Column

中京高等学校(岐阜)

2012.01.06

野球部訪問 第51回 中京高等学校(岐阜)

 昨季ソフトバンクで日本一になった松田宣浩・城所龍磨はともに岐阜・中京高校出身だ(松田在校当時は「中京商業高校」)。だが彼らが卒業した後、中京は2007年センバツを最後に甲子園から遠ざかっている。
 昨秋も県大会2回戦敗退と厳しい結果になったが、社会人野球で活躍した経験を持つ柴田秀仁監督のもと2年が経過し、虎視眈々と復権を狙う中京野球部を訪ねた。

チャンスをもらった後にどう動くか

開成高等学校 青木秀憲監督

“厳しいレギュラー争いが続く中京野球部”

 「1・2年生合わせて41人の部員のうち、30人ほどが入れ替わり立ち替わりでベンチ入りするような状況です」。柴田監督は現在のチーム事情をそう語る。同時に「レギュラーには意識の高い子を使います」と付け加えた。

 ここ何年か
中京は「タレント揃い」の印象が強かった。最たる例が2003年。城所龍磨(ソフトバンク)、榊原諒(日本ハム)、中川裕貴(元中日)とプロ入りした3選手がメンバーに名を連ねていた。その後の代も、好選手が何人も並び、当時のベンチ入りメンバーは今ほど、入れ替わりが少なかった印象もある。

 だがその後、部として困難な状況にも直面する中で、2010年5月に柴田監督が就任し、チームも新たな胎動を見せ始めた。

「この任務を引き受けた時から、今までの中京と違うぞ、という部分を出していきたいと考えていました」。

 野球以外の面にも気を配り、選手勧誘に際しては内面も注視した。

 中でも柴田監督は「チャンスをもらった後の行動」から個々の意識を見極めていくという。部員たちは実戦でチャンスを与えられ、結果が出るときもあれば、振るわないこともある。しかしどちらに転んでも、その後にどう動くかが大事だと説く。

 新チームにおいて、「チャンスをもらった後の行動」で成長を示したのが後藤庸輔投手(2年)だ。10月の練習試合で失点を重ねて降板した彼はその直後、ふてくされたのか気落ちしたのか、ベンチで下を向き、黙って座っていたそうだ。その姿に監督はカミナリを落とし、そのまま2~3日お灸(きゅう)を据えた。

 後藤は、それこそ特別に球速がある投手でもなく、これまではベンチ入り当落線上の選手だったという。だが、その一件を機に、柴田監督の思いを受け止め意識を変えていった。しばらくして、後藤は試合で再度、登板のチャンスを得ると、今度は強豪相手に予定投球イニングスを零封。
 こうした成長に指揮官は目を細める。今では、後藤は重要なポジションを任せられつつある選手となった。

[page_break:1ヵ月200キロの走り込み]

1ヵ月200キロの走り込み

冬場の走り込みで体のキレが増してきた

“冬場の走り込みで体のキレが増してきた”

 昨年の秋、中京は県大会2回戦で敗退した。県3位以内(秋季東海大会出場権獲得)に過去10年間で7度入っていたことを思えば、早々のつまずきだった。それでも指揮官は「ひと冬越えたら、必ず選手の体が出来上がっているはず」と自信をのぞかせる。

 中京の冬のトレーニングで根幹をなすのが走り込みだ。ノルマは「1ヵ月200キロ」。ホームグラウンド1周が約300メートルだから、667周しなければ達成できない計算だ。平日でも多い日は50周を走り込む。土日の練習ではランニングで半日を費やすこともあるらしい。
「腰を曲げたり、頭を振ったりして走るようではまだまだ…」と監督は走る姿勢にも目を光らせる。

 走り込み推奨は、昨冬の成果に裏打ちされている。
「去年の冬で『これぐらいまでやっておけばいい』という走り込みの達成基準が明確になった」と柴田監督は手応え十分だ。実際、効果は顕著だった。旧チームの主戦右腕・宮地翔太(中京学院大学進学予定)は、秋はやや太め残りで体にキレがなく、ランニングも「それで本当に走っているのかと思えるほど」(柴田監督)重たかった。
 だが走り込みの甲斐あって翌春、見違えるほどに体が絞れてキレが増した。
「彼の場合、下級生時にあまり走り込んでいなかっただけに、もう1年早く同じメニューが出来ていればもっと伸びていた、という感じです。その点、今年の2年生は最初の冬から走り込みを積んでいる。化ける選手が現れないかなと楽しみです」と35歳の闘将は期待を膨らませる。

 また、体力測定で判明したチームの弱点を補う練習メニューにも重点を置く。シャトルランやサイドステップ系(切り返し)、30メートル走などで瞬発力を鍛える計画だ。「技術」と「強化」の組み合わせも意識し、打撃練習であればバッティングの合間にリストカールや懸垂を混ぜることで、ミックスによる相乗効果を狙っている。

[page_break:自主練習で主体的に器具を活用]

自主練習で主体的に器具を活用

エルゴメーターによるトレーニング

“エルゴメーターによるトレーニング”

 「やらされているようでは伸びない。自主性に任せている部分が大半」と柴田監督は言う。全体練習でランニングなどに励む一方、自主練習の積み重ねを選手に促す。寮に完備されたトレーニングルームは、日々の自主トレでも利用される。野球に集中できる環境を生かすのは部員自身ということだ。

 トレーニングルームには様々な器械が並ぶ。昨年は3台エルゴメーターを購入したが、これも自主練習に有用だ。「最初に僕から選手へやり方を説明する。あとは各自がどう考えて取り組むか」(柴田監督)。ちなみに選手が「キツイです」と口を揃えるエルゴメーターは、その漕ぐ動作ゆえ、中京では「ボート・トレーニング」と呼ばれている。

 自主練習によりベンチ入りを不動のものにしたいと真剣なのが熊崎文洋投手(2年)だ。
「メンバーに選ばれたいけれど、まだ実力不足な分、人と同じではいけない。『上半身の日』『下半身の日』『ランニングの日』など、中心となるメニューを決めて自主練習をやっています」。
 それらのメニューでは体幹トレーニング、ウエイト、そしてボート・トレーニング(エルゴメーター)が核になるそう。「背筋はもちろん、漕ぐときに足の力もつく。下半身から強化して、軸を安定させたい」と主体的に器具を活用している。

 もちろんこうしたマシン類を雨天時や日没後に全体で使用することも多い。たとえばエルゴメーターについては、
「漕ぐ速さをひたすら求めるのではなく、ウチはしっかりとした形でやるようにしています。誤った使い方で上半身・下半身に筋力の偏りが出てはダメなので。肩甲骨の動きや、全身運動であることを自覚させます」と柴田監督は解説。

 取材日は1人5分ずつだったが、長いと20~30分続けることも。ピッチャー陣がダウンを兼ねて10分ずつ漕ぐ日もある。腰が入っていなかったり姿勢が悪いと、他の選手が後ろに回り、背中を小突いて背筋の伸びを意識させる。取材日はこのほかにも、柴田監督がチューブ(ゴム)の正しい使い方を指導する場面もあった。

[page_break:奥の深い野球観を教えたい]

奥の深い野球観を教えたい

「奥の深い野球観を」と語る柴田監督

“「奥の深い野球観を」と語る柴田監督”

 選手たちに自らトレーニング方法も指導する柴田監督自身は社会人野球出身であり、そのキャリアは輝かしい。中京高から亜大に進み、一光(07年廃部)で入社3年目からレギュラーを獲得。4年目には都市対抗に出場、5年目の03年には日本選手権でチームをベスト4に導き優秀選手賞を受賞した。

 その後、同朋高校(愛知)監督を経て中京学院大のコーチとなり、2年前には昨秋のドラフトで指名された菊池涼介遊撃手(広島2位)を指導していたこともある。

「際どいノックを打ってエラーさせようとしても、みんな捕ってしまうんです。ただプレーが横着なときがあったので、そこは戒めました」と振り返る。

 2010年05月からここ中京高校で采配を振るが、柴田監督はこう話す。
「自分が学生時代は無頓着に取り組んできた分、当時のチームメートに『高校野球の監督をやっている』なんて胸を張って言えないですよ」。本当に中身のあるプレーに気付いたのは、社会人になってからと頭をかく。

 だからこそ「子どもたちには奥の深い野球観を教えたい」と力を込める。
「分かりやすい例を挙げると、送りバントをするにしても、初めからバントの構えをするか、セーフティー気味に仕掛けるか。後者のほうが相手を崩す突破口は広がりますよね。そうしたことに自ら気付けるかどうかです」。自ら気付いて判断できる選手をいかに育てるかも、指導者として重要なテーマだと感じている。

開成高等学校 ウエイトトレーニング

“奥村亮介投手(中京)”

*   *   *

 夏の甲子園から中京は約10年遠ざかっているだけに、来たる春・夏への思いは強い。課題は投手陣の整備だ。絶対的エースは不在。秋は5投手をつぎ込んで継投する試合もあった。中学時代に評判だった投手も在籍するだけに、進化が待たれるところだ。

 奥村亮介投手(2年)もその一人。中学時にはリトルシニアの名古屋選抜に選ばれた快腕だ。

「妥協せずに自分を追いこんで、背番号1をつけて甲子園に出たいです」。奥村は11月の私学大会で背番号10をつけ、実質的には自身初となるベンチ入りを果たしている。

 部員全員がメンバー入りへのチャンスがある中で、そのチャンスに向けて、それぞれがどう動いていくのか。また、秋の2回戦敗退の悔しい思いをどう生かしていくのか。公立校優勢の岐阜県にあっても、伝統私学・中京の強さに魅せられるファンは多い。春に成長した姿を見せるためにも、この冬の走り込みや、自主練習の取り組み方が鍵になる。

(文・写真=尾関雄一朗

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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