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都立高島高等学校(東東京)

2013.01.07

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東京都大会快進撃を続けた背景にあるものは

 秋季東京都大会で、1回戦で東海大菅生、2回戦では都立城東を下し、3回戦では桜美林と、いずれも過去に甲子園出場の実績のある強豪校を相次いで倒してベスト8入りした都立高島。決して、好素質の選手が集まっているというチームではない。それでも、それだけの結果を残すことが出来たのは、何かを持っているからである。その背景を探るべく今回、都立高島を訪れた。

▲都立高島高等学校 島修司 監督

 都営三田線の新高島平で下車して、徒歩約10分。東京都の典型的な、高層住宅街として発展した高島平団地ではあるが、新高島平はその一つ先にある、閑静な団地や住宅街が多く存在している。そんな中に、都立高島の校舎とグラウンドがある。ただ、インターハイにも出場を果たしている実績のある男子バスケットボール部をはじめとして、学校全体でクラブ活動が盛んなので、学校全体の雰囲気は非常に活気がある。だから、野球部員も、そんな空気の中で積極的に部活動に取り組んでいこうという空気が既に作られているのだ。

 快進撃を果たした新チームは、夏からの経験者が多くいたのかというとそうではない。夏のメンバーは17人が3年生ということで、むしろすっかり入れ替わってしまった。また、指揮官も前任の都立城東で選手時代には甲子園にも出場して4番を打っていた内田稔監督が、異動を見据えて、この秋からは島修司監督に引き継がれた。

 島監督は、夏までは責任教師としてチームをサポートするとともに、2年生中心だったいわゆるBチームを率いて練習試合なども行っていた。それが、そのまま新チームとなったという形でもあり、どの選手に何が出来るのか、またどんな可能性があるのかということを十分に把握していたということもあった。それに、選手たちも指揮官の要求するものが理解しやすかったということも大きかったようだ。

 普段の練習は、土曜日曜が主として練習試合が組まれている時は月曜日をオフとして、火曜と木曜はグラウンドが全面使えるのだが、水曜と金曜は外野の一角はサッカー部などが使用することになっている。ただでさえ、それほど広いグラウンドではないのだが、それがさらに狭くなってしまうので、どうしても練習メニューも限られてしまう。バント練習やランダウンプレー、投内連携などが中心となっていく。

 特に、日没の早い晩秋から冬にかけての季節は、すぐにグラウンドが暗くなってしまう。照明がほとんどないに等しい高島だけに、この時期はタイヤ引きやタイヤ押しなどの体力アップトレーニングが中心となる。

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[page_break:守りの野球で強豪校に挑む]

守りの野球で強豪校に挑む

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 そんな都立高島野球部だが、一番大きく成長したのは、新チームが出来てすぐの夏休みに8月1日から5日まで、4泊5日の長野県駒ケ根での強化合宿だった。この5日間は試合を組むことなく、精神力アップと体力アップを目指して、徹底的に鍛えた。「昭和の時代の練習スタイルかもしれませんが、私も高校時代これで鍛えられましたので、個人ノックを徹底して行いました」と島監督は言う。

 その個人ノックは、ノッカー対選手が一対一で1時間から場合によっては2時間、まさに真剣勝負での戦いだった。
「一籠終わったら、水分補給をするなど、そのあたりは配慮しましたが、選手は相当キツかったと思いますよ。最後は10本連続捕球なんですが、これがプレッシャーになって、なかなか終われなかったですね。こういう練習は、技術ではなく、精神力だけですから」(島監督)という内容のものだった。こうした練習を通して、選手たちが精神的にも強く逞しくなっていったのだ。

 島監督は、「こういう練習は、達成感や、やり遂げたという自信が大きいと思っています。特に経験のない子たちですから、初めての公式戦では、緊張したりもするじゃないですか。そういうときに、夏休みにあれだけの練習をしたんだということが自信になっていくと思っています。また、ミーティングでもそんなことは話しました」というように、やり遂げることの意義を強調していた。

▲左から吉野君、深水君、本田君

 他にも、ボール回しでは、「1分10回転ノーミス」を徹底して、これが出来るまでは何度も何度も繰り返すというものだった。「何回もやっていると、ミスするヤツも大体決まってくるんです。そのプレッシャーがあって、委縮してしまうとまたミスをしてしまうんですね。そういう意味では、これも精神力がつきました」が、というように、徹底した地味な練習の成果が早速、秋季大会で出たともいえよう。

 その背景には、「守りの野球に徹していきたい。守りでミスが出なければ、強豪校相手でも、対等に戦えるはず」という島監督の考え方があった。

 事実、秋季大会は一次ブロック予選から東京都大会までの5試合で失策はブロック予選での一つのみ。しかし、準々決勝の早稲田実業戦では二つの失策が出て、失点につながってしまった。まさに、守りのミスがそのまま明暗を分けたという結果だった。(2012年10月21日

 選手たちも自分たちのチームの特徴を十分に把握している。
 リードオフマンとしてチームを引っ張った吉野高史君は、「大事な場面で、チームにエラーが出なかったのがよかったと思います。それで、いい形でバッティングにつなげられたのだと思います」と、秋季大会を振り返る。

 また、チームのセールスポイントに関して深水絢太三塁手は、「最後まで、全力であきらめないことが一番いいところだと思います。(東京都大会の)組み合わせが決まった時は、ちょっと不安な気持ちにもなりましたが、全力でぶつかっていけば、大丈夫だと思いました」と、最後まであきらめない、チームの意識を強調する。

▲齋藤武尊君(都立高島)

 秋季大会の戦い方に関しては、「どの試合も、チームとしてはベンチとスタンドが一体になって戦えましたし、いい雰囲気で戦えたのだと思います。それが、いい結果につながったと思います」と、一塁手として守っていた本田晃大君も、チームの雰囲気の良さを特徴と挙げている。

 快進撃の立役者となったのは、エースの齋藤武尊君と捕手で4番を打つ田村龍太朗君のバッテリーである。田村捕手は、齊藤投手の持ち味を十分に引き出すリードも冴えた。「齋藤のいいところは、どんな相手の打者であっても、思い切って内側を突けることです。コントロールがいいので、自分としても安心して要求することが出来ます」と、信頼しきっている。

 齊藤投手も、自分の投球を冷静に分析する。「大会を通じて、インコースとアウトコースをうまく投げ分けられたのがよかったと思います。田村とは、練習の時からいつも1球ずつコミュニケーションを取りながらやっていくようにしています」。バッテリーとして、息の合っていることが伝わってくる。また、これからの課題に関しても、「自分は、まだ線が細いと思っていますから、この冬には、体をもっと大きくしてウエイトをつけて、東東京では誰にも負けない投手になりたいと思っています。秋の大会では、1球の大切さも感じましたから、変化球の精度も、もっと磨いていきたいと思っています」と、目標設定をしていた。

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[page_break:普段からの「気づき」で自主性と自信を育む]

普段からの「気づき」で自主性と自信を育む

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 島監督は、日頃の練習やミーティングで口を酸っぱくしていっていることがある。それは、「気づき」ということである。ここで言う気づきとは、野球のことだけではなく、ゴミが落ちていたら拾ってゴミ箱に捨てる、履物が乱れていたらきちんと揃えるなど、日常生活を含めた気づきということである。

 島監督が特に、「気づき」を強調するのは、都立高島の生徒は全体的に真面目でおとなしく、指示されたことはきちんとやれる素直さを持っている半面、自分で考えないというところがあるという。だから、「気づき」を意識することで、自分でどうしたらいいのかということを考えていかれるようになるのだという。
 自分で考えるということで言えば、今の時期は、練習メニューなども選手たちが主体となって考えていくことが多いという。こうして、自主性を育てていくことが、プレーへの自信にもつながっていっているようだ。

 そして、12月を前に朗報が届いた。来春の21世紀枠の東京都代表候補に正式に推薦するというものだ。部としても学校としても、また一つ新しい歴史を刻んだ。

 毎日の野球ノートにも選手の成長が綴られている。「気づきの多い選手は、ノートにもいろいろ書いてきますよ。中には、1ページ以上、自分の考えや意見を書いてくる選手もいます。逆に、あまり気づきのない選手は数行だったり…(苦笑)」と、島監督は一つひとつに丁寧に目を通して行く。その野球ノートは、最後の夏の大会の前にもう一度読み返すように指導しているという。「毎日の野球ノートは、未来の自分に対しての一番のアドバイスだと思うんです」という、島監督の思いも選手たちに伝わってきているようだ。

(文=手束仁

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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