県立弥栄高等学校(神奈川)
第8回 県立弥栄高等学校
2010年07月08日
加盟校4132校。
全国の高野連の加盟校数である。(2009年5月時点)
様々な環境の下、全国でこれだけの高校で球児達が毎日白球を追いかけている。
今月から新企画・「野球部訪問」は、全国津々浦々、様々な野球部を訪問。
頑張っている球児や指導者の高校野球への取り組みを紹介していく。
第8回は神奈川の弥栄高等学校です。
4年目の伝統
【加賀谷先生】
弥栄高校は平成20年4月に弥栄東高校と弥栄西高校が再編統合し、芸術、スポーツ科学、国際、理数と専門の学科のある学校としてスタートした。部活動にも力を入れだし、男子バレー部は昨年の全国大会に出場。野球部も春季大会で神奈川の激戦区の中でベスト16に進出、初のシードを勝ち取った。野球部はスポーツ科学科の生徒が多いものの、国際科や理数科の選手も活躍している。
加賀谷先生がチーム作りの参考にしているのは全国2連覇を果たした駒大苫小牧高校や公立の先駆者鷲宮高校など。「25年近くやって甲子園行っていないんだから、他の人達から勉強しながらやった方がいいだろうってわかったんです」と、良いと思ったことはどんどんチームに取り入れる勉強熱心な先生だ。
「ずっと勉強して取り組んできたことが弥栄高校にきてちょうど重なってきたんです。まだ発展途上なので本当の完成形までにはまだ2、3年かかるかもしれない。だけど伝統として、色として出来上がってきた。今のやり方を積み重ねて行けばいいのかなと感じています」。
弥栄高校の「色」を具体的に言うと自立型人間、自分たちで行動できる人間を目標としている。部訓の「声・感動・ひたむき」、さらには野球道や行動指針などで人間性の成長について細かく現されている。
【 佐野 主将 】
理念をチームに根付かせるということは、口で言ってやらせるものではない。「できないから注意するのではなく、できる雰囲気を作ること。」その雰囲気作りで重要なことは上級生が率先して動くことだ。「一生懸命走れというより、3年生が走っている姿を見せれば後輩が同じようにするようになりますよね。」チームの雰囲気をきちんと作れば、それにだんだん自分を合わせていくようになる。やるかやらないか、どっちを選ぼうかとなったとき、やらないとここには残れないなという雰囲気持ったチームは自然と皆が同じ方向を向いていく。
そのチームを引っ張る3年生は加賀谷先生を慕って入部してきた部員も多い。キャプテンの佐野君も中学生のときコーチに「弥栄に良い先生がいる」と進められて入学したそうだ。
その佐野君は「練習もきついけど、普段の行動からしっかりやるということが大変でした。生活が全部180度変わるとは思わなかったです。」と人間性も大切にする弥栄高校の部活動のあり方が見えた。
「練習のメニューはアウトラインだけ決めて、味付けは子どもたちがやるといった感じ。」その自主性はどういう行動に現れていますかと尋ねると、見ていればわかりますと加賀谷先生は答えた。その通り、アップを終えた部員が次々にこの後の練習の流れについて、先生と相談をしだした。「ピッチャー陣はロングダッシュ10本入れてからキャッチボールでもいいですか?」など、アウトラインの決まった練習の中に必要だと思うことを部員が進言して先生と相談しながらメニューが決まって行く。「甘えというか、生徒の考えにやる気を感じなければ怒りますが、そこはもうクリアしているところまで来ていますね」。
実践練習
【実践を意識した打撃練習】
グランドの一角の野球部の練習場所はけして広くはない。しかし弥栄高校のすぐとなりには[stadium]相模原球場[/stadium]があり、球場が空いている日はそこで練習することもある。
球場でメインの練習になるのが「3箇所バッティング」。マウンドとその両脇に投手を置き、それぞれにバッターが構えて3箇所でバッティングの場所を作る。弥栄高校の練習ではさらにそこで各塁にランナーが配置され、1塁側のバッターと1塁ランナー、バッターボックスのバッターと2塁ランナー、3塁側のバッターと3塁ランナーが組んでバッティングと走塁の練習を同時に行う。バッターがケースを決めて、それに合わせてランナーが走る。このときのバッターのルールは「読む」こと。これは駒大苫小牧高校の遠藤友彦コーチの考え方を取り入れたもので、どんな球を打つかのイメージを持つためのものだ。
「打つときは必ず何を打つのか声に出させるんです。カーブを打つときにバッターは『カーブ、カーブ、カーブ・・・』って。」このとき投手にもルールがあり、あえて球種事に決められたセットポジションから投げる。ただ何も知らないで打つよりも知った中で打つ、それは結局は試合にも通じてくる。
【バッティング練習に合わせて走塁練習】
このバッティングのときに守備も入って守備練習も兼ねている。「本当の守備って、1歩目の動きが大切なんです。」それをノックで鍛えることは難しく、打球に対する反応というものは実践に近い形でしか鍛えられないとの考え方だ。ここでもルールがあって、例えば打球がライトフライでもサードを守っている選手やレフトを守っている選手もライトの方に1歩足を出させる。こうやって全員で1歩を意識することが練習の質を高めていく。この練習方法で送球練習までしてしまうと危ないため、送球の練習はまた別にする。そうまでしてこだわるのが守備の1歩目の反応なのだ。バッティング、走塁、守備がかなり実践に近い形の練習になっている。
「僕はいろいろな方のやり方を勉強してきて、コーディネートしているだけなんです」少し強くなったら次のステップに行くというように、どんどん新しいことを取り入れて練習をしてきた。
「手前味噌だけど、なんとなく生徒の表情いいでしょ?」加賀谷先生が言うように、練習に真剣に取り組む選手の表情は真剣で生き生きしている。「自分たちで考えてできるから、楽しいです。縛られていない」そう生徒も話す。
これは加賀谷先生の指導の意図が生きているということ。「好き勝手にやらせているわけではないので、最初はやらせている部分はあります。しかし、自分からやっていくように仕掛ける形にはなるべくしています」。
弥栄高校の挑戦
【弥栄高校部訓】
「私立と同じ土俵でやりたい」その思いを胸に、メンタルトレーニングやトレーニングなどトレーナの指導を元に精神面でも技術の面でも力をつけてきた。それでも私立とは同じにはならない部分はどうしてもある。だからこそ違う強みを出すことにこだわる。
「もちろん力は限りなく近づけて、差を徹底してつめるべきだと思います。でも全部同じになるかというとならない部分を、全力疾走であったり、普段の行動であったり、いろんな付加価値を勝るように付けていく」それは全国で活躍してきた高校の姿で、どんな高校にとっても目指すところなのかもしれない。しかし、それを徹底できる高校は少ない。弥栄高校はそこに挑戦している。
練習でも試合でも全力疾走、全力で声を出して盛り上げ、スタンドだけでなく相手校すら感動させたいと加賀谷先生は言う。そんな弥栄高校は激戦区神奈川県でひたむきに甲子園を目指す。
(文=高校野球情報.com編集部)