Column

府立大冠高等学校(大阪)「激戦区・大阪で存在感を増す新鋭公立校の秘密」【前編】

2017.11.07

 近年、今夏の大阪大会で強豪私学を次々と撃破し、公立校としては19年ぶりのファイナル進出を果たした大冠(おおかんむり)。甲子園切符をかけた一戦では大阪桐蔭と壮絶な打撃戦を演じた末の惜敗。センバツ王者をあと一歩のところまで追いつめた戦いざまは多くの高校野球ファンに強烈なインパクトを残した。

 東山宏司監督の下、年々着実に力をつけ、激戦区・大阪で存在感を増し続ける新鋭公立校。近年のチームカラーとなった強打はいったいどのような過程を経て、生まれたのだろうか。大阪準優勝を成し遂げた前チームの1年間の歩みを東山監督、および現3年生に振り返ってもらった。

打てなければ大阪は勝ち抜けない

府立大冠高等学校(大阪)「激戦区・大阪で存在感を増す新鋭公立校の秘密」【前編】 | 高校野球ドットコム
打撃練習の様子(大冠)

「前チームは始動が早かったんですよね」

 少し遠い目をしながら、記憶の目盛りを2016年夏に合わせた東山監督。昨年の夏、大冠は2回戦で桜宮に敗れ、早々に姿を消した。夏休みがまだスタートしていない、7月17日のことだった。

「毎年、新チームは守備の整備から入るべく、8月初旬までは守備と攻撃の練習量のバランスを5分5分くらいで進めていくのですが、早く負けた分、この期間が長くなりました。8月初旬に毎年恒例の四国遠征があり、4泊で愛媛、香川のチームとA戦、B戦含めて12~15試合程度を消化する中で要修正の課題をあぶりだしていく。お盆頃から打撃練習を多めにし、実戦形式の練習を増やしながら、8月下旬から始まる秋の大会に入っていきます」

 前チームでレギュラーを張っていた選手も多く、センバツ出場につながる躍進が期待された秋季大会だったが、10月2日に公立の北野に一点差負けを喫し、5回戦敗退。2016年度の公式戦は終了となり、チームはオフシーズン期間に突入した。

「残念ながら望む結果は得られませんでしたが、前チームで実戦経験を積んでいた選手が多かった分、投手との駆け引きや追い込まれてからの打撃といった要素は新チームにしては出来ていた。あとはオフシーズンの間にスイングのスピードアップ、パワーを強化できれば翌年には相当いい打線が出来上がると感じました。とにかく打たないと大阪は勝ち抜けない。ベスト8までは勝ち進めても、そこから先を勝ち抜くためには打てなければ話にならないんです」

[page_break:工夫し、考えること前提にした上で追求した「量」]

工夫し、考えること前提にした上で追求した「量」

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打撃練習の様子(大冠)

 目指すは「10点とられても11点とってしまえる打線」。東山監督はオフシーズンのスタートと同時に「平日1000スイング、休日2000スイング」のノルマをチームに課した。

 とはいえ、大冠の平日の練習時間は3時間半程度。グラウンドは他部との共用のため、平日にフリーバッティングをおこなえるのは原則、朝練のみ。3学年体制時には部員100名を超える大所帯チームでもあり、1000スイングのクリアはけっして容易ではないが、狭いスペースでも実施可能な素振りとティー打撃メニューを軸にノルマのクリアをチーム全体で追求し続けた。

「前から飛んでくるボールを打つ練習ももちろん大事です。でも自分主導でおこなえるティー打撃や素振りはしっかり考えながら振る事ができるという大きな利点がある。自身のフォームの変化を感じ取り、客観視しながらチェックできるようになると、調子が悪くなっても自身で修正することが可能になっていく。素振りとティーを中心とした打撃練習しかできない現実は、きちんと考えて取り組めばプラスに転じることも可能になる。『同じ数を振るならば、ただ漠然と振るのではなく、考えて振る』を大前提にした上で量を求め続けました」

 大冠には素振りメニューだけでも10種類あり、各々のメニューには「スムースな体重移動」「割りを作る」「バットを内側から出す」「ヘッドを走らせる」「壁を作る」「スムースにトップを作る」「軸足に体重を乗せる」といった明確な狙いがこめられている。練習で使用するバットも通常よりも長いタイプ、短いタイプ、重いタイプとさまざまな種類が常備されており、スイング練習のバリエーションは驚くほど多い。

 ティー打撃で重要視しているのは低めのボールゾーンをあえて体勢を崩し、打ち返す練習だ。投げ手はランダムに通常よりも前方にトスし、打つ側は踏み出した前のヒザを柔らかく使いながら咄嗟に反応していく。この練習の目的を東山監督は次のように説明してくれた。

 「縦の変化球が主流の高校野球で明暗をわけるのは、低めのボールゾーンに落とされた時に空振りすることなく、片手一本ででも拾っていける技術があるかどうか、です。全国の強豪校にはそういう打者がたくさんいるし、そこが強豪との分かれ目のひとつでもある。投手は『よし! いいコースに決まった!』と思ったボールをファウルされたり、ヒットゾーンに落とされると、大きなダメージを負うものです。そんなダメージを与えることができる打線を整備する。強豪が集う大阪大会を勝ち抜く上で不可欠な要素だと思っています」

[page_break:「普通のバット」がグラウンドから消える12~3月]

「普通のバット」がグラウンドから消える12~3月

府立大冠高等学校(大阪)「激戦区・大阪で存在感を増す新鋭公立校の秘密」【前編】 | 高校野球ドットコム

打撃練習の様子(大冠)

 対外試合が禁止となる12月に入ると、大冠では試合で使用する通常の長さ、重さのバットをすべてグラウンド内の倉庫にしまい、扉にカギをかけてしまう。猪原隆雅前主将は次のように証言する。

 「1.2キロ未満の重さのバットがグラウンドから消えるんです。残っているのは、中に鉄が入った1.5キロのバットや1.8キロの鉄柱タイプ、通常よりも長くて重い長尺バットといった特殊バットばかり。なので、それを振るしかないんです。倉庫にしまう理由ですか? 見えるところに通常のバットがあるとどうしても甘えてそれを使ってしまうからだそうです」

 通常のバットよりもはるかに重い特殊バットを使用した上で、日々目指す「平日1000、休日2000」スイング。冬休み期間に入ると目標値は「3000」にはね上がった。東山監督は「ここまでの数字目標を設定したのは指導者になってから初めて」と明かした。

 正遊撃手の寺地 広翔選手は「目標値をクリアするためには相当な時間がかかります。全体練習が始まる前の朝の6時からバットを振り始めても全体練習後の自主練習の時間も使わないとクリアは難しい。1日中バットを振っているかのような感覚になります」と語った。

 冬場の練習メニューに登場しがちなウエイトトレーニング、長距離走は大冠の全体練習メニューには入ってこない。東山監督が話す。
「体幹トレーニングは全体練習の中でやりますが、器具を使ったウエイトトレーニングをするかどうかの判断は選手個人に任せています。校内にトレーニングルームはあるのですが、スペース狭いので、この大所帯で強制レベルでやってしまうと、かなり時間を食ってしまい、練習の効率が悪くなる。それならばバットを振る時間の確保を優先したくなります。走る距離はピッチャー陣の150メートルダッシュが最長距離でしょうか。あまり長い時間走るとせっかく作った体が小さくなってしまうので、長距離走は冬場であってもおこなうことはありません」

 選手たちからは「『バットを振る事でバットを振る力をつける』のがうちのスタイル。オフシーズンで1番しんどいのはスイング練習ですし、ノック以外はほぼバットしか振ってないといっても過言ではない」とのコメントが返ってきた。

後編では冬が明けた春から夏の取り組み、そして3年生に東山監督の指導の感想を語っていただきます。

(取材・文=服部 健太郎

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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