Column

県立宇土高等学校(熊本)

2010.12.10

「野球部訪問」

第11回 県立宇土高等学校 2010年12月10日

90年の伝統と中高一貫教育

【県立宇土中学校、県立宇土高等学校】

熊本県立宇土高等学校は、今年で学校創立90周年を迎えた伝統と歴史のある進学校である。

中高一貫教育―。

最近、よく耳にするようになったこの言葉。同校は、平成21年4月、熊本県で、初めて中高一貫教育校として熊本県立宇土中学校(新制)を新設したことでも知られている。

学校のすぐそばには宇土城跡があり、南側には近世宇土城跡(城山)、西側には国の史跡に指定されている中世宇土城跡(西岡台)など小高い丘が鎮座する。

また、近くには環境庁が選定した日本の名水100選の轟水源があり、豊かな自然環境と歴史が薫る佇まい。さらに来年3月に完成する九州新幹線熊本総合車両基地が近くに建設中など都市的機能を併せ持つ環境にあり、地元でも一際存在感がある学校である。

「○本目~!」

その中世宇土城跡(西岡台)の眼下に広がる田園風景から元気な声がこだましてきた。

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24時間の勝負

【左が横手監督、右が荒巻部長】

文武両道を掲げる宇土高校は県内でも屈指の進学校で、週4日は7時限授業(50分)を行っており、平成16年3月からは2学期制も導入している。

「普段は平日2時間弱なのですが、今日は土曜日なので、いつもとは違う練習ができて、ある意味、贅沢な時間ですね。」そう話すのは、同校野球部の横手文彦監督。

横手監督が掲げるテーマは“24時間の勝負”。

「1分、1分を大事にすることで同じ時間でも違ってくる。勉強、部活、掃除などすべての生活において集中することで、勝負強さを発揮できるようになることが狙いです。」与えられた時間の中で、何をすべきかを頭で考え、集中力を意識する練習が日々粛々と行われている。それは、試合での勝負強さにつながることはもとより、結果的にすべてにおいての人間力の向上になることも意味する。

「しっかりと~、集中して」

練習中、部員の声かけ一つにしても、そんな意志表示が見て取れる。

横手監督とともに野球部の指導にあたる荒巻智弘部長は3年生、横手監督は1年生の担任であり、平日は生徒だけで練習をすることも多い。
「平日、(指導者が)いない時に自分たちの意識で自主的にやること。それもある意味、このチームの強みですね」と荒巻部長の言葉からも築かれてきた信頼関係が窺える。

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継承される“想い

【立派な第三グラウンド、遠くには金峰山が見える】

平成21年夏まで同校野球部の監督を務め、今の野球部の基礎を築き上げてきた荒巻部長は「違ったものの見方や感性を持つ」という“変化”の意味も込め、済々黌野球部の後輩にあたる横手監督にバトンを渡した。

荒巻部長が野球部の監督に就任した当時は学校内のグラウンドで他の部活と共用しながらの練習であったが、平成14年に左翼83m、右翼95m(奥のフェンスまでは107m)の野球部専用のグラウンド(第三グラウンド)が完成した。県内の公立高校としては屈指の規模を誇り、地区の公式戦が行われるほど立派なグラウンドである。

荒巻部長は言う。「当時、元気で活気のある野球部が(学校内の)グラウンドから離れるので“寂しくなる”ともいわれましたね。」
変わったのはグラウンドだけではない。ちょうどその時期は、絶妙のタイミングでもあった。

キャプテンシー溢れる熱い部員が現れた。学校のために何かできることはないか。自分たちでアイデアを出し合い、自主的に朝の清掃活動を始めるようになった。それを引っ張った熱い部員とは、当時の主将である白本匡宏さん(現24歳)である。

「白本は、今のチームの基礎を作ってくれて、その心意気が後輩へと引き継がれています。」と荒巻部長は目を細めた。そのキッカケを作ったことにより、白本さんの一学年後輩は県ベスト16に進出し続けるなど、野球部にいい風潮が出始めた。

そして清掃活動を始めて7年目の昨年、その継承される“想い”が結果となり、第82回選抜高等学校野球大会において、熊本県の21世紀枠の推薦校に選ばれた。

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新たな可能性

【自慢の走力】

今秋の県大会では、夏の初戦で敗れた小国相手に7回コールドでリベンジを果たすなど、順調な滑り出しをみせた。そして迎えた3回戦の相手は県南の強豪・八代東。7回終了時点で4点のビハインドも8、9回に2点ずつを奪い、粘り強く追いついた。しかし、あと一歩及ばず9回サヨナラ負け。

指揮官が「今のチームは、1年の夏から公式戦のマウンドを経験しているエース・井手(陽樹)を中心とした守りのチーム」というだけにミスの絡んだ負けは悔やまれた。主将の佐藤健太はこう言った。「秋はエラーがなければ勝っていた。この冬は特に守備を鍛えたい。」と修練の冬に意気込む。

先にも述べたように今年の宇土高校は、守りのチームであるというが、それだけではない。今秋は、1回戦から3回戦まで、すべての試合で二ケタ安打を記録している。そのことについて指揮官に問うと「そんなに打っていましたか。今年のチームは、50m走を6秒前半で走る選手が多いので、内野安打、バントなど足を使った結果ですかね。」(横手監督)。どの打順であってもバリエーション豊富な攻めができる。この攻撃スタイルも宇土高校の強みの一つである。

現在、2年生11人、1年生20人の計31人。来春には新1年生、さらに再来年には県立宇土中学校(新制)からも入部が予定される。佐藤主将は「後輩が先輩に対して話しやすい雰囲気作りを意識しています。」と声を弾ませた。

受け継がれる伝統、グラウンドから溢れる活気、スポーツマンとしての誠実さなど宇土高校野球部を知らない人でも思わず応援したくなるようなこの雰囲気。

“目指すは宇城地区から初の甲子園”

緑と白を基調としたユニフォームをまとった宇土高校ナインが旋風を巻き起こす予感がしてならない。

(文=アストロ)

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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