」。

 「ノーエラー」とは言わない。ベンチも選手自身も、エラーはあって当然と捉えている。

 「ダイビングキャッチをファインプレーだとは思いません。外野がポジショニングをちゃんととって、打球が来るところにいた。こういう見えにくい部分がファインプレーだと思っています。状況に応じた守りにセオリーがあってマニュアルはあっても、打席に立っている打者のタイプで変わって来きますから。フォーメーションも特にこれといってないですが、競った試合ほどセオリーじゃなくなってくる。その時に冷静に動けるのが本当に守備のいいチームだと思います」(関口監督)

 守備の土台は秋に培っている。攻撃力をさらに磨いて、ここからラストスパートをかけていくことになる。

(文=高橋昌江

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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