Column

東福岡(福岡)真に自立し、11年ぶり甲子園へ!

2018.04.21

 大阪桐蔭(大阪)が連覇を遂げたセンバツも終わり、いよいよ高校野球は第100回記念大会の夏へ。史上最多の56校が参加する今大会では福岡県ではじめて「北福岡」「南福岡」での2校出場が実現する。その南福岡で11年ぶり5度目の夏甲子園を狙うのは日本トップクラスのサッカー部・ラグビー部含めスポーツ界で燦然たる地位を残す東福岡だ。
 過去にはNPB通算1865安打の村田 修一(ルートインBCリーグ・栃木ゴールデンブレーブス)や、名手・田中 賢介(北海道日本ハムファイターズ)をはじめ、多くのプロ野球選手を輩出している名門野球部のベースにあるモットーは「自主・自立」。今回は下野 輝章監督と選手たちに、これまでの道のりや夏へ向けての意気込みを聴く中で、「真の自立」について考えていきたい。

青年監督と選手たちのハーモニーで「強打の東福岡」へ 

東福岡(福岡)真に自立し、11年ぶり甲子園へ! | 高校野球ドットコム
エース 金光 雄紀選手

 「最初は金光 雄紀(3年)と村上 喬一朗(3年)のバッテリーが中心。夏の経験者も少なく、不安は大きかったです」
こう語るのは現役時代は東福岡の絶対エース、打撃でも1年後輩の吉村 裕基(福岡ソフトバンクホークス)と共に主軸として鳴らした34歳・下野 輝章監督。2001年センバツでは当時史上初・今も2013年・浦和学院(埼玉)高田 涼太(立教大~JFE西日本)と共に名を刻む3試合連続本塁打を放ちベスト8入りに大きく貢献。その後、日体大、日本生命で投手を続けた後、2011年4月から母校の副部長兼コーチに就任。昨年6月には37年間に渡り指揮を執り、春2回・夏4回の甲子園出場を果たした葛谷 修監督から引継ぎ、指揮を執ることになった青年指揮官だ。

 すでに昨夏の福岡大会で3試合の指揮経験(4回戦で久留米商に敗退)はあったとはいえ、下野監督にとっても新チームの立ち上げは初。様々な部分で不安を抱えていたチームは、8月に行われた新人戦(第4回福岡地区高等学校新人野球大会)で、大きな成長を遂げる。

 3回戦で昨夏の準優勝・福岡大大濠を8対0で破ると、勢いに乗りベスト4進出。「夏を経験した選手が少ない割に良いスタートが切れた」(下野監督)中で、中学時代は松山リトルシニア(愛媛)で活躍し、東福岡でも主将で5番を打つまでに成長した大西 龍聖(3年)、俊足強打の2番・村上、練習試合から勝負強い打撃を見せていた4番・福田悠人(2年)らが台頭し「1番から8番まで長打を打てる確率が高い選手がそろっています」と大西も自負する強力打線が完成した。

 では、彼らはなぜ急成長を遂げたのか?下野監督はこう語る。
 「打つことが好きな選手が多く、勝負強い選手が多い。さらに自分たちで考えて練習ができるのが新チームの特徴。かつ打力があると、攻撃のバリエーションが増える。そこで特に制約を持たせることなく、彼らの感性を生かすチーム方針にしました」

 選手たちもこの方針に工夫で呼応する。ここは主将の大西に聴こう。
 「今のチームはストレートに強い選手が多い。でも、それができるのはチーム全員で、タイミングを取る練習を図ったり、個人で狙い球を絞る姿勢を大事にしてきたからだと思います」

 結果、秋の福岡県大会東福岡打線は素晴らしいハーモニーを奏でる。3試合連続で2桁得点を記録すると、5回戦では福岡第一に5対1。準々決勝では九州国際大付にも8対4。140キロを超えるエース・秋元 悠希(3年)にも屈することはなかった。

 秋の九州大会出場をかけた準決勝では1年生大会でも対戦経験がある筑陽学園と対戦し、ドラフト候補に挙がる左腕・大畑 功士郎(3年)も攻略。課題の守備が乱れ試合は9対10で敗れたが、「強打の東福岡」は県内に強く印象付けた大会となった。

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運動部から大いなる刺激を受けた冬

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金光 雄紀選手と大西 龍聖主将(東福岡)

 その冬、東福岡は秋季大会で課題になった「守備」へ重点的に取り組んだ。
 「守れるチームになるまでは時間がかかると思っていたので、守備面でミスしても『ワンヒット打ちなさい』と、秋は目をつぶっていましたし、絶対的な力量が少なかった」(下野監督)反省を踏まえ、まずは守備連携よりも個人で捕球・送球技術を向上。「秋はリスクが低い攻め方が徹底できなかった」(エースの金光)バッテリーとも話し合いを重ねるなど、座学でも課題を埋めた。

 さらにメンタル・組織論にも目を向けた野球部。幸いにも彼らには学内に格好のお手本があった。
近10年で5回の全国優勝を誇るラグビー部「フェニックス」。「赤き彗星」として全国高等学校サッカー選手権大会で3回優勝など数々の栄光を手にしてきたサッカー部。彼らに共通しているのは多人数の部活を運営する上での「組織づくり」である。

 「野球部でも人数が多いと「Aチーム」、「Bチーム」と戦力が分かれてしまいますが、両部活は、Aチームだけではなく、Bチームも、モチベーションを失わせず、上を目指せる取り組みができる組織づくりになっている。私もそれが強いチームにつながるとおもって、Bチームの選手に対しても粘り強く指導しています」と下野監督が指導方針の一端を明かせば、主将の大西もこう語った。

 「マインド面というところが大きいですね。彼らとはもちろん普段仲は良いですが、彼らの応援にいくと、自分たちももっと頑張らないといけないという気持ちになりますし、こうやって日々練習をしているのは、もちろん甲子園に行きたいから頑張るというのはあるんですけど、サッカー部、ラグビー部に負けていられない気持ちもモチベーションとなっています」

 「東福岡高等学校の一員として、全国で活躍する」。その気持ちが彼らの意識をさらなる高みへ押し上げている。

[page_break「真の自立」の先にある「夏・11年ぶり甲子園」]

「真の自立」の先にある「夏・11年ぶり甲子園」

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キャッチボール前の選手たち

 ただ、今春の福岡県大会は彼らにとって厳しい結果が残った。「九州大会出場」を目標としながら5回戦で福岡福岡に2対4に敗退。秋・春・4月から開催される地区大会も含めた総合ポイントから換算するとシード獲得は濃厚とはいえ、春の九州大会出場の東筑紫学園、秋に敗れた筑陽学園、春に敗れた福岡福岡に加え、福岡大大濠福岡工大城東西日本短大附など強豪校がひしめく南福岡大会での激戦は必至だ。

 では、東福岡が11年ぶりの甲子園出場を果たすために必要なものとは?そこで指揮官は「投手でいえば下野に次ぐ2番手投手の育成と、野手では守備力のレベルアップ」と同時に、選手たちにこの2つを求めている。

 「自主・自立」

 「学校のモットーではあるんですが、私も社会人・日本生命までプレーしていた中で感じたこと。人間的な強さ・生活・練習に取り組む姿勢がよい選手ほど活躍している姿もたくさん見てきましたし、私自信も野球外の部分をしっかりすることや、自立して考えて取り組むことで、今の指導における財産にできています。
 今年の選手たちは意識が高いですが、さらに『勝つために、うまくなるために何ができるか』評論家といえるほど野球について語れて考えられる選手になってほしいと思います」

 残り3か月を切った南福岡大会までに個々が心技体をレベルアップさせ、「人に見られる中でもしっかりとした立ち居振る舞いとプレーをしないといけない」と自覚十分な大西が束ね、「真の自主・自立集団」となるために。栄光をつかむその日まで、紫紺の男たちの闘いは続く。

(文=河嶋宗一

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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