Column

県立北村山高等学校(山形) 2/4

2011.01.16

「山形県立北村山高等学校」

山形県立北村山高等学校 第2回 (全4回)2011年01月16日

教育の一環として

室内練習場で練習する選手達

 長靴を履いた選手たちが続々と積雪のあるグラウンドに飛び込んでいく。
一歩、一歩、雪を踏みしめて大きくグラウンドを5周。
雪上ランニング終えると、今度は練習道具のグラブやスパイクを持って、走って移動する。北村山の体育館のフロアは2階にあって、1階部分が剣道場と柔道場、そして、ピロティになっている。このピロティが冬の間の“グラウンド”だ。

 昨年まではグラウンドにあるビニールハウスで練習をしていたが、入り口にたどり着くのに30分かかる。雪が積もった分、掘り進めなければ入り口まで行き着かない。その日、練習できたとしても一晩で元通りに埋まってしまう。

「練習場を確保するために練習ができないっていう日が何回もある。でも、あれが生命線になっているんだなぁって。ハンデと思っちゃえば、どこまでもハンデ」

 今年は思い立ってネット類を押し込めて立派な室内練習場が出来た。ランニングの後、その室内練習場で練習は淡々と進められていった。ゴロ捕球のメニューが2人一組で行われ、終わった組から次の練習へ移る。北村山で「探究」と呼ばれるメニューだ。ボールが詰まった箱を横において、ネットに向かってけん制の練習をしている選手。柱に向かってボールを投げ、跳ね返ってきたボールでゴロ捕球をする選手。コントロールをつけるために的に向かってピッチングをする選手。ピッチング動作の確認をしながらネットに向かって投げる選手。一人ひとりがテーマを持って、課題を追求している。他のチームなら「自主練」と呼ばれるかもしれない。

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室内練習場の一角

 石井監督は「探究」の意図をこう説明する。

「自主練って、私は嫌いなんですよね。テーマを持って、究めようと。元々は、学校が掲げる『探求の精神』からなんです」

 自主練というと、しがらみがない分、どことなく、開放感がある。そうではなく、野球を究めるための時間。石井監督の指導は「探究」に現れているように、学校の教育目標が反映されている。

 北村山の学校が掲げるキーワードは「総合コミュニケーション能力」。それが際立っていたのは、選手たちの挨拶だった。

高校野球で挨拶というと立ち止まって「こんにちは!」と声を張って元気をくれる。だが、北村山の選手たちは「こんにちは!よろしくお願いします!」それも、硬い表情ではなく、みんな笑顔なのだ。北村山で「二言挨拶」と呼ばれるその挨拶は、相手の名前に挨拶で使われる言葉を言った後、もう一言付け加えるものだ。以前、「挨拶とは、相手を認めるということ」と言った人と会ったことがあるが、「挨」という字も「拶」という字も近づくことを意味しているという。名前を呼ばれると親近感がわく。相手を引きつけることができる。

 北村山の教育目標は先に述べた「探求の精神」から始まり、「規律ある行動」、「豊かな個性」、「健康な心身」と続く。今年度は「明るさと勢いのある学校」、「地域に愛される学校」だ。

 「探求の精神」は先に述べた通りで、「規律ある行動」は野球部としての学校生活での姿、練習ではメニュー間のメリハリ。「豊かな個性」は石井監督の「型にはめない」という信条。「一人ひとり、感覚を持っている。型にはめると(感覚のズレで)悩んでしまうので、型にははめないようにしています。バッティングフォームもみんな違うでしょ。一番、気持ちよく触れる感覚を探そうと言っています」。「健康な心身」は体力的な部分もあるが、心もそう。厳しさや辛さに耐えた後や悩みを乗り越えた後には心が強くなる。

 部活動は「おまけ」ではない。学校教育の一環なのだ。

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意識がもたらす力

グラウンド一塁側のフェンスの「FOR THE TEAM」の看板

 むろん、学校に部活だけをやりに来るような選手はいない。「野球をするためには勉強も」と、文武両道だ。2学期の中間から期末にかけて、10人全員で順位を170番上げた。一人平均17番、上げたことになる。

 「野球をするためには勉強をしておかなければならないですよね。それでちゃんと結果を出しておかなければ、野球はできなくなってしまう。まして、夏の大会なんかも、テストの直後だったり、春も県大会がテストに絡んだりする。その中で特別許可願いを出しているのですが、『野球部、全然、勉強していないからダメだ』って言われないようにしたいと」。

 そんな中、中間から期末にかけて、エースの加賀は順位を50番上げた。「元がそれだけ悪かったっていうことなんですけど」と苦笑いの石井監督だが、テストの後には「加賀が50番上がった理由」と題して“講演”をしている。

 「加賀は野球では有名なんですけど、学校ではいるかいないか、分からないんです。存在感が全くないんですよ。でも、いろんなメディアから取り上げてもらったり、大会でも全校応援の中、すばらしいピッチングをして、加賀学ってすごいなってなっていったんですよ」

 そして、石井監督が北村山に赴任した時の錦啓校長先生の話しをしてくれた。

「先生の娘さんが、ヴィッツという車がほしいということで車屋に行ったらディーラーの人から『今一番、流行っていますよ』って言われたそうなんです。10年前ですね。その日の帰りに、ふと周りを見るとなんとヴィッツだらけじゃないかと気づいたそうなんです。今まで視野に入っていたのに、意識には全く入ってこない。だから、情報を仕入れて、意識を持つことで、見えなかったものが、どんどん見えてくるんだっていう話をされたんですね」

 その錦校長先生は野球部にいつも「FOR THE TEAM 常にチームのことを考えなさいよ」と話してくださっている。今でも電話や大会前には手紙も送られてくる。グラウンドの一塁側のフェンスには「FOR THE TEAM」の看板が大きく掲げられていた。

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脱・県民性

選手に話しをする石井監督

 山形の2010年夏の代表は公立の山形中央だったが、それ以前は日大山形酒田南東海大山形など私立が並ぶ(1991年夏に米沢工、1994年に鶴岡工と公立が出場)。

 公立の山形南から私立の国学院大に進学した石井監督は「打倒私学って気持ちは全くなかった」という。

「県内的にそういうのがあるんですよね。私立に負けない、みたいな。でも、私立も公立もやっていることは一緒だと思うんですよ。同じものを目指してやっているので、私学くらいの気持ちでプレッシャーを持って、やっていっていいんじゃないかなと思っているんです」

 辛抱強い、忍耐強いなどいい面もあるが、山形に限らず、東北地方の人間にはどうしても勝負師としては邪魔になる面が出てきてしまうことがある。のんびりしていて、遠慮がちで積極性がない…。

「あいつらには、田舎くせぇなぁって言い続けているんですよ。自己主張できないし、当たらず、触らずでいこうとする。結局、私も田舎者ですが、大学野球をやったお陰で、少し扉を開けることができました」

石井監督は本や雑誌から得る情報よりも人の話を聞いて、自分の目で見て、足を運んでいる。12月19日も香田誉士史氏(現鶴見大コーチ、元駒大苫小牧監督)の講演を聴きに仙台へ行ってきたばかり。講演後は挨拶に出向き、直接言葉を交わしてきたという。

 控えめな県民性からか、来た当初、「北村山」を示すものが全くなかったそうだ。ユニホームには「Kitamurayama High School」の略で「KHS」。他校からは「KHSが来た」とバカにされる始末だった。

「ユニフォームを着たくなくて、デザインを変えると言った時に保護者から『強いときに作ったユニフォームなんだから、変えるわけにいがねぇ』って言われて。『いや、ずっと強くするから変えさせてくださいよ』って。10年かかりましたけどね。漢字で北村山だったユニフォームから、最初の頃のユニフォームがKitakoって入っていたようなので、Kitakoでデザインしてもらいました。オレンジは山形の紅花色。山形代表として、甲子園で山形県の色を出していこうかなと思って入れました。ブルーはKHSからブルーなので、そのまま使っているんです」。

 こうしてチームを1つ、1つ作り上げていく中、結果は出たり、出なかったりの繰り返しだった。以前は甲子園を目指しながらも「一生懸命やっているだけだった」という。

 それが、ある一言で石井監督の目の前が開いた。

(文=高橋 昌江)

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(第3回は1月23日に公開予定)

■北村山バックナンバー

山形県立北村山高等学校 第1回
 

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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