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県立静岡高等学校(静岡)「個性の引き出し」と「故障管理」による投手育成

2017.04.17

 先のセンバツでも1勝をあげ、全国に通じる成績を残し続けている静岡。その売りの1つとしてあげられるのが「好投手の育成」である。今回はその根幹にある「個性の引き出し」と「故障管理」から静岡の投手育成メソッドに迫ってみた。

「良い」投球フォーム=「自分の長所を活かす」

県立静岡高等学校(静岡)「個性の引き出し」と「故障管理」による投手育成 | 高校野球ドットコム

栗林 俊輔監督(静岡)

 2017年WBC日本代表・増井 浩俊(北海道日本ハムファイターズ)。今年、大卒ドラフト候補として注目される明治大の183センチ右腕・水野 匡貴。2014年夏のエース・辻本 宙夢(駒澤大3年)に2015年センバツベスト8右腕・村木 文哉(筑波大1年)。そして現チームの最速144キロ左腕・池谷 蒼大(3年)。このように立て続けに好投手を育て上げているのが1896年創部、1926年夏の甲子園優勝をはじめ、甲子園出場は春16回・夏24回。近年では「古豪復活」を超え、全国屈指の強豪に成長した静岡県立静岡高等学校である。

 水野以下、そんなエースたちを2008年から指導してきたのが磐田南高校では捕手だった栗林 俊輔監督。ただ、指導の基本は「見守っているだけですよ」と話す。理由はこうだ。

「選手の元々の動きから矯正した投球フォームを私は『人工的な投球フォーム』と表現するのですが、必ずしもそれがうまくいくと思っていません。逆にそれが成長の妨げになるということがある。良い投手は、その本人が持っている長所、体の動き方をしっかりと理解をして発揮している。だから選手それぞれで、動かしやすい体の使い方というのがあると思います」

 自分の長所を理解していれば手を加えることはない。ただ「故障のリスク」があるとなれば話は別だ。
「体の使い方がかなり体の負担をかけていて、故障のリスクがあれば当然、直します。一番怖いのはあまり使い方が良くないのに、球速が出てしまうパターン。そういうマイナスがなければ、そのままにするというのが私の考えです」

 栗林監督は、フォーム改造の際も体の使い方、構造を理解しているトレーナの意見も採り入れ、選手との対話を欠かさない。
「人工的に教わったものというのは、本人が今までやってきた動きとは違いますから、最初はスピードも出ないと思います。それを納得した上で選手ができるのか?その兼ね合いが難しいところです」

 さらに、静岡ではこのような投球動作のみならず、トレーニングにも投手のフォーム作りの一環としている。
「投手陣がトレーナーと相談しながら投球フォームを作るのは、トレーニングの段階から始まっています。もちろん技術を習得するのは大事ですけど、それは上の世界で段階に応じてやっていけばいいと思っています。まずはケガをしないこと。故障しにくい体を高校時代に作っておくこと。そうすると、上の世界では技術習得に集中できますから」(栗林監督)

 では、これまで活躍してきたエースたちの共通項とは?指揮官は「自分のフォームの特性を理解した上で、そこに工夫を加えること」と語る
「たとえば昨年のエース・村木は、入学から目に見えて変わった部分はない。ですが、トレーナーや、投手コーチの方々と相談して、本人の中でうまくアレンジしながらやっていました」

 デリケートな投球フォームは選手が理解した上で進める。これが「静岡流・投手育成法」第1の柱である。

[page_break:選手の未来を重視する「メディカルチェック」]

選手の未来を重視する「メディカルチェック」

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ランニングする選手たち

 「静岡流・投手育成法」第2の柱は栗林監督が「これは他校よりも細かいかもしれません」と自負する、故障を重症化させないためのプログラム。入学時に選手全員に義務付けられる「メディカルチェック」だ。

「静岡県は少年野球、中学野球も盛んな地域ですので、そこで無理している選手たちは結構多く、実は慢性的なケガをしている選手がいます。入学してから知らずで使っていると怪我が重症化してしまい、長期間プレーできないリスクがあります。特にウチは部員が少ないので、気をつけないといけない。

 そうならないために、信頼している病院で必ず診てもらい、診断結果に応じて、トレーナーさんや理学療法士さんと相談しながら、デビュー時期や復帰時期を考えていきます。うちの選手たちは大学・社会人まで続ける可能性があり、将来がある子ばかりですからね」(栗林監督)

 センバツ終了時の部員は新2・3年合わせて29名。少数精鋭を貫く静岡だからこそ、将来を見据えて、ケガを未然に防ぐ考えは徹底されている。

 よってケガがあると、静岡を出て関東地区の病院に行かせることも。リハビリテーションや復帰時期は、理学療法士と選手が相談しながら決めていく。
「トレーナーさんや理学療法士さんには『この選手には重点的に治療してください』とお願いすることもあります。そういう専門職の方々のお力により、選手を管理していきます」

 指揮官の言う方針により才能を開花させたのが、左腕エース・池谷 蒼大(3年)だ。池谷は入学直後に腰を故障。症状は軽度だったが、栗林監督は高校2年まで登板をさせず、トレーニングで体を作ることを指示。実戦復帰した2年生からになっても、再発しないよう、短いイニング限定で登板させるなど、慎重に起用してきた。

 その方針が実り、昨秋は2年ぶりの秋季東海大会優勝、センバツ1勝の原動力となり、今ではプロ注目の左腕へ成長した。

 では、選手たちは「静岡流・投手育成法」についてどう感じているのか?
まずは伊東リトルシニア時代は侍ジャパンU-15代表として「第2回 IBAF 15U 野球ワールドカップ」に出場。選抜でも池谷との両輪で活躍した右腕・竹内 奎人(3年)に聞いてみることにしよう。

[page_break:「自らの理論」を的確なメニューで伸ばす]

「自らの理論」を的確なメニューで伸ばす

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ミーティング風景(静岡)

「トレーニング、メディカルとここまで突き詰めてやっているんだなと驚きましたし、自分自身の取り組みも大きく変わったと思います」と入学時から今までを振り返る竹内。そんな彼は「故障を防ぐ身体づくり」と「野球につなげるトレーニング」を目的とする静岡流・投手育成メニューの一端も紹介してくれた。

(1)メディシンボールスロー
両手でボールをもって、いったん体を沈めてから、自分の後ろに向かって投げます。僕が投球フォームで意識しているのは、上半身と下半身の連動性と、リリースでしっかりと力を伝達することですが、このメニューでは投球動作に必要な連動性が養われます。

(2)90メートル1往復ダッシュ
1往復27~28秒以内で走り抜くメニュー。ここで大事にしているのはフォーム。しっかりとストライドを大きくしたフォームを走ることを意識してやります。走るフォームはトレーナーさんに指摘されるのですが、走るフォームも良くしていくと、投球フォームのバランスが良くなっている感じがあります。一番きついメニューなんですけど、僕は良いメニューだと思っています。

 ここで培ったものを投球動作で活かす。竹内が投球練習で意識していることが、「ストライク率65パーセント」である。
「最低限試合を作るには、投球数に対して、ストライク数が60パーセントあると考えていて、そしてより安定したピッチングするには、65パーセント以上あると望ましいと思っていて、いつも投球練習で意識しています」

 「昨秋はコントロールの甘さに課題を残した」課題を踏まえ、冬のトレーニング中には「指のかかりが良くなった」と話した竹内。事実、センバツ2回戦・大阪桐蔭(大阪)戦で9回途中からリリーフで登板した竹内は無失点に抑える投球を見せた。

静岡流・投手育成「完成形」で、夏91年ぶりの頂へ

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竹内 奎人(静岡)

 一方、浜松市立積志中時代「侍ジャパンU-15代表入りした竹内を見て『自分はずっと静岡では2番手投手のままなのかな』と思った」落胆からトレーニングを積んで2年春に140キロをマーク。エースの座を奪った池谷も、この冬には「ストレートの質を磨く」大きなテーマを持って各種メニューに取り組んだ。

 竹内と同様の90メートル往復ダッシュに加え、昨秋、静岡県大会前から取り組んだ「90メートルの距離から、セットポジションから反動を使わずに投げる」20球のライナー系キャッチボール。5種類のネットスローでは球もちの良いフォームで投げられるフォームを意識した。

 これがセンバツ1回戦・不来方(岩手)戦で、7回9奪三振1失点。2回戦の大阪桐蔭戦でも、初回に6点を取られながら、2回~7回まで無失点に抑える内容につながった。

 かくしてセンバツ制覇の大阪桐蔭と互角以上に渡り合いながら逆転負けを喫した悔しさの中に確かな自信を得た静岡。次に目指すのは静岡大会を制しての2年ぶり夏の甲子園出場。そして1926年、静岡中時代に成し遂げた全国制覇へ。それが達成された時、「静岡流・投手育成」は完成形を迎える。

(取材・文=河嶋 宗一

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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