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履正社高等学校(大阪)「『克服法を見い出す』伝統で初の甲子園頂点へ」【後編】

2017.03.29

■履正社の野球部訪問「『打倒PL』と『克服法を見い出す』指導の変遷」【前編】から読む

 後編では明治神宮大会優勝をステップに、初の甲子園制覇を狙う現チームの「克服法を見い出す」過程を探る。

先輩たちの「伝統」を引き継ぎ、明治神宮大会初優勝

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若林 将平選手(履正社高等学校)

 前編で触れたようにチームと個の克服法を見事にリンクさせた3年生たち。その伝統は現チームにも引き継がれている。
 

「まさか神宮大会で優勝するチームとは思わなかったですよ」
岡田 龍生監督。確かに発足直後、練習試合では負けが続いた。ただ、その原因は多くの選手が理解していた。春からレギュラーとして出場。新チームでは4番・主将としてチームを引っ張る若林 将平(2年・左翼手)は立ち上げ当初のチーム状態と対策をこう読み取っていた。

「ここで引っ張るのは、旧チームから試合に出場していた僕や安田(尚憲・2年・三塁手)、竹田(祐・2年投手)だと思っていました。 岡田先生はそういう状況を見越して前チームから僕たちを使ってくれていたので、結果を残さなければならないという思いはありました」
ここでも「チーム→個人→チーム」の克服サイクルが働く。
 

 はたして秋は夏までのを経験してきた選手たちがことごとく活躍を見せた。大阪府大会4回戦大体大浪商戦では大阪府屈指の好左腕・宮本 大勢(2年)に対し、石田 龍史(2年・右翼手)が先頭打者本塁打を放つと、若林と竹田と追撃の一発で4点を先制。8回にも4点を追加してコールド勝ち。

 若林は「あの時はたまたま宮本君の調子が上がっていなかった。実際に調子が上がってきた後は本当に素晴らしいストレートを投げていた。最初からエンジン全開だったら打てなかったかもしれませんね」と大一番を振り返る。しかしこれも、裏を返せば「先手必勝」を着実に遂行した履正社の戦術眼が確かなものを示すエピソードであろう。 

 先輩たちのリベンジマッチ・準決勝大阪桐蔭戦もそうだった。今年の履正社ナインの真価が試される試合となった。この試合でも夏の経験者が活躍する。1対1の4回裏、西山 虎太郎(1年・遊撃手)の2点適時打で勝ち越しを決めた後は、3番安田が左中間フェンス直撃の適時二塁打。安田は6回裏にも「得意な右投手だったので、ゾーンを高めに設定してしっかりと捉えて」試合を決める3ラン。

 エース竹田も女房役の片山 悠(2年)の「勝ち進むごとにエースとしての自覚が芽生え、粘り強さが出てきた」評価を体現する4失点完投。決勝戦こそ上宮太子に敗れたが、近畿大会は2試合のコールド勝ち含む強さを見せつけ優勝を果たしたのも、この府大会2試合の成功体験が大きかった。

[page_break:「全国制覇」へ、ハイレベルな「課題克服」に挑む]

 さらに履正社は11年ぶり2度目の出場となった明治神宮大会でも仙台育英(宮城)・福井工大福井(福井)、札幌第一(北海道)を次々と破り、清宮 幸太郎(2年・一塁手関連記事)率いる早稲田実業(東京)と決勝戦で対戦。4対6と2点ビハインドからの4回表・7得点で見事初優勝。寺島 成輝ら3年生たちも見つめる前で、彼らは伝統を引き継ぎ、最高の恩返しを果たしたのである。

「全国制覇」へ、ハイレベルな「課題克服」に挑む

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シートノックの様子(履正社高等学校)

 かくして充実の2016年を終え、今度は「追われる立場」として迎える2017年。それでも履正社は課題を克服するサイクルを変えることはない。あえて変わったことを言うならば……。彼らは「全国制覇」を前提にした、よりハイレベルな課題克服に取り組んでいるということだ。

 若林が試合での無意識に到達するため、木製バットを使っての打撃練習で「最短・内回りでスイングする」を、実戦練習を通じ構え、トップ、タイミングの取り方などフォームを確認しながら進めれば、片山は1学年下の溝田 晃生のクレバーさを素直に認めつつ、「捕球時に右脚へ体重を乗せて、送球の時に右脚をうまく出す」スローイングと「捕球時にミットを静止させるために指を一時半の向きにする」キャッチング技術などで対抗。

 また、エースの竹田はダルビッシュ 有投手(MLBテキサス・レンジャーズ)の映像を参考に「近い距離からしっかり放るのと、遠投ではしっかり真っ直ぐと低い弾道で遠投できるように、ボールの指のかかりを意識しています」とコメント。その他にも3選手からは次から次へと技術向上のアプローチ法が明かされた。

 岡田監督はそんな選手たちの姿を頼もしげに見つめる。
「自ら考えて自ら練習を選んで取り組んでいく姿勢がずっと続いてきて、チームも選手も、だんだん成熟してきました。それが基盤となったからこそ、強さが出てきたと思います。まだ理想の形ではないですが、だんだんうちが目指す野球となってきましたね」

 チームが高みに昇るために必要な部分を知り、個人を高め、そして3月19日からの12日間でチームに落とし込む。その先にあるのはもちろん初の「甲子園優勝」。もし、それが達成できれば「打倒PL」から始まった履正社のスタイルは、全国高校野球のスタンダードのみならず、育成メソッドのスタンダードとして世間に認知されることになるだろう。

(取材=河嶋 宗一

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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