Column

智辯和歌山 打倒・大阪桐蔭を合言葉にした1年間 直接対決を制し夏の頂点へ

2018.07.14

 今春選抜準優勝の智辯和歌山智辯和歌山の強さを発揮するのは夏である。甲子園出場22回で歴代9位の36勝、優勝2回、準優勝1回、ベスト4は2回、ベスト8は1回と名門中の名門である。

 今年のチームは打倒・大阪桐蔭を合言葉にして1年間を送ってきた。いよいよ7月14日、大会初戦を迎える。6度目の対戦実現を誓う智辯和歌山はどんな思いでこの1年を送ってきたのか。5度対決したからこそわかる大阪桐蔭の強さ。そこから学び夏に向かう智辯和歌山ナインを追った。

練習から大阪桐蔭を意識

智辯和歌山 打倒・大阪桐蔭を合言葉にした1年間 直接対決を制し夏の頂点へ | 高校野球ドットコム
雨の中、ノックを受ける選手たち

 打倒・大阪桐蔭
 この言葉は全国の学校が意識していることだろう。その中で最も「打倒・大阪桐蔭」を意識しているのは智辯和歌山だ。今年の3年生は入学から5回も直接対決をしている。しかし残念ながら全敗で終わっている。

2017年 春季近畿大会 3対6
2017年 第99回大会  1対2
2017年 秋季近畿大会決勝 0対1
2018年 選抜大会決勝  2対5
2018年 近畿大会決勝 1対3

 5度の屈辱。だから練習中、口々に聞かれるのは、大阪桐蔭を意識した言葉だ。

 例えば雨の日。智辯和歌山は、多少の雨でも、雨の中の甲子園でプレーすることを想定して、ノックをする。ノッカーを務めるのは高嶋仁監督。高嶋監督は自分自身でも「70過ぎた年寄りの打球ですから」というように、決して球足が鋭い打球を打つわけではない。だが、捕れるか捕れないかのところへ打つ。捕れないと、
「年寄りの打球が捕れないのか?それで大阪桐蔭に勝てるのか?」
と高嶋監督の檄が飛ぶ。そして選手から「勝てます!ノックお願いします!」と高嶋監督に要求する。ひたすら1時間ほどノックを打ち続ける高嶋監督。

 そして晴れた練習日。ノッカーを務めるのが智辯和歌山OBで、阪神、楽天、巨人の3球団でプレーした中谷仁コーチだ。中谷コーチはノックを終えると、課題になった連携プレーについて指摘が飛ぶ。その内容は理路整然。カットマンの位置、外野手の肩を読んだものなど、基本を説いた。そしてその指摘の最後に中谷コーチは
 「そのプレーで大阪桐蔭の藤原(恭大)を刺せるか?刺せないだろ!」
 中谷コーチも大阪桐蔭を意識した指摘で選手たちに自分たちの未熟さを実感させる。練習中から強烈な対抗意識をもって日々の練習に取り組んでいるのだ。

[page_break:取られたら取り返す。選抜では智辯和歌山らしい野球を発揮]

取られたら取り返す。選抜では智辯和歌山らしい野球を発揮

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チームを引っ張る文元洸成主将

 1年半前、智辯和歌山は主砲・林晃汰が右ひじ手術で戦線離脱。秋は林が欠いた状態でスタートした。さらにスタートしたのは8月中旬。すぐに新人戦に突入。主将の文元 洸成は「とにかく期間が少ないし、ぶっつけ本番で公式戦という状態だったので、不安の方が大きかった」と当時の状況を振り返る。

それでも県大会優勝、近畿大会準優勝としっかりと成果を残した。高嶋監督は「チーム力は上がったと思います」と手応えを実感。主将の文元は「林がいないということが分かっていたので、いかにつなぐことを意識していました。それがしっかりと現れたと思います」
 頼みの主砲がいないからこそ、個々がしっかりと勝てないと危機感を感じたナインは成長を果たし、林が「復帰したとき、レギュラーになれるか逆に不安を感じました」というほど成長を見せた。

 冬場ではロングティー、ティーバッティング、マシンでのバッティングではとにかく量を重視。小さくまとまらずフルスイングを徹底し、打力を身に付けた。

 そして選抜。打たれたら取り返す。智辯和歌山らしい野球を見せた。特にそれを発揮したのが、準々決勝の創成館戦だ。5回表終わって、2対7の5点ビハインド。
 高嶋監督はこう一言をかけた。
 「励まし?そんなことはしていないですよ。負けたら帰ってすぐ練習やと」
 文元は帰った後の練習を想像した。このままでは負けてられないと。
 「負けたら、帰ってから死ぬんで。それなら今、死ぬ気で勝ちたいという感じになりましたね」

 選手たちは高嶋監督の言葉に発奮したのか。5回裏には4点を返し、1点差に。その後も両チームの打撃戦が続き、最後は2年生打者・黒川史陽のサヨナラ安打で逆転勝利。文元は「打たないと勝ちはなかったので、ほんとに悔いがないように、夏に繋がる試合がしたいということで、1人1人が積極的に勝負しにいった結果が、攻略できたと思います」

 そして準決勝の東海大相模戦でも打撃戦を演じた。6回終わって5対10と5点ビハインド。しかしここから追いついて、延長戦の末、勝ち越し点を挙げ、決勝戦に進出した。文元は、チームとして収穫がある一戦だと振り返った。

 「エラー続きで、失点した内容も悪く、試合の流れは悪かったんですけど、その中でも、1人1人、切り替えれたというのが逆転できた要因だと思います。
 東海大相模は本当にハイレベルなチームでした。全国優勝を狙えるチームに勝てたというのは、冬やってきたことが、間違ってなかったというか、取り組みとして正しかったということがそこで分かったので、大きな自信になりました」

 高嶋監督は2試合の逆転劇を振り返り、
 「取られたら取り返す。ようやく甲子園で智辯らしい野球ができたと思いますよ」
 データで振り返ると、高嶋監督の言葉を見事に体現している。決勝戦まで打撃では打率.336 2本塁打 34得点。投手陣は防御率6.16と、これまで選抜のファイナリストでは考えられない防御率を出しながらも勝ち上がっていた。

 しかし大阪桐蔭の壁は厚かった。
 根尾 昂を攻略出来ず、2対5で敗れ、準優勝に終わる。そして春の県大会では優勝を収め、近畿大会では決勝まで勝ち進み、再び大阪桐蔭と対戦した。直近では5度目の対決。しかしまたも及ばなかった。11安打を放ちながらも、1対3で敗れてしまった。

[page_break:大阪桐蔭と5回戦ったからこそ語れる大阪桐蔭の強さ。そして克服するべき課題]

大阪桐蔭と5回戦ったからこそ語れる大阪桐蔭の強さ。そして克服するべき課題

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名将・高嶋 仁監督

 大阪桐蔭に勝てない。大阪桐蔭の強さは何か。高嶋監督は
 「接戦に強いことですよね。そして根尾君は本当に良い投手でしたね。2度目の対戦ではここぞという場面で長打が打てる。うちは11安打を打っても長打がなかった。守備のシフトを見ていると、うちを研究していますし、それをさせないところに強さを感じるんです」
 智辯和歌山の強力打線を封じた大阪桐蔭のバッテリーの配球、そして大阪桐蔭の守備を評価していた。そして主将の文元は根尾の精神力の強さを評価する。

 「今までやってきたピッチャーだったら、ある程度、点を取ってしまえば、ひるんでくれるんですけど、選抜の決勝戦でも2点を先制してくれたんですけど、まったく精神的なブレがなくて、そこが一番根尾くんのいいところで、一番やっかいなところだと感じました」
 そして大阪桐蔭の強さをこう評する。
 「やっぱり最終的には負けてるところです。いけるんじゃないか、いけるんじゃないかっていう中で試合してきて、結局9回終わったら負けていたというところですかね。大阪桐蔭は『勝負する姿勢』が一味違いました」

 また2年生捕手の東妻純平は「甘い球を逃さないところが凄いかなと思いました。長打を打たれてしまうような状況を作ってしまった僕のリードにも責任がありますが、そこが強いなと感じました」
 さらにスラッガー・冨田泰生
 「向こうのクリーンナップに比べて僕らは物足りないですね。やはり長打も打ってるし、チャンスのところで、しっかりランナーを返す技術を持っています。ぼくらに根尾君のような好投手にそれができる実力がないと痛感しました」

 好投手を攻略できる実力がまだ足らないと実感した。
 大阪桐蔭と戦ったからこそ学んだことがある。文元はこういう。
 「やっぱり現時点は日本で一番強いチームだなと思いますし、技術もそうですけど、やっぱり野球に取り組む姿勢であったり、学ぶことは多くあると思います」
 選手たちは練習前で文元を中心に練習のテーマを話したり、しっかりと目標を話し合う姿があった。取り組み面でもしっかりと突き詰めていこうと考えている。

 智辯和歌山は6月、追い込み練習を行い、大会が近づいた。打線では好投手から長打を打てるチームを求め、守備では連携プレーを鍛え、投手陣では平田 龍輝小堀 颯、2年生の根来 塁池田 陽佑の4人を中心にレベルアップに取り組んでいる。

 文元は「大阪桐蔭とはあとちょっとのところまできています。あとちょっとの差がいつも大きくて、そこでい負けてるので、そのちょっとというのをもう一歩頑張れなければ、また夏同じことを繰り返すので、あとちょっとのことを詰めていけるよう練習をしてきたので、それを夏に見せたいと思います」

 文元に続き、主砲の林も「とにかく準備をしっかりして、同じ失敗を繰り返さないようやっていきたいです」と意気込むと、林とともに長打を期待される冨田も
 「大阪桐蔭とやるには県大会を絶対勝ち抜かないとだめなので、和歌山大会で厳しい戦いが待ってると思うんですけど、そこでしっかり勝って、それでまた甲子園で、ハイレベルなチームと戦えたらと思ってます」

 智辯和歌山は彼らが入学してから5回、そしてこのチームになってから3回も大阪桐蔭と戦ってきた。大阪桐蔭の強さは最も実感している。だからこそ学べたことは多い。

 6度目の対決実現へ。甲子園出場は最低ライン。ライバルとの対決で学んだ経験を最大限に生かし、打倒・大阪桐蔭を実現。そして最後は3度目の夏の甲子園優勝を目指していく。

(文=河嶋宗一

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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