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県立豊田工業高等学校(愛知)「いける」感触掴んだ全三河大会での準優勝

2017.09.30

 全国で二番目の激戦地区となった188チームが参加した愛知大会で、県立校で唯一ベスト8に進出した豊田工。普通の公立校であり、実業校という中で、どのようにしてチームを作り、強化に余念がない強豪私学や甲子園でも実績のある強豪校などと対等に渡り合える戦いが出来たのか。そしてまた、記念大会となる来年の第100回大会へ向けて、どのようにしてチームを作り上げていく方針なのか探ってみた。

チーム内の競争意識を高める「赤ビブス制度」

県立豊田工業高等学校(愛知)「いける」感触掴んだ全三河大会での準優勝 | 高校野球ドットコム

平松忠親監督(豊田工)

 記念大会となる来年の夏は、愛知大会は東西に分けられて、2校が代表となることがすでに決まっている。名古屋市内勢と尾張地区の西愛知大会と東西の三河地区に知多地区が加わる東愛知大会からそれぞれ優勝校が代表となる。

 ことに、いわゆる私学4強などと呼ばれている名古屋市内の有力私学がいない東愛知大会の各校は、千載一遇のチャンスとばかりに各校とも、チーム力整備に余念がない。この夏のベスト8進出で確かな自信を掴んだ豊田工もそんな一つである。

 その原動力となるであろうと思われるのがエースの横田龍也君ということになるが、この秋は期待されながらも、県大会初戦で名古屋国際に0対1と最少失点で敗れた。
「完封されて負けといて『何言っとるんだ』と、言われるかもしれませんけれども、今度のチームは打てるチームだと思っているんですよ。県大会では打てませんでしたけれどもね(苦笑)。それで、横田が相手の8番打者に打たれた一本の安打で負けてしまいましたからね……」

 と、豊田工を率いて11年目となる平松忠親監督は、万全で臨んだはずの秋季大会を振り返る。もちろん、完封負けをしたということで、これから先の冬のトレーニングとしては、最大の強化点はパワーアップということになる。毎年行われている、知多半島の美浜町での強化合宿は、より激化していくことは間違いない。

 豊田工の恒例システムとしては「赤ビブス制度」というのがある。これは、日々の練習を見ているマネージャーが、毎週月曜日に「頑張っている選手20人をわかりやすくするために番号付きの赤いビブスを着用してトレーニングする」という基準で選定して、平松監督に報告するという制度である。こうして選定されて、1番のビブスをつけてトレーニングしている選手は一番頑張っているという証なのである。そして、当然それが来るべきシーズンのベンチ入りメンバー選びのための重要な参考要素にもなっていくことになる。

 また、そのことでマネージャーも、よりしっかりと選手たちの練習を見つめていくことにもなるのだ。1番ビブス争いが激化していけばいくほど、チーム内の競争も激しくなっていくし、選手の意識も向上していく。もちろん、そのことでパワーアップもしていき、ひいてはチームの底上げにもつながっていくということになる。

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甲子園も狙える公立校という意識を持つ

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横田 龍也(豊田工)

 実は、これは平松監督が、四国愛媛の名門、松山商の練習を見学しに行った際に、背番号をつけて練習をしていて、それが選手への頑張りのモチベーションとしているということからヒントを得て、考え出されたものだったという。また、そのことでマネージャーが練習やトレーニングを補佐するという役割が、より明確にもなったとも言う。

「甲子園も狙える公立校という意識を持って、毎日の練習に励んでいく」というのは、口では言えるものの、その本気度を示していくのは、並大抵ではない。まして、相手県では、私学4強と言われている中京大中京東邦愛工大名電享栄が君臨しており、さらには近年躍進著しい至学館栄徳愛知啓成中部大春日丘などもいる。しかし、それらは来年の記念大会では別地区扱いということになる。

「東愛知大会となるところでは、現実には10~12校くらいが、競い合っていると思います。そこに、何とかうちも加わっていかれればというところですね。それは、選手たちにも、意識として伝えています」と、平松監督は常に甲子園を意識させていると言う。

 事実、来年の東愛知勢をざっと見てみると、この夏のベスト4進出を果たした豊橋中央はじめ、豊川、愛知桜丘、愛知産大三河といった私学勢に対して、知多地区の大府に西三河では西尾東刈谷などがいて、東三河では時習館渥美農成章あたりが食い下がって来るであろう。そこに、豊田工がこの夏のベスト8という実績と、評判の好投手・横田龍也君がいるということで、やはり注目を浴びていくことになるであろう。

 チームは現在1年生が28人、2年生が26人となっている。引退した4年生は28人いたが、毎年おおよそ25人強の部員が入部してきている。そして、全員がほぼ最後まで残っているというは「赤ビブス制度」などに代表されるように、不断の努力が認められてしっかりと評価してくれるというシステムが確立していることもある。

「毎年そうなんですけれども、夏の最終メンバーは、ボクが18人まで決めます。そして、残る2人は部員たちの投票で決めることにしているのです。ボクが見切れていない部分で、仲間がどれだけ見ていて、信頼していてくれるかということにもなります。また、そのことで、選手個々が選ばれた責任ということもまた、強く感じられるからです」

[page_break:来年の夏を目指して、秋と春の全三河大会に挑む]

来年の夏を目指して、秋と春の全三河大会に挑む

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毎週目標設定を掲げている豊田工

 普段の練習は、授業後から日が沈んでも、照明をつけて20時40分頃までは続けられる。定時制もあるのだが、ほぼ定時制関係職員からからの苦情もなく、ティーバッティングや守備練習などもこなすことが出来ている。学校も協力的な環境が整っている。ただ、その後は、極力早く下校していくように勧めている。それは、平松監督が「最低でも6時間睡眠は確保させておかなくてはいけない」という考えがあるからだ。

 朝練習は週2回で、入替制で行われている。基本的に、朝は打撃練習で徹底して打ち込むようにしている。こうして、技術的な面は補われている。そして、オフシーズンに入っていくと、ダッシュやウエイトなど10種類くらいの体力強化メニューが示されるのだが、それを「赤ビブス」を目指しながら、競い合っていくことで、精神的にも体力的にも強くなっていかれる。こうして、バランスよく「心・技・体」が作られていくのである。

 毎年、冬休みには、愛知県知多半島の美浜町で強化合宿が行われている。「この合宿では、まず学校の宿題。これは皆でやります。それから、体力強化の浜で走り込みで、これが20キロくらいです。それに、日本福祉大時代に中日の浅尾(拓也)投手が走っていたと言われている“浅尾の階段”というのがあるんですけれども、そこを投手陣を中心としては知りますね。そして、ノルマを決めて、食事を班ごとで競争して食事の量を増やしてパワーアップを図ります」。というように、ほとんどボールを握らない練習を重ねていくというメニューもある。

 また、この秋のチームは、バントがあまり上手ではないということもあって、しっかりとバントが出来るようにということで、バント練習も大事なテーマになっている。それと、ある程度のスピードには決して負けないパワーをつけていくこともこの秋の目標でもある。

 この秋は、県大会初戦で敗退したことで、すでに来春のセンバツへの希望は絶たれたのだが、年内のスケジュールとしては全三河大会が残されている。
「毎年、全三河はどのように戦っていくのがいいのかということは、迷うのですが、今年の春は、全三河でいい戦いをすることが出来て、チームにも自信になったし、大きく成長したということもありました。この秋は、県大会ですぐに負けていますから、ここで勝っておいて一つ実績を残しておきたいという思いもあります」

 平松監督は、10月下旬の全三河大会も意識している。ことに、来年は記念大会東愛知大会ということを考えると、秋と春の全三河大会も前哨戦として捉えると、結果を残しておくことは大事な要素となるそれらを踏まえて、最終的には来年の夏を目指して、この秋以降のチームを作っていく。

(取材・文=手束 仁

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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