Column

れいめい高等学校(鹿児島)

2011.08.16

れいめい高等学校

れいめい高等学校2011年08月16日

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【目次】
1.野球に狂う
2.情熱の力

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野球に狂う

湯田太監督

 髭を生やし、甚平を着て下駄を履いた書道家が、野球部のグラウンドに現れ、こんな言葉を残していった。
『狂 いいかお前ら 一度きりの人生 狂ってるぐらいが ちょうど良い。お前が決めて お前が選んだ この道 とことん狂え 野球に狂え 全員がひとつとなり 野球に狂う時 必ず必ず 夢開く 懸』

「僕らは何にも知りませんでしたので、突然のことでビックリしました。いきなりバックネットの前にブルーシートを敷き始められて、筆が出てきたので何か書くのだろうなって思いました。そして僕らはみんなホームベースとマウンドの間くらいのところで整列しました。

そしたらその方が、全員の顔をじーっとみられて、まず赤い墨を筆でピシャーっとかけられて、それから黒の墨で一気に書かれましたね。だいたい1分くらいの出来事だったと思います」(元主将・藤川大地

 鹿児島県薩摩川内市にある学校法人川島学園れいめい高等学校。かつては川内実(旧校名)として昭和55年夏の甲子園に出場したことがある私立強豪校だ。同じ鹿児島県内には、鹿児島実尚志館(旧・志布志実)という同じ系列校があり、かつては校歌まで同じ時期があったほどで、「不屈不撓」という校訓は今もなお川島学園で統一されている。

 そのれいめいに昨夏の大会終了後、当時29歳の青年監督が就任することになった。湯田太監督である。
湯田監督は、同校99年卒の野球部OBであり、いわゆる松坂世代にあたる。高校時代、鹿児島県内には鹿児島実杉内俊哉(福岡ソフトバンクホークス)や川内木佐貫洋(オリックス・バッファローズ)という全国的に名が知れたスター選手がいて、高校3年の夏には準々決勝で鹿児島実の杉内投手と対戦し、3打数2安打を放っている。そのうちの1本は、ライトオーバーの二塁打であったように鹿児島県内でも名が知られた強打者であった。その後、進学した崇城大学でも野球を続け、卒業後に熊本県立球磨工高で1年間非常勤講師として野球部にも携わり、翌年から母校のれいめいに戻ってきた。初年度から副部長、さらに部長を歴任し、昨夏の大会終了後から急きょ監督に就任することになった。

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湯田太監督

 そんな湯田の監督就任を聞きつけた高校時代の野球部の2つ上の先輩・堀之内哲也氏が電話をかけてきた。
「お前、監督になったんだろ。なんか出来ることがあったら、いつでも相談してこい」
堀之内氏は、数年前のある日、思い立ったように鹿児島から京都まで歩いて旅をし、そこで出会った書道の道にのめり込み、現在、書道家として活躍されている方である。
その堀之内氏が「れいめい野球部に言葉を送りたいので、みんなの顔をみて何かを書かせてもらえないか」と再度湯田監督に連絡し、昨年の11月6日にれいめいグラウンドに訪れ、冒頭の言葉を書いたのだ。

 「それにしても凄い光景でしたよ。でも、もっと驚いたことがあってですね。言葉を書いた日付けを左隅の方に書いてくれているんですけど、本当は11月6日なのに10月6日になっているんですよ。多分間違えたと思うのですけど、その間違いが奇遇にも秋に負けた日(湯田監督の公式戦初黒星)なんです。なんか運命を感じましたね」(湯田監督)
そんな堀之内さんの筆で書かれた力強い言葉は、れいめいグラウンドの一塁側ベンチ奥に飾ってあり、新キャプテンの竹中裕大が、「いつも練習前に必ず読んでいます」というようにチームの大きな支えとなっている。

そしてもう一人、湯田監督に手を差し伸べたのが杉野一昭氏である。
「監督になった当初、何をしていいのかわかんない状態だったです。その時に助けてくださったのが、(福岡県立)三池工の杉野監督(現・福岡県教育委員会)なんですよ。自分が一番苦しい時に電話してくださって、うちに合宿来ないかって言ってくださったり、練習試合を組んでくださったりといろいろ励ましていただき、本当にお世話になりました」
数年前からお互い練習試合をする中で生まれた人間関係。しかも、学校の先輩後輩でもない他県の指導者が応援してくれたのだから湯田監督の人望がどれほど厚いかがわかるだろう。今では毎年3月の練習試合解禁日の1回目の練習試合を三池工とすることが決まっているほどである。

 そんな温かい周りの応援もあって、今春の鹿児島大会ではベスト8。5月に行われたNHK旗では準々決勝で選抜出場の鹿児島実相手に1対2と惜敗するも接戦を演じる。さらに6月に開催された北薩大会では優勝するなど、熱血の青年監督と、いい意味で野球に狂い始めたれいめいナインがともに一歩一歩、確実に階段を上り始めた。

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【目次】
1.野球に狂う
2.情熱の力

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情熱の力

元エース3年生土屋

 「夏の大会前に第8シードに入れたことは正直、僕にとっても自信になりました。軸っていうのがもらえたのかなと思います」(湯田監督)
 夏の鹿児島大会のシード権は、県内の監督もしくは部長など各高校からの代表1名による投票の数で決められるだけに第8とはいえこのシードは、新生・れいめいが県内でも認められたことになったのである。
 しかし、その夏の鹿児島大会では、順調に勝ち進みながら4回戦で鹿児島情報に1点差で敗れた。

 そのチームは、キャプテンの藤川を中心にまとまりがあり、143キロ左腕・土屋直人、強肩強打の捕手・原園政人やスラッガー・久木田雄介などタレントも揃いで、甲子園を十分狙えるチームだっただけに悔しい敗戦となった。そんな話になり湯田監督は、その時の光景が脳裏によぎったのか、ひとつひとつ丁寧に呟くようにこう言葉を紡いだ。
「かなりショックだった。このチームで負けちゃうんだなって……でも何かが足りなかったんですよね。生徒たちにはほんと申し訳ないですけど、やっぱりまだ自分の甘さがあったと思うんです」

 だがこの日、早朝から行われていた練習と、練習試合を見に来ていたれいめいの大ファンという一人の男性がこう話してくれた。
「湯田監督は、熱血漢の完全燃焼型ですよ。まあ、言ったら昔テレビであったスクールウォーズですね。あのテレビの主役の監督は、元々高いレベル(日本代表)があって、選手たちを見下している時は全然ダメだったでしょ。でも、選手と一緒の目線でやろうとしている時はどうでした?湯田監督も高いレベルを持っていますけど、選手と同じ目線から一緒に上がっていこうっていうのが、外から見ていて凄く伝わってくるんですよ。だから、熱血漢の完全燃焼型。スクールウォーズと一緒って言っているんですよ」

 確かに練習でのノックひとつをみていても、それが十分に伝わってくる。「集中力」、「気持ち」などの熱い言葉に加え、ノックを止めての選手への問いかけなど指揮官の熱く甲高い声がグラウンドに響き渡る。

 元主将の藤川と新主将の竹中も口を揃えるかのようにこう話す。
「監督はとにかく熱いです。常に自分たちのことを考えてくれて、人を思いやる気持ちを教えてくれるんです」
その3年生の元主将・藤川は、毎朝4時半に起床し、電車に揺られ1時間半をかけて通学していた。練習を終え、家にたどり着くと午後10時半。そこから食事を摂り、勉強をするなど寝床に入る頃はすでに時計の針はいつも午前1時を過ぎていた。そんな中、普通科のクラスで1番の成績を収め、学校では個性の強い部員に「気配り、目配り、思いやり」を心掛け、チームをまとめてきた。

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左から元主将・藤川、新主将・竹中

「(藤川)大地さんは、ほんとお手本となるキャプテンでした。部員、一人一人に対しての接し方が凄く上手いですし、自分も大地さんのようなキャプテンを目指しています」と新キャプテン・竹中がいうようにその藤川も「みんな個性が強くて、まずは一人一人の性格を知るというところから始めました。クラスが違っても、学校で部員を見かけたら積極的に話しかけたり、話やすい環境作りを心掛けました。それは監督が常に教えてくれた『気を使っても、気を遣わせるな』ということが思いやりに繋がると思いますからね」。

 部員を始めとした関係者の誰もが口にするコメントからは、自然と最後に指揮官の話となる。それもオーバーな話ではなく、一つ一つの言葉に素直さがあるように語ってくれる。自然とそうさせることも湯田流コミュニケーション術ともいえる情熱から生まれたことなのかもしれない。
「僕自身も成長だからですね。子供たちにはいつもこう言っています。『お前らが甲子園に行くんじゃない。オレ達で甲子園へ行こう』と」
 先輩である堀之内氏、三池工の杉野監督、それに地元ファンや新旧キャプテンを始めとした選手の行動や言動からもわかるように湯田監督の心意気を肌で感じたという人がたくさんいる。
 本人は意識しなくても、人徳ある人の周りには、自然と人が集まり思いが一つになるということがある。そして、それは一人だけでは成し遂げられない大きな力となっていく。これこそ、湯田太の「情熱の力」である。

(文=編集部アストロ

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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