県立益田清風高等学校（岐阜）「飛騨から初の甲子園へ」【後編】

益田清風・兼山 健吾選手（秋季岐阜県大会　多治見戦より）

　2回戦の市岐阜商戦に向かうバスの中で、選手たちはこの日の試合展開について話し合った。今日は、どんな得点パターンが作れそうか？誰が先頭で出て、どう得点につなげるのか。例えば、1番二村 翔真が先頭で出てからの得点パターン以外にはどんな方法がある？もし、4番の今村 浩史郎が先頭で出たあとに、足が使えなかったら、その後5番下垣内 伶皇が送って、6番の桂川 岳か7番・小林 司のどちらかが返すパターンか？

　そんな議論の中、この日の試合のテーマを話し合っていると、運転席の細江 順監督が、「上から目線のチャレンジャーはどうや？」と声を掛けた。「おぉー！！」と車内が沸き立つ。

「新チームが始まった時も、自分たちは力がないことを知っていて、だからこそ、みんな真剣に取り組んできたので、自分たちの取り組みに自信がありました。細江先生の案にみんなが盛り上がりました」

　チームの合言葉も決まった。そして、迎えた市岐阜商との一戦。
「この試合、エースの今井 亮介ではなく、兼山 健吾が先発したんですけど、市岐阜商打線相手に堂々と投げていて、ピンチの場面も上手くフライで打ち取ったり、兼山が良いピッチングをしてくれました」と、キャッチャーの桂川が振り返る。

　5回終わって、0対0。ベンチの中で、細江監督は言った。
「波はくるで、我慢しろ。流れがうち寄りになった時に、一気に攻めるぞ」
そのチャンスは7回に訪れた。
7回、4番の今村がヒットで出塁すると、5番・下垣内が犠打で送る。6番・桂川が四球で出塁。続く、7番・小林のライト前ヒットで、二走の今村が相手の送球が逸れた間に、ホームに還る。

益田清風・鈴木 太郎選手（秋季岐阜県大会　多治見戦より）

　行きのバスの中で、話していた展開通りの試合運びとなった。その後も、1点を守る野球はせずに攻め続けた益田清風。
兼山は8回を投げて、二塁までしか踏ませない完璧なピッチングをみせた。9回、市岐阜商のランナーが出て一死一塁となるも、2番手・今村が最後はピッチャーライナーで打ち取り、併殺で試合終了。1対0で2回戦を突破した。

　続く準々決勝・中京との試合。試合前のバスの中で、選手全員で合言葉を再確認した。
「チャレンジャーに大事なのは、とにかく粘り強さだ」

　益田清風の先発は2年生投手・鈴木 太郎。
「市岐阜商に勝ったら、自分が先発で行くと聞いていたので、ずっと緊張していました」と、鈴木は初回に満塁の場面を作るも、ここは踏ん張り無失点に抑える。
その裏、益田清風が中京を攻め立てる。
「カウント1-3だったので、とにかくストライクがきたら、思いっきり振ろうと思っていました」と、1番二村がセンターオーバーのスリーベースを放つと、2番島田 昂弥が初球を叩いて、ライト前タイムリー。1点を先制した。先発の鈴木は、打者一巡投げ無失点のまま、エースの今井に繋いだ。

　1点を先制した益田清風だったが、6回に中京打線に逆転を許す。2点タイムリーを打たれ、1対2。細江監督はすかさずベンチメンバーに言った。
「ここがチャンスだ。ここでベンチが盛り上がっていけたら、この試合勝てるぞ」

　その裏、益田清風は、相手投手の制球の乱れをついて、四球で出たランナーが暴投の間に三塁まで進むと、3番日下部 雅征の犠牲フライで同点に追いつく。
2対2で迎えた9回裏。先頭の4番今村がセンター前ヒットで出塁すると、5番下垣内が犠打で送り、続く6番桂川がセンター前ヒットで繋いで一死一三塁。最後は7番小林がセンターの前にしぶとく落として、サヨナラのランナーが還り3対2で中京を下した。

益田清風の選手たち

　東海大会をかけた岐阜県大会準決勝。益田清風は多治見と対戦。7回の日下部の3ランなどで、9回表を終えて、5対1とリードしていた益田清風だったが、その裏、多治見に5点を挙げられ逆転サヨナラ負け。先発・今井のあとを継いだ兼山、今村、鈴木の3投手が多治見打線を止めることが出来ず、あえなく敗戦。部員たちは、
「中盤までは押してはいたけど、9回表の攻撃で、走塁ミスでゲッツーを取られて、それで流れが向こうに行ってしまった感じがありました。その裏の相手の攻撃で先頭にヒットが出て、自分たちも焦ってしまった。成るべくしてこういう展開になってしまったという試合でした」
そう、この日の試合を振り返った。

　この一戦は、投手陣にとっても、冬に向けた大きな課題が見つかった試合となったが、チームとしても学ぶべきことが大きかった。細江監督は、
「県大会で得たものは2つ。我慢して必死になってやれば、僅差でも勝つ力がついたということ。そして、9回裏のたった3つのアウトを取ることの難しさも学びました。この課題をクリアできれば夏に向けて大きく成長できると思います」と語った。

　選手たちは、冬前の公式戦、練習試合の敗戦を糧にして、このオフのトレーニングに励んでいる。秋は2番を打った島田は、春に向けてこう話した。
「勢いだけでは甲子園に行けないことが秋の大会で分かったので、勝つためには身体も大事だし、力も技も心も、全部必要だと分かりました。それをこの冬と春で身につけて、自分たちのやりたい野球で夏に向かっていきたいです」

　また、中京戦で先発した鈴木は、
「秋からピッチャーが足を引っ張っていて、でも、自分たちのために人生をかけてくれている先生やコーチの方のためにも、僕ら投手陣自身が底上げして、夏は『こいつらに人生かけてよかった』と思ってもらえるように、投手陣がチームを引っ張ってチームを甲子園に連れていきたいです」と意気込む。
　

　そして、最後にキャプテン・桂川は言った。
「まだ飛騨の高校球児は誰も甲子園に行ったことがないので、飛騨から初めて甲子園に行けば、先生や支えてくださっている親や地域の方々も、人生が変わると思うので、感謝の気持ちを込めて戦って、甲子園に行きたいです」

　益田清風の野球。この代だからこそ、出来る野球を貫いた先に、先人たちが夢みた“飛騨から初の甲子園”が待っている。

（取材・文＝安田 未由）