Column

打ち克つことができるスケールの大きいチームへ!都立小平西

2018.12.08

 

 上昇を予感させる勝利だった。
 東京都一次予選が開幕した9月8日、いきなり波乱が起きた。第1ブロックの1回戦で都立小平西がなんと今夏西東京大会準優勝の日大鶴ヶ丘を破ったのである。

 いかにして都立小平西日大鶴ヶ丘を破るほどのチームになったのか。彼らの練習の様子を見るために都立小平西へ取材に向かった。

限られた環境下での練習

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都立小平西野球部・石田幹雄監督

 日大鶴ヶ丘を撃破を語るうえで、まずキーパーソンとなるのが石田幹雄監督である。
 2016年春に赴任してから、今年で3年目。その前は都立小平高校を率いて、西東京ベスト4に導くなど上位進出チームに育て上げた。また、強豪校に対しては戦略を尽くして戦う監督として有名で、2015年の秋季都大会では清宮幸太郎擁する早稲田実業相手に延長戦の好勝負を演じた。

 そんな石田監督にとって、都立小平西に赴任した当時は驚きの連続だった。
 「ここに来たときはバッティングも試合もできないような環境で、どうやってやろうかなと考えました。」

 去年の3月にやっとバッティングができるようなネットが設置され、現在はバッティング練習をすることはできる。だが当初は今ほどの設備が整っておらず満足にバッティング練習ができなかった。

 それだけでなく、校庭を他の部活と併用するため、練習メニューが制限されている

 「今日のように校庭が4分の1の場合は内野だけになります。ただ、校庭が半分使える時は外野の守備や内野をあえて深い位置に守らせたノックをしますね。」

 取材当日も、練習場所の校庭を見渡せば、サッカー・ラグビー・ソフトボール部が校庭を使う状況。そのため各部活で使える広さも限られ、結果として練習内容にも影響を及ぼす。
使える環境によってやるメニューも変えることを余儀なくされる都立小平西の練習。

 しかし石田監督は、「スケールの大きいチームを作りたい」という信念がある。それは石田監督が野球に対してある考えを持っているからである。

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スケールの大きいチームを目指して

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ノックの様子

 その考えとは、投手と打撃の強化である。
 「結局、投手が打たれれば失点してしまうので、守備は結局のところそんなに変わらない。ですので、投手と打撃を強化すれば勝てると思います。」
 だからこそ、石田監督は守備に求めることは決して高くない。当たり前の打球を捌けることを選手たちに求める。そういった意識があるからこそ、まずは手投げのボールを処理するところから都立小平西のノックが始まる。その後、実際にノッカーの打球を処理する。

 取材日は広く校庭を使えなかったこともあるが、手投げのボールの処理から始めることで、基本的な打球への入り方などを身体に染み込ませている。

 こうした守備の意識とは対照的に、バッティングには力を入れている。
 「今夏は打てなかったので、夏休みは練習の最初と最後にチーム全員で素振りを100回やりました。」

 都立小平西は今夏、日大桜丘相手に完封負け。監督の目指す野球ができなかったことを理由に、新チームから打撃強化に着手した。その一環として取り組み始めたのが、素振り100回を練習の最初と最後にやることだった。

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練習終わりの素振りの様子

 ただの素振りでも、一工夫が施されていた。それは、複数のバットを使うことである。800gや900g、さらには1200gの重さがあるバット。また長いバットに片手で振るような短いバットに、バランスが違うバットなど、パッと思いつくだけで10種類にもなる。

 これだけ豊富なバットの種類は中々見たことがないが、これだけのバット種類があるのは石田監督なりの理由がある。例えば重さであれば、
「重いものばかりを使うとスイングが崩れますので、軽いものを使うこともあります。また軽いバットを使うことで、素早く振るための神経の使い方を身体に学ばせる狙いもあります」

 他にも短いバットであればバットコントロールのアップを狙うなど、それぞれに理由があって、練習に取り入れている。だが最終的な目標は2つ、スイングスピードとバットコントロールの向上である。この2つを向上させなければ打力アップには繋がらない。自分の思い描く、打ち勝つ野球にならない、と判断したからこその改革だった。

 素振りの時はどのバットを使うか、個人に任せているというが、結果として打力が向上した。敗れた國學院久我山戦では長打2本と、石田監督が語るようにまだ長打がどんどん出るわけではないが、ヒットは計11本飛び出し、単打で繋いでいく打線ができた。

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シードを掴むためにチームに緊張感を与える

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都立小平西は練習の最後に校歌を歌っている

 そして投手には、監督が1年生からベンチ入りさせ、旧チームからエースを担っている野﨑師がいる。野崎について石田監督は、
「野崎はスライダーが凄いので、多い時は二桁くらい三振を取れる」と語り、そこからチームにリズムが生まれている。そのリズムが攻撃に繋がって、点数を奪えたのが秋の勝因だと分析する。

 このスタイルが発揮できたからこそ、今夏の西東京準Vチームである日大鶴ヶ丘を倒すことができた。だが逆に都大会の2回戦、國學院久我山戦ではリズムに乗れずに初回だけで6失点。そのまま國學院久我山を止めることができず、6対14で敗れる形となった。この試合で野﨑のボールを受けていたキャッチャーの関谷修司は、「エラーが続いてしまい考え込んだことで慌ててしまった」と振り返る。

 石田監督も同じような意見を口にした。「公式戦ではエラーらしいエラーはなかったと思いますが、あの試合では、先頭が投手の頭を超す小フライで出塁。バントの後にショートのエラーで出塁。それで四球を出してリズムに乗れませんでした。しまった、という感じです」

 自分たちのスタイルで野球をすることができずに敗れ去った都立小平西。しかし秋の都大会に出場できたことで、来春はブロック予選がない。いきなり都大会からのスタートとなり、公式戦に向けて準備する期間が少しだけ長い。

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都立小平西

 このオフシーズンに打撃だけではなく、体力作りもテーマに掲げた石田監督。バットを振らせることはもちろん、ロングティーで飛距離や回転の良い打球を飛ばすことで打撃強化を図る狙いだ。
 そして体力強化として、山梨学院へ練習試合に行った際に教わったトレーニング方法などを取り入れながら、選手たちの基礎的な部分の底上げを目指す。

 そんな石田監督に来春への意気込みを伺うと、「急には強くならないですが、今秋の大会でベスト16に入れなかったので、来春はそこを目指して夏のシードを取ろうと話しました」と語る。

 今回インタビューした石田監督は、時折笑顔を見せてくれるがどこか落ち着きがある。経験がモノを言う、という言葉があるが、まさにその通りの立ち振る舞いだった。

 そんな石田監督について、野﨑、関谷バッテリーに話を聞くと、「結果にこだわる監督ですが、そのおかげでチーム内にはいつも緊張感があります」とコメント。

 常に結果を求める石田監督のもと、都立小平西が強豪を打ち破るための力を身に付けることができれば、おのずと結果がついてくるだろう。

(文・写真=編集部

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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