Column

市立太田高等学校(群馬)【前編】

2016.08.24

 2015年4月1日より、旧校名の太田市立太田商高から現校名になった、群馬県の太田市立太田高等学校。1996年春には春夏通じて初の甲子園初出場を果たしており、広島東洋カープの相澤 寿聡投手と千葉ロッテマリーンズの細谷 圭選手の2人のプロ選手も輩出している。

 今年1月に富士重工業からの出向という形で、この市太田の監督に就任したのが、前の富士重工業の監督である水久保 国一氏だ。富士重工業の監督時代は、2013年の日本選手権2014年の都市対抗で、それぞれ準優勝に導いている。当時から選手の自主性を重んじていたという水久保監督に、自主性の意味や、市太田の選手たちの、自主練習の取り組みなどについて伺ってきました。

自ら考えて行動することは、それだけ責任も伴う

水久保 国一監督(市立太田高等学校)

「社会人時代に応援してもらった富士重工業の地元・太田市に恩返しができれば」。

 その思いを持って市太田の監督に就任した水久保 国一監督は、今夏の東東京大会決勝に進出した東亜学園の出身。「東亜学園の野球部で過ごした2年半、そして上田 滋監督との出会いが、その後の野球人としての基盤を作ってくれました」と水久保監督は話す。ただ在学時(1983年~1985年)は、自主的に自分のプレーを考える余裕はなかったという。

「あの頃は“根性野球”が全盛ですしね。もっぱら“やらされる練習”が中心。それが当時のチームには合っていたし、それで結果も出ていたのです」

 そんな水久保監督が「自主性」という概念に巡り合ったのは、日本大に進学してから。もしかすると「自主性」を履き違えていた水久保監督に“真の自主性”を教えてくれたのは、現在、桐蔭横浜大で指揮を執る齋藤 博久監督。同学年の2人は最上級生時、水久保監督が主将で、齋藤監督は学生コーチ、という関係だった。

「彼はどうすればチームが強くなるか、いつも考えていましてね。私たちの代になってから、和泉 貴樹監督(当時)の理解のもと“自分たちで考える野球”を実践できたのですが、それも齋藤という有能な学生コーチがいたからです」

 3年秋のリーグ戦後にセンターからサードにコンバートされた水久保監督に、毎日ノックをしてくれたのも齋藤監督だった。全体練習が終わったグラウンドには必ず、ノックバットを振るう齋藤監督と、ゴロ捕球を繰り返す水久保監督の姿が。すると、チームに変化が表れる。少しずつ自主的に居残り練習をする選手が増えていったのだ。やがては全員が残るように。水久保監督は「私は経験がなかったポジションに対応しなければ、という一心で、みんなには強制した覚えはないんです。主将である私の姿を見て(自分もやらねば)と思ってくれたのでしょう」と振り返る。

「自ら考えて行動することは、それだけ責任も伴う」と水久保監督。東都リーグ二部にあったチームは水久保監督が4年秋、二部リーグで優勝を果たす。一部二部入れ替え戦も制し、一部昇格を勝ち取った。
「あの自主練習が、そして、自分たちで上手くなって、自分たちで強くなろう、という雰囲気がチームを押し上げてくれたのだと思います」

[page_break:みんなでやる全体練習も意識次第で自主練習になる]

みんなでやる全体練習も意識次第で自主練習になる

全体練習の合間に正しい捕球姿勢の習得に励む

 2010年から5年間、社会人野球の名門・富士重工業で監督を務めた水久保監督は、在任中、社会人の選手たちに「練習ではひたすら欲深く(試合では欲を捨てよ)」と説いてきた。高校野球と社会人野球とではレベルは異なるも、それは通じるという。

「高校野球の予選も、社会人野球の予選も一発勝負の厳しさがあります。そこで力を発揮しようとしたら、練習では、この1本、この1球、この1歩、この1声に貪欲にこだわらなければいけないと思います」

 また水久保監督は「こうした姿勢は全体練習でも、自主練習でも必要」と考えている。

「そもそも全体練習も自主練習も、根幹は変わりませんからね。私は全体練習の時も自主練習ができると思うんです。みんなと同じ練習をしていますが、意識一つで個人のスキルを高める場になる、と」

 ところで「自主性」とはどうしたら育まれるのだろう?その原点とは何なのか?水久保監督は「できないことへの悔しさを持つことでしょうか」と言うと、次のように続けた。

「それが自主性や自主練習のエネルギー源になります。ですが、ただただやみくもにやればいいかというと、それは違う。自主練習ではまず、基本をしっかり身に付けることが肝心と、私は考えています。その上で自分に足りないものを理解し、そこでの技術的なポイントを高めていく。情熱も大事ですが、客観的に現状の自分を知ることが、自主練習をするための前提になると思いますし、それが効率も高めるのです。もちろん、そのためのサポートは指導者の役目でしょう」

[page_break:守備の自主練習では正確な送球につながる捕球の姿勢を習得]

守備の自主練習では正確な送球につながる捕球の姿勢を習得

中村 光選手(市立太田高等学校)

 高校野球の監督としては1年生の水久保監督を支えているのが、津久井 孝明部長だ。市太田(在学時は太田市立太田商高)のOBでもある津久井部長は、前任の大間々でコーチとして2年、監督として7年間指導。毎年部員不足で悩む同校を、私学強豪とも互角に渡り合えるチームに仕立てた。在任中、群馬県大会で3度、16強に進出している。2014年のドラフト育成6位で福岡ソフトバンクホークスに入団した金子将太は教え子だ。

 他にも卒業後に次のステージで野球を続ける選手を数多く育てた。水久保監督の津久井部長への信頼は厚く、「津久井先生がいたから、ある程度出来上がった選手と接する社会人野球と、そうでない高校野球の違いに早く気が付くことができました」と語る。現在、選手時代は強打者として鳴らした水久保監督が打撃を、津久井部長が投手と守備を、それぞれ主に担当している。

ミニダイヤモンドを使って全体練習

 先も触れたように市太田では、自主練習をまず基本の習得の場としている。守備面の基本で重視しているのが、「捕球の姿勢」だ。守備を担当する津久井部長は次のように説明する。

「私はエラーの8割は送球ミスだと認識しています。そこでウチでは、確実な送球をするために、例えば約20メートル四方のミニダイヤモンドを使って、一番いい体勢で投げる練習を全体練習で行っています。では、一番いい体勢とはどんな体勢かというと、それはいい捕球の体勢。つまり、いい捕球の体勢を作れていれば、捕球した時に右の股関節に重心が乗った形が作れていれば、いい送球をすることができるのです」

 内野の要である二塁や遊撃を守る中村 魁選手(2年)も、自主練習では「常に理に叶った捕球姿勢で捕るための練習を繰り返しています」。チームメイトから緩いゴロを転がしてもらうこともあるが、守備の自主練習で活用しているのが、今年4月にグラウンド敷地内に設置された、いわゆる「壁当て」ができる「壁」だ。中村 魁選手はカベにボールをぶつけ、跳ね返ってきたボールに対し、1球1球丁寧に腰を落とし、正しい捕球姿勢を体に染み込ませているという。時にはカベを使ってグラブのハンドリングの練習をすることもあるそうだ。

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  • 壁当てが大事

  • 低い姿勢で

  • 1球1球を丁寧に

  • 正しい捕球姿勢を心掛けよう

  • 体にしみこませよう

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壁当てが大事

低い姿勢で

1球1球を丁寧に

正しい捕球姿勢を心掛けよう

体にしみこませよう

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  • ミニダイヤモンドを活用する選手たち

  • 正しい捕球姿勢を大事に

  • 良い捕球の体勢を意識しよう

  • 良いスローイングは捕球から

  • 捕球した時に右の股関節に重心が乗った形が作れているか

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ミニダイヤモンドを活用する選手たち

正しい捕球姿勢を大事に

良い捕球の体勢を意識しよう

良いスローイングは捕球から

捕球した時に右の股関節に重心が乗った形が作れているか

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 後編では打撃の自主練習での取り組みについて紹介します!

(取材・文=上原 伸一


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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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