乙訓(京都)「秋は京都大会優勝!好チームから強豪校へ」
創部53年、学校創立時から活動を続ける乙訓野球部が昨秋、初めて京都の頂点に立った。指揮を執って3年目となる市川靖久監督は「ピッチャー2人が去年のチームから投げていますので安定して投げられたというのがこの秋、1番影響あったんじゃないかなと思います」と左右の2枚看板の存在を要因に挙げた。
高め合いレベルアップする2枚看板
乙訓が誇る二枚看板・川畑大地(左)と富山大樹(右)
右腕の川畑 大地(2年)は140キロオーバーのストレートが魅力。市川監督は「ピンチになった時に落ち着いて投げられるのが彼の1番いいところかな。夏休みの状態が安定していたのが大きかった」と昨秋、エース番号を託した。スライダーは元々投げられたものと入学後に覚えたより球速の出るものと2種類を投げ分ける。捕手の薪谷 宗樹(2年)によると「普通のスライダーはカウントを取れるのでうまく使って、速いスライダーは追い込んでから空振りが取れるのでピンチになっても使いやすかった」この秋はリリーフとしてマウンドに立つことが多く、後ろが安定していることはベンチにとって非常に頼もしい。
夏の背番号1は左腕の富山 大樹(2年)。市川監督は「将来性がすごくある、伸びしろの大きな選手。今から小細工ばっかりするのではなく、もっとストレートだけで勝負したりという選手になってほしい」と期待を寄せる。川畑とは対照的にピンチでは気持ちを前面に出すタイプ。曲がりの大きいカーブでカウントを稼ぐ投球術が目を引くが、力で押せる球威もある。
普段から仲のいい2人は互いに切磋琢磨し、川畑は「下半身強化と球速アップ。甲子園で注目してもらえた時に川畑なら抑えてくれる、と思わせられる選手になりたいです」富山は「背番号1は1番信頼されてるピッチャーがもらうと思うので、それを勝ち取れるようレベルアップしていきたい。体強くして、変化球もストレートも精度を上げたいです」と冬の練習に励む。起用法は相手打線の右左のバランスもあるが、1番大きいのはその時の調子。選抜でどちらが背番号1をつけるかは全くの未定であり、しかも練習試合解禁が選手登録後となるため甲子園の先発マウンドを巡って直前までチーム内での競争が続く。
つかんだ京都の頂点
室内練習場での打撃練習
一次戦は全て完封で3試合連続コールド勝ち。夏休みから「この秋、絶対優勝するぞ」と発破をかけられていたチームは好スタートを切った。夏はいきなり昨秋優勝の東山と当たり初戦敗退。長い夏休みの間に基礎的な練習で鍛え上げた成果を、まずは結果で示した。グラウンドは内野が黒土で外野は芝生、隣には立派な室内練習場を持つ。中学時代に体験入学でこの設備を見たキャプテンの中川 健太郎(2年)は「これが公立高校なのか」と驚いたという。環境面で恵まれていることは間違いないが、これまではベスト16やベスト8の壁を中々破れずにいた。それでもこの秋は準々決勝で延長11回の熱戦の末に10-7で市川監督の母校である鳥羽を撃破。副キャプテンの松本 竜次郎(2年)は印象に残っている試合にこの一戦を挙げた。「全員が勝ちたいという気持ちを持って、1球に対して集中して対戦することが出来たので。ピッチャー中心に守ってくれて野手もいいプレーが出来たと思います。スタンドも一生懸命、応援してくれてそれに応えることが出来たのが一番嬉しかったです。」
準決勝では立命館宇治と対戦。相手の里井 祥吾監督は市川監督の高校時代の1学年後輩だ。息詰まる投手戦となった試合は富山、川畑のリレーで無失点に抑え近畿大会出場を決める。決勝では京都翔英を破って初優勝を飾った。
秋の大会では長打を打つ活躍を見せた宮田(乙訓)
初の近畿大会では京都大会以上の戦いぶりを披露した。初戦の神港学園戦は打線がつながり、3回までに8得点。続く智辯学園戦でも序盤で試合を決めた。初回に1、2番が出塁して無死一、二塁。バント失敗でアウトカウントは1つ増えたが4番の宮田 康弘(2年)がレフトスタンドへ先制の3点本塁打を放つ。主砲の一振りで試合の主導権を握ると2回にも2点を加え、昨年の選抜覇者を押し切った。「あそこで勝つというのが大事な試合だったと思うんですけど、そこで自分も打てたという結果もついてきたのでそれが一番印象に残ってます」宮田の活躍もあり、初の選抜出場に当確ランプを灯した。ただし市川監督は「ホームランは風だと思うんですけどね。バント失敗してすごく嫌な感じで、本来なら右方向に打たないといけないところで引っ張って、僕はレフトフライかなと思ったんですけど」
乙訓は全国クラスのチームと比べるとまだまだ線の細い選手が目立つ。実際、近畿大会でベンチ入りした18人の中で最も体重の重い選手は富山だが、それでも80kg。長打連発でガンガン打つというよりも走者を動かした細かい攻めに重きを置いている。「ランナー付きのノックでは守備練習でもあるんですけど、ランナーの一つ先を盗むとかどういうタイミングでボールを見たら次の塁が取れるかというのはこういう実戦練習が一番効果的だと思うんですよね」
前進守備のセカンドゴロで三塁走者が本塁突入した場面、市川監督が走者に問うたのはセカンドの捕球体勢を見たかどうか。後ろに引きバウンドを合わせて捕球したのなら突っ込んで勝負してもいいが、前に出て捕ったのなら暴投でない限りストップしてランダウンに持ち込む。何気ないプレーにも目を光らせ質の高い野球を目指す。
限られた時間を有効に使い強豪校へ
サーキットトレーニングの様子(乙訓)
乙訓にとって初の近畿大会は大きな経験であり、チームに何が必要かを教えてくれる場でもあった。「勝つためにはアウトを27個取らないといけないんですが、簡単な打球は中々打ってくれないというのがありますので際どいプレーでアウトを稼いでいかないといけない、アウトの質を上げるというのはこの冬の間にやらないといけないかなと守備面では思ってますね。バッティングに関していうと1球で仕留める力が大阪桐蔭さんや智辯和歌山さんに比べると圧倒的に低いと思うんですよね。いいピッチャーになれば1打席の中で打てる球というのは限られてきますし、その球を打ち損じなく打っていくというのが課題になると思います」
放課後の練習は19時まで。しかも火、木曜日は7時間授業のため練習開始は17時になる。朝練は全員参加。室内練習場でのバッテイング、ウエイトトレーニング、ティーバッテイングとバント、サーキットトレーニングの4班に分けて7:30から汗を流す。切り込み隊長として近畿大会で抜群の働きを見せた大上 翔也(2年)は「全国のチームと比べると体が小さいので、体を大きくして通用するようなチームにしていきたいです。京都大会でやったように一戦必勝で頑張っていきたいです」中川は「このチームはたくさんの方々に支えてもらってるので、感謝の気持ちを持って丁寧に自分達らしくやりたいです」と甲子園に向けて意気込む。
好チームから強豪チームへ、大舞台での躍進に期待がかかる。
(取材・文=小中 翔太)
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