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立正大立正(東東京)「誰もが感動するチーム」として東東京に一大旋風を

2018.05.05

 7月1日から開幕する第100回全国高等学校野球選手権記念大会東・西東京大会。東西とも各校の実力が拮抗しており、激しい戦いが予想される中でも、特に注目に値する学校が東東京地区にある。
 昨秋東京都大会ベスト8に進出した立正大学付属立正高等学校(以下、立正大立正)。1872年創立の「日蓮宗宗教院」を起源に1904年・日蓮宗大学林中等科として創立された同校は創立119年目での甲子園初出場を射程圏内においている。
 では、野球部はどのようにして躍進へのレールを敷いていったのか?今回は、2001年夏・日大三(西東京)の甲子園優勝メンバーであり、プロ野球も経験した内田 和也監督が目指す「誰もが感動するチーム」をキーワードに、夏の旋風を目指す彼らを追っていきたい。

「名将の言葉」基盤に「経験をミックス」
 

立正大立正(東東京)「誰もが感動するチーム」として東東京に一大旋風を | 高校野球ドットコム
立正大立正野球部

 2001年夏の甲子園で、現在は東京ヤクルトスワローズの貴重な中継ぎを務める近藤 一樹をはじめ、4人が高卒プロ入りしたタレントを擁し甲子園初戴冠を果たした日大三(西東京)。その3番・外野手としてチームをけん引したのが現在、立正大立正で就任3年目を迎える内田 和也監督である。

 2001年秋のドラフトではヤクルトスワローズから4巡目指名を受け、同球団で4年・西武ライオンズで1年間選手生活を送った後は、一念発起し早稲田大通信課程に進学する。教職課程を学びつつ、東京玉川リトルシニア・世田谷南ボーイズ・野球塾で指導に携わる日々。その脳裏には常に日大三の恩師・小倉 全由監督の言葉が刻まれていた。
 「俺よりも時間が制約され、グラウンドも狭い中で甲子園に出ている監督さんの方がずっと偉いんだよ」

 「立正大立正は専用のグラウンドもなければ、最終下校も19時と決まっている。小倉監督の言葉があったからこそ立正大立正の監督をやろうと思いました」2016年春、高校指導のスタート地点を立正大立正に定めた理由の1つもその言葉があったからである。

 ただ、内田監督の指導法は「選手へのフォローの仕方、言葉のかけ方、距離感をモノにしたい」としながらも、小倉監督とはやや角度を変えている。

 端的に言えば、自らが経験した日大三・プロ野球の選手経験。さらに中学・小学生への指導経験をミックスした指導法。なぜ「ミックス」なのか?
 「プロ野球選手は野球の天才ですから、彼らがやっている感覚をそのまま選手に伝えても、伝わらないというか、間違った解釈をしてしまう。だから私なりに解釈をして、伝えるようにしています」

 一例をあげれば打球を捉えるポイント。内田監督は指導法について、教師としての生徒たちへの接し方も交えてこう解説してくれた。
 「プロの世界でも、前のポイントで打って活躍した選手もいれば、後ろのポイントを打って活躍した選手もいる。つまり、選手によってどのポイントが合うのか違います。だから、私が選手を指導するときは前のポイント、後ろのポイントのメリット、練習法を伝えるようにしています。
 教員は生徒の習熟度の違いによって、その生徒に合った問題の解き方を教えます。私の指導は、そんなことも踏まえ、いろいろな経験を通して出来上がったやり方です」

 もちろん、中学年代の指導もそこに活かされている。
 「私の場合は最初に中学生の指導を経験したので、高校生を指導すると中学生よりも体ができているので、技術的な飲み込みも速い。
 また、これはプロや高いレベルでやってきた方にありがちな傾向ですが、指導すると『こんなこともできないのかよ』とまずなる。それでもそれをかみ砕いて、選手の目線に合わせて教えるのが指導者の仕事です」

 事実、選手たちに内田監督の指導を聞くと「わかりやすい」と口をそろえる。中学時代にも内田から野球塾で指導を受けた主将の青木 大空(3年)は、その内容を詳しく話してくれた。
 「内田先生は課題を指摘するだけではなく、必ず練習法を教えてくれるんです。
 
 高校に入っても『外角球を左中間に打ち抜きたい』と先生に相談したら、まずは体幹を鍛えること。そして体を開いたままのティーバッティングを教えてくれました。そうすると本当に打てるようになりました」

 昨秋都大会3回戦錦城学園相手に3打席連続三塁打を打った神尾 優人(3年)も、内田監督の指導によって外野守備が上達した選手の1人。
 「先生から『ノックよりも実弾捕りで捕球したほうがよい』いとアドバイスされました。『実弾捕り』は、金属バットで全力で振った打球を捕ることをいうのですが、スタートの仕方を教わった上で、この練習を行ったら守備がうまくなりました」

 中学時代から有名だった選手はほとんどいなくても。このように内田監督の細やかな指導によって実力を伸ばした選手たちは、立正大立正・昨秋都大会ベスト8の原動力となった。

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「紅白戦」でチーム力上げ、秋都大会ベスト8へ

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トレーニング中の様子

 とはいえ、現チームは昨夏の立ち上げ時から強さを有していたわけではない。「突出した力があるわけではなく、むしろ去年の方が力は上」と内田監督も評するように、エース・長瀬 嶺也(3年)、主将で4番の青木を除けば試合経験が少ない選手たちばかり。そこで指揮官はあるチャレンジを決断する。

 まずは60人を4つのチームに分けての紅白戦。ここではコーチ・外部指導者がそれぞれのチームの監督となる一方で、内田監督はベンチに入らず。俯瞰する立場で試合を見ながら、メンバーの絞り込みを進める。

 その後、3チーム・2チームと絞りながら出来上がったのが昨秋のチーム。亀山 矩人(2年)など、レギュラーのポジションをつかんでいった選手たちも次々と出現する中で、チームは戦い方のツボをつかんでいった。

 「私たちだけではなく、選手たちの中でも計算が立っていたのでしょう。試合運びを見ていても落ち着いていたと思いますし、都大会で勝利した試合はすべて先制点を挙げていて、中押し・ダメ押しができました」(内田監督)

 準々決勝では国士館の前に7回以降失点を重ね1対4で敗れた立正大立正。「今までは勝てたのに負けてしまったという負けでしたが『高いレベルで勝つためには何が足りないのか?』が明確になった」と主将の青木も語るように、頂が垣間見える場所まで到達したからこそ得た収穫と課題を胸に、彼らは冬の練習へ向かった。

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「誰もが感動するチーム」として夏の東東京へ

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立正大立正 内田和也監督

 「約300校分の8」。快挙によって立正大立正野球部を取り巻くすべての物事が変わった。「凄いなぁ。選手も自信になったことだろう」と、大会直後に日大三・小倉監督から祝福の電話をもらった内田監督が振り返る。

 「今まで練習試合では挑戦する立場だったのが、今では『相手からベスト8のチームとやらせてもらいます』と言われる立場になった。その声を聴いて正直、選手、マネージャーからの戸惑いも感じました」

 上位進出者ゆえの宿命。「ここでただ過ごすのみで終わったら、また元の立場に戻るぞ」内田監督はあえて現実と向き合わせ、「上位に勝ち進んだチームのほとんどが2年生の段階ではできすぎと思うぐらい体ががっしりしていた」体感を基に選手たちへ身体づくりの重要性を説いた。

 そこで柱になるのはやはり主将の青木とエースの長瀬。昨秋都大会8打数4安打、練習試合含め新チーム立ち上げ時から冬までに6本塁打を放った青木について指揮官は「当てる能力が高く、練習試合で他校の監督さんから『投げるところがないですよ』といわれるぐらい」と評価。本人も「秋はチャンスで打てなかったので、満足していない。得点圏打率10割を目指しています」と目標を高く掲げる。

 一方、入学時168センチだったが今では175センチと伸び、まだ骨が大きくなる骨端線が残っている長瀬は、成長を阻害しないようにサーキットトレーニングなど敏捷性と瞬発力を高めるトレーニングを重視。秋までの最速は137キロも、それ以上に伸びのあるストレートを武器とするが「順調にいって夏に大化けしてくれれば」と内田監督は期待。本人も日々「細かいコースの投げ分けができること」を課題に取り組んでいる。

 では、夏の東東京大会での到達点は?内田監督は勝敗の先にあるものを語った。
 「まずは負けないチームになることと、最後まで諦めない熱いチームにしたい。そして昨秋の戦いぶりを見て感動してくれたわが校の生徒もいたので、もっと感動できるチームにしたいと思います」

 春の都大会2回戦駒大高に逆転負けに終わり、再びノーシードから東東京の戦いに挑むことになっても、目指すものは変わらない。「誰もが感動するチーム」。それが具現化したとき、2018年夏の東東京には「RISSHO」旋風が吹き荒れるはずだ。

(文=河嶋宗一

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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