Column

作新学院高等学校(栃木)

2013.01.24

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「走力向上、スピードアップ」で3年連続出場狙う作新学院

▲選手たちにベースへの入りを指導する小針監督

 栃木県の名門作新学院。学校自体の歴史は古く、1885(明治18)年に前身の下野英学校として創立。野球部も1902(明治35)年創部という古い歴史がある。現在は、中等部と高等部を併設しており、4000人近い生徒が集う一大学園となっている。
 1962(昭和37)年に甲子園史上初の春夏連覇を達成して、球史に輝く歴史を作ったことで知られている。さらに、73年には戦後最高の怪物投手と騒がれた江川卓投手を輩出し、甲子園を沸かせた。作新学院の校名を聞くと、今でもそれらのことを語るファンが多いのは、それだけ、学校としても背負う歴史が大きくて重いということである。

 一昨年夏に2年ぶり7回目の夏の甲子園出場を果たすと、1回戦で福井商に大勝。このところ、やや低迷気味だった栃木県勢としては久しぶりの甲子園勝利を飾った。そして、その後も、唐津商八幡商、智弁学園を下してベスト4にまで進出。「やはり、栃木県は作新学院だ」とアピールするかのごとく、名門健在ぶりを示した。そして、今年は春夏連続で3季連続出場を果たしている。

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走力向上、全体のスピードアップ

 今秋こそ、県大会初戦で足利に破れて4季連続はならなかったが、その反省の上に、冬のトレーニングでは来季へ向けての立て直しを図り、夏の甲子園3年連続出場を視野に入れている。そのテーマの一つとして掲げられたものに、「走力向上、全体のスピードアップ」がある。機動力を絡めていくことで攻撃の幅を広げていくことは、今の高校野球では欠かすことのできない要素となっている。
 もっとも、日没の早いこの時期である。内野のゴロ処理やボール回しならば、支障がないだけの照明塔はあるものの、極力効率よく陽の射しているうちにボールを扱う練習を可能な限り多くしたいというのが本音である。それに、陽が沈んでくると気温もぐっと下がる。それにも増して、北関東の空っ風が吹き抜けていくので、体感温度はさらに低くなる。だから、それまでに、十分に体を温めておくことも大事な要素となるのだ。

▲走塁練習には力をいれる作新学院

 作新学院の練習は、基本的には選手たちが自主的に声を掛けながら進めていく。これは、選手個々のスタイルを大事にしていくという方針がとられているからだ。

 ただし、小針崇宏監督としては、そんな練習の流れをさまざまな場所で見ながら、気がついたことがあれば、その都度に、その場へ行ってアドバイスをしていく。そのため、ネット裏にじっとしていないで、グラウンドの中をあちらへこちらへと精力的に動き回っている。

 監督の仕事として、よく言われることとしては、特に高校野球の場合だと、「監督は、最も優れた観察者でなくてはならない」ということがある。小針監督は、まさにそうだ。年齢はまだ30歳手前で、今年甲子園に出場した監督の中でも最も若い監督でもあった。しかし、06年秋に就任して以来、確実に実績を挙げているのは、そうした観察眼としっかりとした信念に基づいた野球理論があるからであろう。

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[page_break:その年ごとの選手たちに合わせた練習メニュー]

その年ごとの選手たちに合わせた練習メニュー

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 チーム強化のポイントとしては、「走力向上」を前提としたすべての面でのスピードアップだ。ボールが見える時間の練習では、数ヵ所からのシートノックと投内連係プレーを行う一方で、手投げの野手の頭上を越えていくボールを追いかけていくという練習も行う。
 ギリギリのところで、捕れるか捕れないかというところへ投げるのがミソだが、これが案外難しい。部員が投げると、ついつい遠慮がちになってしまうのか、安易に捕球できるところに投げてしまうケースが多い。「それじゃ、意味がないだろう」と、小針監督が割って入ってきて投げ役になると、選手たちは思い切り追いかけてもなかなか捕球できない。それでも、あきらめないで背走してギリギリのところへ行く感覚が大事なのだ。また、このことで瞬発力と脚力も鍛えられていく。そうしながらも、たまに背面キャッチした選手がいると、「ナイスキャッチ!」と、仲間から声がかかる。これでまた、他の選手も、「オレも捕れるまで追いかけるぞ」という気持ちになっていくものである。

▲ノックは輪番制で部員同士が行う

 この背面キャッチ練習はもちろん、投内連係プレーの反復もそうだが、「この時期の練習はトレーニングの要素を取り入れていきながら、技術練習にもなるようにしていかないといけないですね」という、小針監督のこだわりでもある。というのも、これからの時期、宇都宮市はさらに冷え込みも厳しくなってくる。そうすると、さすがにボールを使っての技術練習は厳しくなってくるのだ。
 こうして、ボールが見える時間の練習では、守備を重視した練習メニューをこなしながら、全体的に体力も走力もアップしていくようなメニューが組まれている。しかも、変化を持たせ刺激を与えていくことで、飽きさせないという工夫がなされているのだ。

 シートノックでは、当番制で選手がノッカーを担当するという方法がとられていた。岩嶋敬一部長は、「練習メニューとしては、こうでなくてはいけないということではないのですけれども、今日はたまたま選手がノックしています。今の時代の高校野球は、昔みたいに練習は単調で同じことの繰り返しで、“耐えろ、耐えろ”だけではダメなんですね。入ってくる生徒も毎年違うわけですから、その年その年に、選手たちに合わせた練習メニューが必要になってきます」という考え方にも基づいているのだということを説明してくれた。
 それだけ、高校野球は、毎日のように変化し、進化しを遂げているということでもあるのだ。指導者は、そのことも意識して、練習メニューを作成していかなくてはいなくてはいけないのである。

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イメージベースランニング

夕焼けのグラウンドで
小針監督の指示を聞く作新学院ナイン

 こうして、ひとしきりの守備練習と走力強化トレーニングを兼ねた練習が終わると、今度はボールを使わないで、イメージでの走塁の練習となる。走力向上をテーマとしていくには、これも大事な練習となるのだ。
 これは、打席に入った選手が「ノーアウト一、二塁」、「ワンアウト一、三塁」と設定を叫んで、シャドースイングすると同時に「ライト前」、「セカンドゴロ」などと、イメージした打球のシーンを口にすると、走者はそれに基づいてベースランニングをしていくというものだ。

 選手の声で、イメージするだけに、スタートやスピードをトップへ持っていくタイミングを自分の感覚で覚えて見つけていかなくてはいけない。たまに、「ファーストライナー」という声をかける者もいるが、これもいつもコーチャーが口で指示している「ライナーバック」の感覚の確認という意味では、随所に入れていくことが肝心なのであろう。

 こうした、イメージベースランニングが繰り返された後、今度は実際に一本バッティングの感覚でボールを使っての練習となる。イメージトレーニングと同じように設定を決めて、投手が投げて、打者が打って、走者が走っていくという形になる。

 この頃には、すっかり陽も落ちてしまって、照明塔が頼りとなるのだが、それだけに打者も、飛球を上げないで、しっかりと転がしていくということが前提となる。低く、強い打球で野手の間を抜いていくということで、ベースランニングの練習としても、より効果的になっていくのだ。

 判断の悪い選手がいるとすぐに小針監督から、「気持ちに余裕がないと、いいベースランニングは出来ないんだよ」、「気持ちを集中して、スタートの判断をしていけよ!」と、声がかかる。
こうした練習を繰り返していく。
 シンプルな中にも、変化のある楽しさがあり、それでいて意識も集中させていくようになっていく。こうして、チームのムードも意識も高まっていくのである。

 学園全体でスポーツ活動の盛んな作新学院。野球部だけではなく、それぞれ他の運動部の施設も充実している。今年のロンドン五輪では作新学院3年在学の萩野公介選手が400m個人メドレーで銅メダルを獲得した。その、水泳部のプールがグラウンド横にある。萩野選手の活躍を称える垂れ幕が校舎にかかっているのもまた、野球部員たちにもいい刺激になっていることであろう。

(文=手束 仁

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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