Column

熊本国府高等学校(熊本)

2011.05.12

大森学園高等学校

熊本国府高等学校2011年05月12日

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【目次】
1.Field of Dreams
2.野球だけではない
3.昨秋の鹿児島実戦
4.冬を越えて
5.夢をかなえる

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Field of Dreams

【Field of dreams】

 学校のある熊本市から北東方向へ車を走らせること、およそ40分ほどであろうか。熊本市北東部の郊外に位置する合志市に熊本国府のグラウンドがある。

 その周辺には県の農業公園を始め、広々とした大地に牛の放牧やトウモロコシ畑などが続いており、まさにのどかな風景といえる。

 そんな風景に溶け込むような緑基調の両翼96メートル、中堅120メートルのグラウンド。まず、見渡すとセンタースコアボードの下にこう記されている英字が目に留る。

 「Field of Dreams」

 それは何を物語っているのだろうか。

 06年、熊本国府は野球部の発足にあわせて野球部専用グラウンド(熊本国府第3グラウンド)を完成させた。そこにはメイン球場の他に室内練習場、クラブ棟、サブグラウンドなどを備え、面積13,948平方メートルという広大な土地とその施設の充実ぶりは県内屈指といえる。

 そんな熊本国府、創部3年目の春の県大会優勝を始め、毎年、激戦区・熊本で優勝候補に名を連ねるなどその躍進は目覚ましいものがある。今年も49人の新入部員が門を叩くなど現在部員は114名。その人気ぶりはとどまるところを知らない。

 創部当初から指揮を執り、今春で就任6年目となる永薗敏博監督は、社会人野球、NTT九州(元・電電九州)の監督時代に都市対抗に5度、日本選手権に3度も導いた知将である。九州屈指の捕手として活躍した選手時代をはじめ、マネージャー、監督、そしてNTTの再編によるクラブ化されたチームの副部長を含めるなど24年もの間、社会人野球に携わってきたことになる。その経験を生かした采配、そして分析能力や指導方法などには定評がある。

 そして高校野球に携わって6年目。経験豊かな知将はこう言った。

「今までの中でも1番いいチームですね」

【左から浅久野大、金沢、内田、園田】

 今チームには1年春からスタメンに名を連ねる大村勇喜を始め、高校通算23本塁打(4月中旬現在)を誇るプロ注目の稲倉大輝、広角に打球を飛ばす村上諒の大砲コンビなど上位から下位まで抜け目のない打線はまさに脅威だ。

 さらに1年秋から主戦を務める左腕・園田竜也、140キロに迫る本格派右腕・内田樹弥、ともに2年生の右腕・浅久野大地と左腕・金沢和弘という充実した投手陣を誇るなど永薗監督が「1番いいチーム」と分析する根拠がここにある。

 練習試合で対戦した県外の強豪校も「熊本国府さんは本当に強いですね」と舌を巻くほどで、その力は全国の舞台でも十分に勝ち上がれる要素を持っている。

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【目次】
1.Field of Dreams
2.野球だけではない
3.昨秋の鹿児島実戦
4.冬を越えて
5.夢をかなえる

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野球だけではない

【室内練習場】

 しかし、その強さの秘訣は“野球だけではない”ところにある。いわゆる人間教育である。

 日常生活で落ち着きのない子はプレーでもそれが出る。そんなことを経験していくうちに永薗監督は、選手たちにこう言うようになった。

「野球だけうまくても絶対に(試合で)使わない」

 学校生活、寮生活、交通ルール、もちろん野球でもその決められたルールを守らないものには、試合に出場させない。

 さらにこんなことも重視している。誰にでも得意、不得意はある。仮に苦手教科があったとしても、テストの点数を1点でも2点でも自分なりに前へ進んでいくこと。授業にしてもそうである。

「50分の授業を最後まで頑張れなくて、なんで2時間の試合ができるのか」

 “授業態度=野球”それをしっかりと繋げていかなければ、例え、勢いで試合に勝つことはあっても継続して勝つことはできない。そんなことを重視しながら選手たちに人間教育をしているのである。

 大会期間中以外の毎週月曜日は原則として休養日としている。それは決して休日ということではない。体のケアを大事にするとともに頭を使うということに重点を置いているのだ。学校の授業が終わったあと、視聴覚室に集まった選手たちに高校野球のルールはもちろんのこと、一般的なマナーなど社会に出てからも通用する人間になるようにと講義を行っている。

「『社会に出てからもいくら野球ができても野球は野球。逆にこの子は野球をやっていたのだからこの辺が違うな』と思われるような人間にならないといけないよ」と常日頃、選手に言い聞かせているという。
“野球だけではない”
そんな指導ぶりが右肩上がりの成長曲線を描いているのではないか。

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【目次】
1.Field of Dreams
2.野球だけではない
3.昨秋の鹿児島実戦
4.冬を越えて
5.夢をかなえる

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昨秋の鹿児島実戦

【試合シーン・園田】

 「独特の雰囲気に、みんな浮ついていた」

 キャプテンの稲倉がそう振り返ったのは、昨秋の九州大会2回戦・鹿児島実戦(2010年10月25日)でのことである。

 地元開催ということで熊本3位として出場した熊本国府は初戦の久留米商に8対5で勝ち上がると、2回戦で昨夏の甲子園を経験している好左腕・野田昇吾や豪打の揚村恭平など旧チームの主力メンバーがズラリと並ぶ鹿児島実との対戦となった。

 この日、雨が降りしきる悪天候の影響もあり、夕方の5時頃に試合開始のサイレンが鳴った。

 雨でぬかるんだグラウンド、そしてカクテル光線に包まれながらの異様な空気の中、試合が続行された。初回、失策が絡んだこともあってエース園田が7失点と荒れた。

「弱気になっていました。どこに投げても打たれると思い、気持ちで負けていました」(園田)

 7回表の鹿児島実の攻撃を終えた時点で2対11。熊本国府は劣勢どころか、大会規定である“7回終了時点で7点差がつけばコールドゲーム”という窮地に立たされていた。初回の2点以降、スコアボードに“0”を並べ続けた熊本国府はその7回から執念の反撃をみせる。連打や敵失でまず3点を返すと続く8回。4番・稲倉が、鹿児島実のエース野田のチェンジアップを見抜くと打球は両翼99メートルの[stadium]藤崎台県営野球場[/stadium]左翼フェンスを軽々と越え、夜の場外へと消え去っていった。この2点本塁打で1点差。まさに驚異の粘りだった。

 その本塁打を放ったキャプテンの稲倉が「(試合)途中からは、自分たちの野球ができてきた」というように、その九州大会を制し、続く明治神宮大会でも準優勝した鹿児島実と互角に戦えたことで「俺たちもやれるんだ」というターニングポイントになった。

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【目次】
1.Field of Dreams
2.野球だけではない
3.昨秋の鹿児島実戦
4.冬を越えて
5.夢をかなえる

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冬を越えて

【サブグランドで練習する一年生】

 そして冬を迎えた。

 秋の悔しさを練習にぶつけるかのように熊本国府ナインは一生懸命、いや本気だった。
「走り込みでも最後の最後まで手を抜かないようになった」というエース園田の成長ぶりは、目に見えてわかるほどであった。

 もともと球のキレが持ち味だった園田の球速は、昨秋まで常時120キロ後半~130キロ、最速で134キロだったが、一冬を越えて常時130キロ中盤、最速で139キロを計測するようになった。それは今春の熊本大会からスピードガンを導入した[stadium]藤崎台県営野球場[/stadium]の観客をうならせたほどであった。

 さらに昨秋まで打つ方では非力だったという園田は「冬場は例年以上の走り込みに加え、2万本を振り込みました」というだけあって、準々決勝の熊本工戦で二塁打を含む3安打を放ったように打撃でも冬場の成果をみせつけた。

 打撃陣も4番の稲倉が2本、3番の村上と5番・松永康平がそれぞれ1本ずつ本塁打を放ち、5試合で4本塁打を記録するなど打線の厚みもさらに増してきた。

【左から大村、稲倉、村上】

 さらにこんな選手たちの陰の努力も熊本国府の強さの源となっている。練習後、グラウンドから学校までバスで約40分、さらにそこから約1時間かけて帰るという田中就真は、帰宅途中、井手絃貴と一緒に二人でバット振ってから自宅に帰っている。

 今春は背番号二ケタをつけていた選手も負けていない。守備職人・坂本隆充は、練習後も残ってバットを振り続けるなどその陰の努力も徐々に成果となって表れ始めている。

 そんな彼らは、自らの意思で行動をしているのだから本当に大したものである。そしてそれは必ず真の強さとなっていくはずだ。

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1.Field of Dreams
2.野球だけではない
3.昨秋の鹿児島実戦
4.冬を越えて
5.夢をかなえる

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夢をかなえる

【夕暮れのグラウンド】

 3年生にとっては最後の夏となる全国高校野球選手権熊本大会開幕まであと3ヶ月を切った。今春の九州大会を懸けた県大会決勝の千原台戦(2011年04月10日)では、前日の準決勝で延長13回の途中まで192球を投げたエース園田が志願の先発。

 試合は、序盤、3番・村上の圧巻弾などで5対0と熊本国府がリードしていた。しかし、8回、ベンチは疲れが見え始めた園田にリリーフを送った。

 直後、千原台に一挙5点を奪われ逆転を許し、気が付けば試合終了。5対7で敗れ、2季連続の九州大会出場は成らなかった。

 敗れた熊本国府ナインは、胴上げする千原台ナインを見つめながら呆然としていた。

「みんなシーンとなってしまっていた」(稲倉)

 決勝翌日の休養日を挟んでの練習では、永薗監督が選手みんなの前で頭を下げた。

「お前たちはシュンとする必要ない。監督がこれと思ってメンバー決めて、使ったのだから。最後の責任は監督にある。気持ちを切り替えてやりなさい」

 普段から「自分が悪かったら素直に頭を下げなさい」と言って指導している監督自らが頭を下げたのである。

そして決勝の翌日までシュンとしていた選手たちもそれを境に「よし、やってやろう」と気持ちを切り替えた。それは、取材当日の選手たちの姿をみても、そんな気持ちがみてとれるように伝わってきた。そしてキャプテン稲倉が、ナインを代表するようにこう言った。

「このグラウンドには、感謝しています。先輩たちの分まで、自分たちが甲子園初出場という夢をかなえたい」

 Field of Dreams

 それは野球だけではなく、すべての意味で“夢をかなえる”という思いが込められている。

(文・アストロ

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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