Column

春日部共栄高等学校(埼玉)

2011.06.22

春日部共栄高等学校

春日部共栄高等学校2011年06月22日

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【目次】
1.就任32年目を迎える本多監督の信念とは?
2.やらされる野球に進歩なし
3.監督と交わした3年生の約束

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就任32年目を迎える本多監督の信念とは?

 午後7時、照明が消えたグラウンドの中、総勢100名を超える野球部員たちが、息と足並みをピタリと揃えて走り、一日の練習を終える。先頭を走る23人の3年生部員の足の動きに合わせて、最終列の部員が「左、左、左」と小刻みに声を掛ける。まだ入部して2か月ほどの1年生51名も交えながらも、見事なまでに揃ったランニングを一日の練習の締めくくりにみせてくれた。

 グラウンドの中には、指導陣の影はない。誰かに見られているから、言われるからではなく、「自分たちがどうしたいのか」全員がその問いに向き合いながら、彼らは常にグラウンドに立ち続けている。それが、本多利治監督が今までも、そしてこれからもずっと目指し続けていく春日部共栄高校野球部の姿だった。

 今年で就任32年目となる本多監督は、春日部共栄高校が1980年に開校したのと同時に、野球部を率いている。

「最初はグラウンドもない中で、野球部がスタートしました。負け続けると、このままでいいのかなと不安に思うこともありましたが、自分自身と葛藤しながらも、信念と決意を持ってここまできました」。

 本多監督の信念とは、“勝つ野球ではなく、育てる野球”だ。

「高校野球は甲子園が全てじゃないんです。甲子園というところをなぜ目指すのか?目的は何か?そこを考えさせるようにしています。大会も『普段の練習の成果を見てもらいなさい』と伝えています。練習は人にやらさられるのではなく、自らやることが大切なんです」。

「考えることこそ実勢。これぞ高校野球というのをやってやろう」と本多監督はその信念を貫いて、春は2度、夏は4度の甲子園に出場。さらに就任14年目の1993年夏の甲子園では全国準優勝を果たした。

 また、「ずっとこういう野球部を目指していました」(本多監督)と、ここ10年ほど前から「小学校の時から春日部共栄で野球がやりたかった」と憧れを抱いて入部する部員も増えてきたという。創部当初は、夢のまた夢として思い描いていたチームに、本多監督の言葉を借りるなら“自分に負けなかった”からこそ。決意を持ってグラウンドに立ち続けていったからこそ、野球部を成長させていくことができたのだろう。

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【目次】
1.就任32年目を迎える本多監督の信念とは?
2.やらされる野球に進歩なし
3.監督と交わした3年生の約束

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やらされる野球に進歩なし

【選手を指導する本多監督】

 今、春日部共栄はもう1つの変革期を迎えている。

 「ずっと春日部共栄で野球をやりたかった」選手に加え、「野球のみならず、勉強にも力を入れたい」という選手が多く集まってきている。

 この春、卒業した部員たちは、早稲田大3名、法政大2名…他にも青山学院大や中央大など入試を突破し、それぞれの志望校に進学を決めている。また、最近では東大希望者の部員も出てきた。

「僕らは練習をしろ、勉強もしろと強制はしません。その代わり、入部してすぐに目標だけは立てさせますね。」

「うちはA・B・Cの3チームを練習試合でつくるのですが、上級生でも『ベンチに入りたい』とか、『レギュラーになって活躍したい』という目標を持つ選手もいれば、『CチームからBチームに上がってヒットを打ちたい!』という目標を持って、取り組んでいる選手もいます。

 野球で目標が立てられれば、勉強でも目標を立てて頑張ろうとする。自分が目指すものを設定することによって、行動が変わってくるんです。やらされる野球に進歩はありませんから」。本多監督がこれまで築き上げてきた“自ら考えること”が、春日部共栄高校野球部の伝統となってからは、部員数も増え続け110名余の大所帯になりながらも、途中で野球部を辞める部員がいなくなった。

「野球も勉強も、自分たちで時間を決めて個々に取り組んでいますし、寮に関しても彼ら自身で入るか入らないか決めさせています」(本多監督)。春日部共栄では、全て自分で判断して動くことを大切にしている。

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【目次】
1.就任32年目を迎える本多監督の信念とは?
2.やらされる野球に進歩なし
3.監督と交わした3年生の約束

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監督と交わした3年生の約束

【信頼の厚い主力メンバー】

 現在3年生の部員たちは、入学当初のことをこう振り返る。

 「最初はミーティングや練習でも求められることが、難しくて戸惑いました。でも、先輩たちから『こういうときにはこう考えればいいよ』と教えてもらったり、上級生の動きを見ながら、共栄野球が出来るようになってきました」。

 これまで、本多監督や卒業生たちが形作ってきた春日部共栄野球部の伝統を、後輩たちに伝えていくことも上級生の大事な役割だ。この日の練習ではノック中に、監督から注意を受けて「ハイ」と返事をした3年生の選手に対して、本多監督はこう言い放った。

「弱いな、返事が!そんな伝統を残すなよ!お前がそうやってハイって弱い返事するから、2年生も同じように返事をするんや!」。こんな会話が日々、グラウンドでは繰り返されていく。

 練習後、3年生部員たちは春日部共栄の野球について、こう教えてくれた。

「自分の考えを主張して、プレーすることが求められます。なぜ今そのプレーをやったのかと、いつ誰からも聞かれてもいいように、常に考えながら野球をやってます。そういった姿勢というのは、先輩たちがプレーしている姿から学んでいきました」。

 伝統を大事にするチームだからこそ、今年の3年生たちは、春季大会の準々決勝で花咲徳栄に5対8で敗れてから、監督とある約束をした。

【最後の夏に笑顔でやるために、笑わないことを決めた】

「僕らの代は仲が良くて、練習中もずっと笑顔で声を掛け合いながらやってたんです。だけど厳しさが欠けていた。秋の大会ではセンバツを懸けた関東大会の準々決勝で3対4で終盤に逆転負けして、春の大会もその雰囲気のまま臨んで結果を残せなかった。

 それで、練習中は『笑わない』ということをチームで決めました。監督からは、『仲良しだけで野球は出来ない。ミスしたやつがいたら、そいつのために怒れ。嫌いだから言うんじゃない、上手くなってほしいから言うんだ。最後の夏に笑顔でやるために、今厳しくやれ』と教えられました」(薮内主将)。

 そう決めてから、僅か数週間で、3年生たちはすぐに変化を遂げた。

「練習試合でも雰囲気がだいぶ変わりましたね。これまでの32年間の中でそんな指導をしたのは初めてでした。だけど今年は、のろしを上げるチャンスだと思っているんです」。夏の埼玉大会では、ここ3年連続で準々決勝で敗れている春日部共栄。ベスト8を壁だとは思っていない。今年こそは、6年ぶりに埼玉の頂点を狙っているのだ。

 小雨が降る6月の夕闇の中、ランニングを終えた部員たちがベンチ前に集合する。全体ミーティングが終了すると、3年生たちは誰も何も言わずともベンチの中に集まり出した。この日の練習では互いに厳しく叱咤し、表情を全く崩さなかった彼らだったが、ここで初めて笑顔を見せてくれた。練習後はいつもこうやって3年生23人で集まって、たわいもない話しをするのだという。しばらく経つと3年生たちは、真っ暗なグラウンドでバッドを振り出す選手と、寮に戻って勉強を始める選手に分かれていった。

 誰もいなくなったベンチの奥には、こんな言葉が貼り出されているのを見つけた。

 2011年スローガン 『最善を尽くす』。

 今の自分にとっての最善を常に取捨選択しながら、自らを高めてきた春日部共栄の選手たち。この夏は甲子園に出て、本多監督に「甲子園10勝目」のウィニングボールを最高の笑顔で届けるつもりだ。

(文・安田未由

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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