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ハングリー精神でさらなるチーム強化目指す 昭和第一学園(東京)【前編】

2018.12.27

 今秋の東京都大会は国士舘が10年ぶりの優勝を果たした。その国士舘が、決勝戦東海大菅生戦と共に苦戦したのが二回戦の昭和第一学園だった。高校野球としてはまだあまり知られていない存在かもしれないが、近年着実に力をつけてきており、強豪校にとっても油断ならない存在となっている。
 高校時代には甲子園出場経験もあり、東京六大学、社会人野球と高いレベルの野球を経験してきている。社会人のシダックス時代には元ヤクルト、楽天などを率いた名将野村克也元監督の薫陶も受けている。そうした野球が徐々に選手たちに浸透してきた成果でもあろう。そんな昭和第一学園を訪ねてみた。

環境ハンデに負けずハングリー精神で戦う

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昭和第一学園野球部

 東京都の西、多摩地区の大都市立川市。そのメイン繁華街となる立川駅の北口からバスで10分ほど、あるいは多摩都市モノレールで二駅の立飛駅から徒歩で10分ほどの住宅街の一角に、昭和第一学園の校舎がある。そして、校舎に隣接し2018年2月に張り替えられたばかりだという人工芝が敷き詰められたグラウンドがある。左翼は70m弱で左中間の膨らみはないが中堅は120m、右翼線は96mとることが出来る。

 とは言え、グラウンドそのものは野球部専用とはなっていない。通常は授業が終了して、15時30分から練習開始となるが、平日は最初の2時間は全体の4分の1面くらいしか使用出来ない。つまり、ダイヤモンドの内野部分のみが使用可能ということになる。従ってその時間はマシンを使ってのバント練習や倉庫前での筋力トレーニング、使用可能なグラウンドの隙間を見つけてのティーバッティングや素振りがメインとなってしまう。

 そして、17時30分からは火曜と金曜が半面、水曜と木曜は全面使用できるので、その時に走者をつけてのシートノックや連携プレーなどを、完全下校となる20時まで、みっちりやるという方針だ。

 こうした必ずしも恵まれているというわけではない環境だ。それでも、2014年に就任した田中善則監督は、「都内では、校舎に隣接してグララウンドがあるということだけでも、授業が終了してすぐに、移動時間なしで練習に取り組めるのはいい方」と、環境に対しては嘆くというよりも、積極的に受け入れていこうという姿勢だ。

 田中監督は1984年に法政一(現法政大高)で春夏の甲子園を経験し法政大を経て、その後は社会人野球の名門たくぎんに進んだ。しかし、時代の流れでたくぎん野球部が休部したことで、新たにスタートを切ったシダックスに移籍した。後発のシダックスは企業チームで都市対抗本大会出場を目指してはいたがグラウンドは都内に専用球場を持っていなかった。だから、少年野球などが使用している飛田給の関東村グラウンドを間借りしながら練習に取り組んできていた。それでも、並み居る強豪に伍してきたという自負もある。

 「専用球場を有している、大きな企業チームのグラウンドでオープン戦などをさせていただいた時には、こういう環境のところに負けないぞという意識は、逆にむしろ芽生えていった」という。だから現在も選手たちには、この環境のハンデをバネにしていくことを説いている。

 「遠征などで、専用球場のある所へ窺わせていただいた時は、『ああ、いいグラウンドだなぁ。こんなところでやれたらいいなぁ』と思うだけではなくて、こういう環境でやれているところに、自分たちは負けてはいけない、こういう環境の恵まれているところに勝って行かなくては、甲子園へは行けないんだ」そんな意識を強く持つことで、選手たちのハングリー精神を刺激している。

 「すべてに恵まれているというのではなく、何かが足りない方が、むしろ向上心を刺激していくという意味ではちょうどいいんですよ」と、シダックス時代に自身も体感したことをベースとした考え方でもある。今、与えられている環境で精いっぱい努力していこうという姿勢を浸透させている。

[page_break:夏の反省を生かし初の近畿大会へ]

投手軸に・守り勝つチーム作り

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期待の1年生投手陣、館慎太郎君(左)と風戸佑斗君(右)

 それでも、学校側も全国大会に出場するハンドボール部などとともに強化指定部の一つとして入学条件などを多少優遇しているというシステムもある。また、環境的にはかつての営繕倉庫が老朽化したことで、そこを取り壊して3人の投手が同時に投げられるブルペンが設けられた。投手が投げる部分と捕球する部分には屋根もあることで、多少の雨でも投球練習は十分に出来るようになっている。

 そうした中から、この秋季大会でも活躍した館慎太朗君、風戸佑斗君という二人の1年生投手が頭角を現してきた。風戸君が先発として投げ、後半を館君が抑えるという形で戦っていくことが多かった。背番号1をつけていた館君はストレートを武器に「この秋は、初の公式戦だったけれども、緊張することなくしっかりと腕を振って投げられたことはよかった」と振り返りつつも、「途中で制球を乱したところが課題だった」と感じている。そして、その克服として徹底した走り込みやウエイトトレーニングでの下半身強化を目指している。

 一方の風戸君は、制球にはある程度自信はあるというが、大事な場面で高めに浮いたところを打たれたのが最大の反省点だという。そのことで、1球の大事さを改めて知らされた。それでも、秋季大会の実感としては「まだまだ上へ行けたはずだ」と感じている。自分自身の今後の練習テーマに関しては、「下半身強化に取り組んで、スピードもアップしていきたいし、そのためには筋肉を増やしていく筋トレや体を大きくしていくことに取り組みたい」という思いだ。

 投手コーチとしては、市立川口→東海大で社会人野球では朝日生命で都市対抗野球にも出場している古谷信之コーチがアドバイスしている。田中監督がシダックス時代に朝日生命に補強選手として加わったのでチームメイトとして一緒に戦ったという縁でもある。ほぼ毎週土曜日、古谷コーチがアドバイスを与えて、課題に関しては、1週間後に確認していくという形だ。

 そして、秋季大会では2人の1年生投手が軸にはなっているが、この冬のトレーニングを経て2年生も含めて新たに台頭してくる選手にも期待している。また、そうした競い合える環境が、「投手を中心として、守勝っていくチーム」というチームを支えている。

 前編はここまで。後編ではチーム力強化に奮闘する捕手の存在や、西東京で一番良いチームを目指すための取り組みに迫っていきます。お楽しみに!

(文・写真=手束 仁

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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