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県立梼原高等学校(高知)「梼原らしさ」と「発展形」の融合

2017.11.09

 2007年4月、高知県北部の山間部で少子高齢化に悩む梼原町の活性化策も担い、創部された高知県立梼原高等学校硬式野球部。2013年4月には町出身で2007年センバツで初出場の室戸をベスト8に導いた横川 恒雄監督を「教育委員会・社会教育スーパーバイザー」兼任で野球部監督に招へいすると、翌2014年夏には高知大会初のベスト8進出。その後も実績を蓄え、今夏ついに高知大会初の決勝進出を果たした。

 11年目での確かな実績。その源流にあるのは、人口3,500人あまりの梼原町ならではの「梼原らしさ」と現チームで創った「発展形」の融合である。

「梼原だからこそ」できること

県立梼原高等学校(高知)「梼原らしさ」と「発展形」の融合 | 高校野球ドットコム
高知大会準優勝を果たした高知県立梼原高等学校グラウンド

 最高地点で標高1,450メートルを越える四国カルスト台地を見上げ、峠と峠との間にささやかな街が広がる人口4,000人足らずの町。これがこの夏、高知大会準優勝を果たした高知県立梼原高等学校硬式野球部がある高知県高岡郡梼原町。当然、野球部のお兄さんたちは子どもたちにとってもあこがれの存在だ。

「今年4月と6月には高知県高野連の許可を得て、野球部の選手たちが小学生とキャッチボールをしたり、一緒に遊んだりする交流企画をしました。これからは地域と子供たちと指導者とが三位一体となってやっていくことが大事だと思います」

 梼原町教育委員会の一室でそんな話を始めたのは「社会教育スーパーバイザー・横川」の名札を付けた横川 恒雄監督・65歳。梼原町から伊野商に越境入学すると、投手として活躍。法政大では外野手に転じ、法政大4年時には中堅手の位置から3学年下の江川 卓氏(元巨人)のストレートを「ボールがものすごい勢いでホップしていたのを見ていた」逸話も持つ。

 卒業後は高知県の教員として伊野商では監督として1985年センバツ初出場初優勝につながる基盤を作り上げ、特別支援学校を経て転じた室戸でも選手9人から2006年秋季四国大会ベスト4。同県・高知の明治神宮大会優勝によって初甲子園が転がり込んできた翌年センバツでも初戦で名門・報徳学園(兵庫)に2対1・2回戦も宇部商(山口)に4対1でベスト8入り。準々決勝は熊本工(熊本)に3対5で競り負けたが「室戸旋風」はセンバツに爽やかな風を吹き込んだ。

 その後、室戸では小松 剛(法政大~広島東洋カープ~現:同球団広報)を育て、再び戻った伊野商で4年間指揮を執り、定年退職を機に帰郷。現在に至る横川監督は、単に硬式野球部を強化する仕事だけではなく、地域の協力を得つつ、地域社会と梼原高校硬式野球部がいかに地域活性化の両輪として共生していくかに力を注いできた。

 冒頭にあげた子供たちとの触れ合いだけでなく、大型連休前には花壇の草抜き。銀世界に覆われる冬には高齢者宅の雪かき作業にも参加した。

「グラウンドの中では野球人であれ、学校の中では野球人の前に高校生であれ」これが梼原高校野球部の根幹を為す考え方である。

 だからこそ、野球部練習には差し入れが連日のように届けられ、野球部寮にはふんだんな食材、朝夕には食事もそろい、この夏、高知県立春野運動公園野球場は、2時間近くかけてやってきた梼原町のみなさんで埋まった。だから選手たちは準優勝に輝いても口々に言う。「応援がすごかったのに申し訳ない」。
「梼原からこそできる」生活の中でつながる強い絆と絆は、これからも真の強さを形作る源だ。

[page_break:練習試合を活用し、失敗は「その場で」解決する]

練習試合を活用し、失敗は「その場で」解決する

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横川 恒雄監督(梼原)

 このように柱を少しずつ太くしながら強さを養っていった梼原。横川監督が就任して5代目となる新チームは、高知大会初戦で室戸に敗れた直後の2016年7月に立ち上がった。エースの浅井 大地、主砲の溝渕 翔が残る中、まず横川監督が大目標として掲げたのは「1年間がんばることで、3年生への恩返しをする」である。

 まず、そのために何をすべきか。指揮官は練習試合を最大限活用し「野球を覚える」ことを重視した。普段は硬式野球部が使用する梼原町大越グラウンドに合宿も兼ねてやってきた県内外有力校と連日練習試合を組み、失敗が起こった際は試合直後の練習で消化する。

 遠征先での練習試合でも考え方は変わらない。大越グラウンドに戻って練習を行うことは梼原にとって日常風景の1つである。
「試合後に30~40分ミーティングをしても聞き流しになる、ならばその場で消化した方がいいんです」横川監督は話す。

 公式戦ではライバルになる県内有力校とも試合を組み、テーマを設定したゲームも設けるなど、練習試合総数は年間100試合に及ぶ梼原
「これが公式戦で戦える要因です」と指揮官は胸を張る。

 加えて和田 吉展(3年・一塁手)が主将を務めるこのチームには例年以上に応用力・創意工夫が備わってた。練習試合後には寮でミーティングを行い、冬には和田がリーダーシップをとっての面談も実施。そして、彼らは町特産の木材を様々な形で切り株としたものを、持ち運ぶことでトレーニングにする梼原独特の冬練習時期に、「発展形」を発案、飛躍的な発展を遂げた。

[page_break:2016~2017チームが創った「発展形」をさらに広げるために]

2016~2017チームが創った「発展形」をさらに広げるために

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梼原ナイン

 秋の県大会準々決勝で岡豊に0対2で敗れた精神的弱さを克服すべく、例年通り主に下半身を鍛える丸太トレーニングに励む選手たち。しかしその一角では通常と異なるトレーニングが行われていた。強肩を自負する長岡 星河(3年・捕手)はさらなる肩力強化のため、丸太の上に座った状態での腹筋に取り組んだ。また、浅井は体幹トレーニングにも積極的に着手した。

 その姿を見てきた岩崎 智久部長は言う。
「これまで梼原高校硬式野球部には丸太を含め、豊富な下半身メニューがあったのですが、そこに上半身のメニューを加えたことでバランスよい身体ができるようになりました」

 冬を越え、体重増にも成功した彼らは壁を破った。春季県大会・県体育大会とベスト4に入ると「明徳義塾への挑戦権を得る」を掲げた最後の夏には目標通りの決勝戦へ。「練習でもうひとのび、ふたのびできたら、目標を明徳義塾を倒すにできたけど、それは次の段階ですね」横川監督はこう振り返る。ただ、その土台を作ったのは間違いなく。2016~2017年を戦い「発展形」を創った3年生たちの功績である。

 最後に横川監督は、秋はこれも創部初のベスト8に進むも準々決勝で高知商に大敗を喫した新チームについて触れた。
「夢を叶えるため、目的があり、目標を達成し、夢に到達する。このサイクルを僕はずっと言い続けています。だから、一生懸命だし素直なので反復練習ができる新チームは最後の夏に結果を出してくれると思います」

 もうすぐやってくる冬。そこを越えて迎える2018年。梼原は3年生たちの創った発展形をさらに発展させ、2018・梼原スタイルで地域と共に頂点へ挑戦する。

(取材・文=寺下 友徳

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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