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宮崎日大高等学校(宮崎)「支え」「責任」「覚悟」そして「底力」【後編】

2017.04.08

 後編では2015年甲子園出場までの経緯や、現在のチーム作りにおいてこだわっていること、今年のチームの主力選手について徹底的に紹介!

■前編「恩師と「カープ野球」の教えを原点に」を読む

18年ぶりの甲子園でも貫いた理念

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榊原 聡一郎監督(宮崎日大)

 就任から約1年後の15年夏、宮崎日大は18年ぶりとなる甲子園出場を果たす。「選手、スタッフ、学校、保護者、OB…全ての人たちの想いがぐっとひとつにまとまってつかんだ甲子園でした」と榊原監督は振り返る。

 県予選では、準々決勝で都城、準決勝で聖心ウルスラ試合記事)にいずれも1点差ゲームで競り勝ち、決勝の宮崎学園戦では打線が爆発し13対0で圧勝した(試合記事)。5試合42イニングで失策はわずか3。二遊間を含めた堅い守備力が、チームの土台にあった。

 甲子園では上田西(長野)に0対3で敗れ(試合記事)、初戦で姿を消したが、「三村イズム」「カープ野球」の理念は甲子園でも貫いた。滞在中の宿所では暑い夏場にも関わらず、食事など人前に出るときはハーフパンツを禁じた。組み合わせ抽選会に参加した部員全員の制服を、前日にホテルでクリーニングさせて臨んだ。「人前に出るときは見苦しくない格好をする。これがカープの教えでしたから。おかげで抽選会に出たうちのチームは取材記者からえらい評判が良かったですよ」と笑う。

 滞在中、選手たちの取材は自由に受けてよいと許可していたが、「18年ぶりの甲子園」「元プロ監督が指導」の話題性もあって取材が殺到した。マスコミにちやほやされるうちに選手たちの生活や練習態度に横柄なものが感じられるようになった。「自分たちが特別な人間なんだと勘違いしている」と感じた榊原監督は、グラウンドでの2時間の調整練習をキャンセルし、ひたすら走らせた。「野球の前に人間教育」の理念もぶれることはなかった。

「グラウンドが意外に狭く感じました」。当時1年生でスタンドから初めて見た甲子園の印象を佐藤主将や捕手の淵之上泰賀(2年)は語る。エースの木幡倫太郎(3年)はボールボーイで実際のグラウンドを体感した。「あっという間にすべてが終わっていました」。球場に入るところからグラウンドに入り、アップをしてから試合、終わった後のインタビューやクーリングダウンなど、一連の行動は高野連がきっちり管理して時間厳守が求められる。「この場所で野球をやるために自分たちは宮崎日大にやってきた」ことを現2年生は実感することができた。

[page_break:力を発揮できなかった秋]

力を発揮できなかった秋

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ミーティング風景(宮崎日大)

 就任2年目の夏は準々決勝で宮崎商に敗れ、連続甲子園は果たせなかった。「前の年に甲子園に出たことで、新チームのスタートをうまく切れなかったのが最後まで響いた」(榊原監督)。3年目となる今季のチームは高城中時代に県大会を制した木幡-淵之上のバッテリー、主砲・佐藤主将ら優秀な選手がそろい、「宮崎でも一番の力がある」(佐藤主将)と自信を持って秋の県大会に臨んだ。だが、8月の地区大会では4対2で勝利した日章学園を相手に0対2で完封負けし、ベスト8に入る手前の3回戦で姿を消した。

「一度勝っていたので次も勝てると油断があった」と佐藤主将。ファールフライと判断した打球が風で戻されて野手が落球するボーンヘッドがあった。榊原監督から、風があるので打球の行方には細心の注意を払うよう指示が出ていたにも関わらず、徹底できなかった。木幡-淵之上のバッテリーは「1球の大切さが足りなかった」ことを反省する。0対1で追いかける展開が続き、終盤を迎えた8回に相手の2番打者にソロ弾を浴びたことが致命傷になった。「ホームランだけは警戒するように監督さんからも言われていたのですが…」と淵之上。不用意に内角球を要求したところを左打者にスタンドに運ばれた。

 力を発揮できずに結果を残せなかった秋からの再起を期し、この冬場は徹底した走り込みで身体づくりに励んだ。朝練習では1周300メートルのトラックを30周、午後は1キロあまりある学校周辺を10周、1日20キロが走りのノルマだった。走った後にひたすらティーを打つなどのメニューもあった。ただ漠然と距離を走らせるのではない。榊原監督は「3カ月で甲子園まで往復する距離を走るぞ!」と部員に檄を飛ばす。宮崎から甲子園までの距離は864キロ。毎日20キロ走れば3カ月で1800キロとなり、目標はクリアできる。甲子園を目指す想いを実際の距離に重ねてモチベーションとした。

 エース木幡は「決め球を作ること」をこの冬の具体的な目標に掲げていた。180センチ、90キロと、遠目からでもスケールの大きさが感じられ、直球の最速は147キロとプロのスカウトも注目する。一方で屈辱の日章学園戦に象徴されるように左打者を苦手としており、ここぞというときに強い気持ちで内角を攻めることができなかった。下半身を中心に身体づくりに励んだのはもちろん、直球を生かすためのフォークという球種をマスターし、投球に幅ができた。「ボールがしっかり指にかかるようになりました」と手ごたえを感じている。

 4番を打つ佐藤主将は左の強打者で、「横浜DeNAの筒香選手が目標」という。1カ月ほど前に榊原監督のアドバイスもあって、スタンスを広めにしてノーステップで打つ打法にフォームを変えた。余計な動きを減らしたことでボールがしっかり見えるようになり、「練習でも柵越えが多くなった」という。

[page_break:毎年3年生の気持ちで]

毎年3年生の気持ちで

「僕は毎年、3年生と同じ気持ちで監督をやろうと思っています」。榊原監督の言葉に力がこもる。毎年いろんな選手が入れ替わる高校野球は、私学強豪といえども甲子園を狙える逸材をそろえられるとは限らない。「1年生に良い選手が入ったので3年計画で…」と言う指導者は多い。しかし榊原監督は「毎年甲子園を目指す」気持ちにぶれがない。3年生にとっては力があろうとなかろうと、「甲子園に行きたい」気持ちに変わりはなく、それを叶えるために自分はこの学校に来たと自負している。「結果が出なければいつでも首で構わない。だから僕の契約は1年契約なんです」と笑う。この辺りには毎年契約更改で結果が出なければ首というプロの世界を生きてきた矜持が感じられた。

 名刺に「硬式野球部監督」と新たに「飲食部部長」の肩書が加わった。野球部員も入寮している学校寮の飲食部門の責任者ということだ。監督に就任して様々改革に取り組むうちに、選手たちの食事の改善が急務に感じられた。最近の子供は食が細い上に、「寮の食事が美味しくない」という不満があることが生徒へのアンケートで分かった。「食欲のない選手で勝負に勝てる選手はいない」とプロ時代の経験でも身に染みて分かっている榊原監督は飲食部部長として、ただ今寮の食事の改善に目下取り組んでいる。飲食店経営時代のつてでホテルの料理長を招聘し「美味しくて栄養のあるものをたっぷり食べられるようにする」ことを目指している。

 16年1月からは部員全員を週2回、寮に集めて食事会をしている。美味しいものを食べて英気を養うと同時に、食事のマナーなどを教えるのは当然のことだ。その模様は「榊原シェフの食トレ」と題して、野球部の公式サイトに毎回メニューが写真入りで紹介されている。

 取材に訪れた日、飲食業者との打ち合わせを監督室でしていて、なかなかグラウンドに立つことはできなかったが、練習締めくくりのミーティングで榊原監督の雷が落ちた。

「漠然とした練習をするな!」

 打撃練習の横で走塁練習をしていたが、毎回指導していることを意識した練習になっていない。一塁走者ならベースから5歩、二塁なら6歩、そこからプラス3歩、二塁は4歩が第1、2リードの基本距離。セーフティーリードの感覚といつでもスタートが切れるように右足を開き気味に構えることも指導していたはずなのに、打ち合わせの合間で窓から練習を見ていてもそれを意識して練習している部員が少ないように思えた。

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2017年の野球部目標

支え 責任 覚悟
勝ちの心・勝ちの意識
勝ちにこだわりすぎて
勝ちに支配されないこと。
底力を身につける。

 多くの人に「支え」られて自分たちが野球をやれていることを感謝し、1人1人に与えられた「責任」を全うし、絶対に甲子園に行く「覚悟」で練習や試合に挑む。「勝ちの心」を持つことは大事だが勝ちを意識するのは禁物。勝ちの意識に左右されることのない「底力」を身に着ける。

 2017年、榊原監督が掲げたチームスローガンだ。ミーティングで「ちゃんと覚えているのはいるか?」と部員に問う。「支え」「責任」「覚悟」は答えられたが、一番下にある「底力」を答えられたものがいなかった。

「だから3回戦どまりなんだ!」

 走塁のポイントにしても、意識しなくてもできるようになる底力を身に着けるためにやっていたはずなのに、やれていないのはまさしく「底力」になっていないからだ。投、打、守と基本プレーは宮崎でも上位の力を持っているはずなのに、試合で勝てないのはそういった細かいプレー、しかしチームの「底力」になるプレーを大事にしていないからではないのか? 榊原監督の指導に妥協はない。しかしこれらが本当に「底力」として定着した時、宮崎日大は本当の意味での宮崎の強豪校へと進化すると確信した。

(取材・文=政 純一郎

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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