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創志学園高等学校(岡山) 「奇跡」呼ぶため積んだ練習での「必然」 

2016.08.11

 7月25日、[stadium]倉敷マスカットスタジアム[/stadium]での全国高等学校野球選手権岡山大会決勝戦。創志学園は、玉野光南の前に一時は敗戦の淵に追い込まれながらジャッジ変更後の9回表、一死から4点を奪う見事な逆転勝ち。春夏連続・夏は初となる甲子園出場を決めた。
では、彼らはなぜ「窮地」を「歓喜」に変えることができたのか?その裏にあった「必然」の積み上げを今回は探る。

「ケースに応じた」打撃強化で向かった夏

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創志学園高等学校のランナー付きケースバッティング

「実は今日は、もう1つ練習しているところがあって、レギュラー組以外は環太平洋大のグラウンドで練習。あとで、1時間ほどかけてそこへも行かなくてはいけないんですよ」

 5月中旬、もう夏の日が照り付ける午後。学校が位置する岡山市中心部から12kmほど東にある[stadium]瀬戸町運動公園野球場[/stadium]で野球部の練習環境を語り始めたのは長澤 宏行監督。

 夙川学院(兵庫)、東海学園大で女子ソフトボール部の名将として鳴らし、1996年のアトランタ五輪では日本代表ヘッドコーチも歴任。野球界でも2003年4月から5年間初代監督を務めた神村学園(鹿児島)では野上 亮磨(日産自動車~埼玉西武ライオンズ)をエースに2005年センバツ初出場で準優勝。その後、環太平洋大でもチームの基盤を作り、2010年4月の創志学園創部と共に同校監督に転じると、2011年センバツに2年生のみでまたしても初出場に導いた。大会直前に発生した東日本大震災の被災者に寄り添う野山 慎介主将(現:東海大4年)による感動的な選手宣誓を覚えている読者の皆さんも多いはずだ。

 この春、その2011年以来となるセンバツ2度目の出場を果たし、待望の甲子園1勝をあげた創志学園であるが、この2グラウンドに加え、[stadium]岡山県野球場[/stadium]や[stadium]和気町総合グラウンド[/stadium]を日によって使い分けていくジプシー練習に変化はない。

 一方で、レギュラーと控え組を分けた環境だからこそできることもある。秋の公式戦チーム打率.327から一転、59打数14安打・打率.237に終わったセンバツと「夏のシードを取りながら髙田 萌生関連記事)に続く2番手・3番手投手を育成する」テーマを掲げ、髙田を登板させず8強入りを果たした春の岡山県大会を踏まえ、長澤監督は改めて打撃力強化に着手。しかもその内容はより実戦に即したものとなった。

昨年の神宮大会敦賀気比(福井)に敗れた時にはさほど相手との差は感じなかったんですが、高松商(香川)には4人くらいタイプの違う打者がいて、これまでの高校野球とは違うものを感じました。そこで自分で考えて動ける選手を作りたいと思って取り組んでいるんです」

 かくして、指揮官いわく「大長 秀行コーチがキャプテンの時、2005年センバツで準優勝した神村学園のように」、選手たちの発想を引き出し、全国上位を目指す打線形成を創志学園は目指した。まずは個々に適合した打撃フォーム等の指導は桐蔭学園(神奈川)、法政大、ヤクルトスワローズ、オリックス・バファローズなどで活躍した副島 孔太氏をコーチに招聘し地固め。ケースバッティングで、守備・走塁と一体化したより実戦に即した対応の中で、よりチーム精度を高める練習に取り組む。

「夏は岡山大会決勝に2度(20122015年)進んで、いずれも先制して終盤に逆転されて負けている。正直手探りの部分が多いです」
寮生活も含めた部分でスキのない指導にも執心する長澤監督はこのように当時の手ごたえを語った。では、選手側の手ごたえはどうだったのか?

[page_break:センバツでの課題を着実に練習で消化して]

センバツでの課題を着実に練習で消化して

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ノックを受ける創志学園高等学校の外野手たち

 今度は主将・野川 悟(3年・内野手・170センチ65キロ・右投右打・兵庫タイガース<ヤングリーグ・兵庫>出身)をはじめ、北川 大貴(遊撃手・3年・右投左打・178センチ75キロ・東大阪リトルシニア<大阪>出身)、難波 侑平(左翼手兼投手・2年・右投左打・178センチ75キロ・岡山リトルシニア出身)、高井 翔(右翼手・3年・右投右打・179センチ78キロ・広島高陽リトルシニア<広島>出身)、小林 勇輝(捕手・2年・右投左打・179センチ76キロ・尼崎市立南武庫之荘中<兵庫>出身)の5人に会してもらった。

 彼らはいずれも昨秋の岡山県大会からセンバツ2試合までを戦い抜いた盟友たちである。では、夏に向けて彼らは何に取り組んでいるのだろうか?
「チームとしては自主性をテーマに、1人1人が責任をもって、自覚をもって行動することに取り組んでいます。自分としては中心選手の声を尊重しながらチーム全体を見ることを心がけています」

 3年生35名、2年生20名、1年生35名、2年生マネジャー1名、計96名の部員を束ねる主将・三塁ベースコーチの野川からは全体を捉えた模範的回答が出てきた。では、特に打撃面について細部へ触れていこう。

「みんながシングルヒットでつないでいく野球をするために、全員でバットを振っていくことをしています」とセンバツ1番の北川が口火を切ると、センバツ3番、春の県大会では最速140キロにナックルなどの多彩な変化球を操るマウンドでもいい課題を得た難波が「状況に応じて考えながら打つことをテーマにしている」とカバーリング。

 センバツ4番の高井は「各自でセーフティーバント、ケースバッティングでは2ランスクイズなど小技を含めてチャンスに一本出せるような打撃を心がけています」とさらに深みを持った意見を述べれば、センバツではエース・髙田 萌生とバッテリーを組んだ小林は「センバツではピンチの時、リードに時間をかけていい場面で打たれたところもあった」と、次に聴くべき守備の方向へと話を展開。トーキングも見事な「つなぎ」である。

 根源にはやはりセンバツの記憶がある。「東海大甲府高松商の投手陣は、ストレートが速いのに加えて何個かある変化球もキレのいいボールがあった。そこに対して緊張感で振れない部分があったので、もっと練習から緊張感をもって、ケースを考えてチャンスに一本出したい」と高井が打撃面で活かすべきことを提示。また、高松商戦(試合レポート)の3回表に5番・美濃 晃成に頭上を越され満塁走者一掃を許した難波も「二死だったので捕球するだけだったのに、背走の仕方が悪くて3点を許してしまった。流れを悪くしてしまった」との反省を糧に、目を切って追う背走練習に取り組んでいる。

 もちろんセンバツで通用したこともある。「ゴロスタートで次の塁を狙うことで東海大甲府戦も2点が取れた」(北川)。主将の野川いわく「この代は足の速い選手が多いこともあって、より思い切った走塁に取り組んで、実戦練習でもその意識をもってやっている」積み上げが出た形となった。

 そして7月25日、さらなる積み上げは最後の最後で底力となった。

[page_break:「確かな努力」と「報いる想い」で甲子園でも自分たちの野球を]

「確かな努力」と「報いる想い」で甲子園でも自分たちの野球を

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緊張感漂う創志学園高等学校のノック

 初回に1点を失い、玉野光南阿部 卓未(3年)から濱口 祐真(3年)のリレーに、その1点を取り返しきれないまま迎えた9回表一死一塁。1番・難波の投ゴロ併殺と思われた打球が、フェアゾーンでワンバウンド後、打席内で身体に当たっていたためのファウルと判定されるまでの空白の時間。「昨年の夏・岡山大会決勝戦のような悔しい経験は二度としたくないし、先輩たちの想いも持って戦いたい」と話していた彼は集中力を持続させていた。
 

 試合再開後の初球で難波が右前につなぐ。一死一・二塁。「岡山大会では負けることはできない」と高い緊張感をもっていた2番・北川も巧みに左前へ。一死満塁。そして「チャンスに一打を打ちたい」と語っていた3番・高井は岡山大会の不振を取り返す初球攻撃。遊撃手への執念の同点内野安打。さらに遊撃手がボールをこぼす。

 積み重ねの産物である走塁の強みを発揮する場面は、この時をもって他にない。「相手が想像もしないこともやっていきたい」と三塁コーチの戦略を事前に語っていた野川の手が回り、難波が本塁へと疾走する。ヘッドスライディングは間一髪セーフ。逆転。その後2点を追加し、試合は決まった。9回裏を無得点に抑えて試合終了。はじめての夏甲子園出場に背番号「1」を囲んで歓喜の輪を作る創志学園の選手たち。その時、2か月半前に語っていたことが思い浮かんだ。

「僕たちの目標は甲子園に出て日本一が目標」(北川)、「チームワークを大事にして戦いたい」(難波)と夏への想いを語る5人。その中にはもちろん、あのエースの名前が中心にあった。髙田 萌生。当時、彼について選手たちはこんなエピソードを話している。

「髙田は昨秋の中国大会後からものすごく練習していました。時間があれば室内練習場に行ってひたすら走っていたりしている。チームで一番練習している。だから僕らは打撃で助けたいんです」(北川)。「髙田さんがいつもシャドウピッチをしているのを見て、みんなが真似をするようになって、投手陣全体の力が上がったんです」(小林)

 だからこそ晴れ舞台の甲子園でも、自分たちの野球を。「昨年の夏、岡山学芸館に決勝戦で敗れた後に髙田は意識が変わった。シャドウピッチングもするし、食事量も多い。だからこそチーム全体で勝たせたいし、丁寧に戦いたい」

 創志学園はエースに報いるべく、主将・野川の声を銀傘や共鳴させ、アルプススタンドからの声援も力にし、そして玉野光南をはじめ、岡山59校の代表として。8月13日(土)の第3試合で代表49校のしんがりで盛岡大附(岩手)の強打線に立ち向かい「打ち克つ」野球を目指す。

(取材・文/寺下 友徳

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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