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佐久長聖高等学校(長野)「あらゆる事態を想定した練習の数々」【後編】

2017.04.01

 前編では、佐久長聖の練習スタイルに迫り、昨夏の甲子園について振り返っていった。後編では佐久長聖藤原 弘介監督にPL学園について語っていただき、そして選手たちに夏の大会へ向けての意気込みを語ってもらった。

■前編「長距離を走り続ける理由」を読む

最悪の事態を想定した練習をしていた“超名門”

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藤原 弘介監督(佐久長聖)

 その存在があまりにも大きいからだろう。藤原監督は佐久長聖の監督としてすでに3度、夏の甲子園に出場しているが、今でも「元PL学園監督」として選手からも周りからも見られる。それは「PL時代の話は自分からはしない」という藤原監督もよくわかっているようだ。

PL学園でいろいろなことを学び、育ててもらったのは確かですからね。ただPLの野球って何だろう、と考える時、明確な形が浮かばないんですよ。今はPLとは環境も部員数も違うので、全くスタイルが違います。PL時代と変わらないのは、指導のベースにあることでしょうか。『宜しくお願いします』という気持ち、何かを失敗した時は素直に『すみませんでした』と言う、そして何かをやらせていただいた時は『ありがとうございました』と感謝の意を伝える。大きくは、この3つがしっかりできるようになれば、人生を渡って行けると思っています」

 PL学園には強さを裏打ちする数々の“伝説の練習メニュー”があった。それについては多方面で伝えられているが、藤原監督が指揮官だった時代には俗称「ハアハアバッティング」というメニューがあった。

 速ティーを3分行い、グラウンド1周を1分で走った後、上がっている息を整えながら打席に入り、初球から打っていく。9分ワンセットで、10セット連続でやったこともあるという。

「選手はかなりしんどかったようですが、これは最悪の状況を想定した練習です。例えば右翼手が右中間の大飛球を捕ってチェンジになり、三塁側のベンチまで全力疾走で戻ってきたとします。当然、息はハアハアの状態です。それでも先頭打者なら、速やかに防具を付けてすぐに打席に入らなければならない。この時、初球の甘いボールを振れるか?0対1で負けていて、初球から勝負にいかなければならない時、息が上がっていたら、下半身が弱っていてヘロヘロの状態だったら…それでは決勝の大事なところ、究極の場面でも思い切っていけないのです」

 そういえばPL学園と肩を並べる“超名門”の横浜高も、100回に1度起きるかどうかというプレーも練習し、それを甲子園で実践している。たとえ滅多に起こり得ないケースであっても、それを想定していなければ対応できない。あらゆる事態を想定して練習する―。これもまたPL学園の強さの秘密だったのかもしれない。

[page_break:昨夏の甲子園出場が最大のモチベーションに]

昨夏の甲子園出場が最大のモチベーションに

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トレーニングの様子(佐久長聖)

 昨夏の甲子園に出場した旧チームは3年生が主体だった。メンバー18人中17人が3年生。その中で唯1人、2年生でメンバー入りを勝ち取ったのが、現チームのエース・塩澤 太規だ。大会初先発となった県決勝松商学園戦では2失点完投勝ち。7回目の夏の甲子園出場を呼び込んだ右腕は、鳴門高との1回戦でも2回途中から「聖地」のマウンドへ。最後まで投げ、6回2/3を4安打無失点に抑えた。約130㎞離れた飯田市から甲子園に出るために佐久長聖にやって来た塩澤はこう語る。

「3年生に連れて行ってもらった形でしたが、やはり甲子園は特別な場所でした。あそこへもう1度戻るんだ、という気持ちが、2度目の“長い冬”の最大のモチベーションになっています。ただ甲子園は出るだけではダメで、やはり勝たなければいけないところ。高校野球をしている以上、最後の夏に出なければいけないところ、とも思っています」と同級生を代表して甲子園に出場した責任も感じている。

 今オフのテーマは球速アップ。常時145㎞が投げられるよう、ネットピッチングにも力が入る。背番号「1」を背負う自負から、辛いランメニューの時も常に先頭に立つ。体作りにも余念がない。塩澤はもともと食が細く、入学時は(身長177cmに対して)68㎏しかなかったが、現在は81㎏。昨夏は一時73㎏まで落ち込んだ体重を、トレーニングしながら増やしたという。塩澤は「寮に入っていると周りにつられて自分も食べるようになるんです。寮生でよかったと思っています」と言うと「弱い自分に勝てるようになったのも、同期の仲間の支えがあったからです」と感謝の意を表した。

 アルプス席での応援に回った2年生にとっても、夏の甲子園出場は大きな糧となっている。「今度は自分があの舞台に立ちたい」と言葉に力を込めるのは松尾 直樹。梅野 遼太郎は「想像していた以上に素晴らしいところ」と刺激を受け、関 颯太は「1球で流れが変わってしまう場所」と感じたという。また桜井 貴一は「チームとして甲子園に出られたのは嬉しかった」としながらも「グラウンドに立てなかった悔しさがバネになっています」。

 一方、藤原監督は初戦突破とならなかった昨夏の甲子園の戦いを次のように考えている。「結果的に2対3で負けたんですが、3失点のうち2点はフォアボールのランナー。もったいなかったと思います。与四死球の数はこちらが8に対し、相手は3。ヒット数は2本上回っていたわけですから、この差が勝敗に直結したような気がします。それと一死二塁からのライト前ヒットで生還できなかったのも1つの敗因。走者は足が速くなかったものの、ライトの守備位置を考えれば帰ってこれた。ムダな四死球と走塁の状況判断。この2点を改善しないと、たとえ甲子園には出られても2つ、3つ勝つのは難しいでしょう」

 PL学園出身の監督のもと、昨夏の甲子園出場を大きな財産に、“長く厳しい冬”に対峙しながら心技体を鍛え上げている佐久長聖ナイン。春・夏の姿が楽しみだ。

(取材・文=上原 伸一

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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