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県立武岡台高等学校(鹿児島)「『普通の高校生』が変わるとき」【前編】

2017.01.07

 武岡台は1987年4月に開校、普通科と情報科学科がある県立校であり、今年で創立30周年を迎え、県内では比較的新しい学校である。その武岡台が昨秋の鹿児島県大会で4強入りした。春秋にある九州大会予選での4強入りは89年春の第84回大会以来55季ぶり、実に27年半ぶりの快挙だった。

20数年前から侮れない力を持った武岡台

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90年夏と95年NHK旗準優勝。武岡台の栄光を物語る記念碑(県立武岡台高等学校)

 武岡台の4強入りがどのぐらいぶりかを調べたとき、27年というのが意外だった。毎回県大会の展望を書く際、優勝候補ではないが、決して侮れない実力校として名前を挙げることは多かった。長く鹿児島の高校野球を見ているファンにとっては、学校創立4年目の90年夏に、ノーシードながら決勝に勝ち上がり、鹿児島実と甲子園をかけて接戦を演じたインパクトが、未だ忘れられないのではないないだろうか。

 宮下 正一・現監督が主将で内之倉 隆志(元ダイエー)ら豪華メンバーをそろえた鹿児島実を相手に0対4で敗れたものの、終盤まで互角に競り合った。筆者は当時、同じ鹿児島市内の普通科の公立校を通っていたので、「自分たちも、頑張ればあの舞台に行けるのではないか」と勇気づけられたことを鮮明に覚えている。

 今、武岡台の野球部員の中で入部の動機が「武岡台で甲子園に行きたいから」と明確に言える部員は少ないという。そもそもの入学の動機が「大学に進学したいから」「自分の学力で行ける学校だったから」など様々だ。それは鹿児島実神村学園樟南などの甲子園常連校の強豪私学以外の学校で野球をする高校生なら共感できる本音だろう。

 そんな「普通の高校生」が集まる武岡台だが、7月に新チームができたときチームの目標を「甲子園」と定めた。それから約2カ月後の県大会で27年ぶりに4強入りし、あと一歩で九州大会出場は逃したが、21世紀枠の鹿児島県推薦校になった。はるか彼方の「夢」だった世界が、少しだけ「現実」のものに感じられる手応えはつかんだ。

[page_break:「結果」が「自信」に]

「結果」が「自信」に

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濱涯 聡監督(県立武岡台高等学校)

「やっと人数の心配をしないで野球ができるチームを率いることができました」と就任2年目の濱涯 聡監督は笑顔で話す。67年生まれの49歳と年齢的にはベテランの域だが、高校野球の指導歴は10年余りと短い。「15年指導者をすると、高野連から表彰されるのですが、僕はまだなんです」と苦笑する。

 鹿児島玉龍、鹿児島大を出て公立高校教員を志したが、当時は高校の採用がなかった。小学校、中学校勤務を経て、35歳の時に種子島で部長になったのが念願かなって「高校野球」の現場に立てた最初だった。ちなみに3つ下の弟・泰司さんは投手で、鹿児島商工(現・樟南)から九州国際大に進み、福岡ダイエーで5年間プロにいて、現在もソフトバンクで打撃投手を勤めている。

 北薩地区の川薩清修館で8年間監督をして、武岡台が3校目。川薩清修館時代は人数を9人そろえることに毎年苦労し、そろわずに合同チームで大会に出たこともあった。その分、初めて大所帯のチームを率いるやりがいを感じている。

 主将の永井 千尋(2年)は薩摩隼人ボーイズ出身で、いくつかの学校から「野球で」と声はかかったが、「学校が自宅から近かった」ことと「大学進学」を第一に考えて武岡台を選んだ。2年生23人、1年生24人で新チーム最初のミーティングで話し合い、「全ての人から応援されるチーム」になることをスローガンに掲げた。そんなチームになるために「甲子園出場」が具体的な目標になった。

 武岡台が県大会決勝に進んだのは前述した90年夏と、その5年後の第37回NHK旗選抜大会の2回であり、それ以降は4強にも進めていない。ベスト8も11年春以来5年以上遠ざかっている。この1年間は2015年秋の初戦与論に勝利しただけで、とも初戦敗退だった。上位で戦うことが具体的にイメージできるような実績はなかったが「3年生が少なかった分、2年生が経験を積めた」(濱涯監督)。

 主将の永井、遊撃手の竹原 巧翔、左翼手の日髙 紘志が夏のレギュラーメンバーであり、二塁手の山下 駿哉、三塁手の山下 慶、外野手の中村 駿介、投手の村山 大樹に1年生投手の宮田 悠希がベンチ入り。3年生が12人と少なく、2年生は1年秋から実戦経験を積んだメンバーが多い。「中学の頃から力があり、お互い知っているメンバーも多くて、このメンバーなら(甲子園に)いけるんじゃないか」(山下慶)と思えた。

 目標を「甲子園」に定めたからといって「特別何か変わった練習を取り入れたわけではない」(濱涯監督)が、8月に新チーム最初の公式戦になる鹿児島市内普通高校大会で優勝した。市内の普通科のある学校8校の大会だが、近年は鹿児島玉龍鶴丸などの後塵を拝していた。濱涯監督の母校である鹿児島玉龍に6対2、鶴丸に7対6で勝利。小さな大会だが「優勝旗」を手にしたことで「自信がついた」(永井主将)。

[page_break:「半端な努力じゃ何も変わらない!」]

「半端な努力じゃ何も変わらない!」

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鹿児島実戦の大敗のあと、掲げられた教訓(県立武岡台高等学校)

 普通高校大会で小さな「自信」をつけたが、その後の鹿児島市内大会では甲子園常連校・鹿児島実にその自信を完膚なきまでに叩きのめされた。普通高校大会で勝った鹿児島玉龍に再び勝利し、意気揚々と準々決勝で鹿児島実に挑んだが0対11の5回コールド負け。ヒット1本しか打てなかった。初戦で同じ普通科県立校の鹿児島中央が延長戦までもつれたことから「自分たちもそこそこやれるはず」(山下慶)と思っていたが甘かった。

 選手の体格、打球の質、何より「集中力」に永井主将は差を感じた。ここぞという場面になると点を取るための集中力を発揮し、一気に畳みかけてくる。「全てが一歩上だった。対戦するのはまだ早かったか…」との挫折感を主将はかみしめるしかなかった。

「昨日と同じことをしたってこの現実は変わらない。今日の俺の練習はこの差を縮めるものか?」
鹿児島実戦で大敗した翌日に、この文言と鹿児島実戦のスコアボードを合わせたカードが練習場のバックネット裏にある部室と倉庫に掲げられた。

「半端な努力じゃ何も変わらない!」の文言と合わせて、山下慶の父で保護者会副会長の泰生さんが作ったものだった。大敗の悔しさを忘れず、日々の練習の中でその差を埋めることを常に意識づけるものだった。

 以来「練習の中でメリハリを意識するようになった」と永井主将は言う。声掛け一つにしてもただ漠然と大きな声を出すのではなく、その場に必要なこと、相手に伝えたいメッセージを話す「確認の声掛け」を心掛けるようになった。山下慶は「打撃練習で1球1球考えながらするようになった」。ただ数をこなすのではなく、フライを打ち上げてしまえばなぜ打ち上げてしまったかを考える。試合の状況、必要な打球をイメージし、その打球を打つためには技術的に何が必要かを考えながら打撃練習に取り組むようになった。

 鹿児島実業戦の大敗をきっかけに目の色を変えて練習に取り組んだ武岡台ナイン。後編では快進撃で勝ち進んでいく武岡台ナインの様子を描いていきます。

(取材・文=政 純一郎

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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