Column

徳島市立高等学校(徳島)

2016.07.17

 2014年春はわずか自前選手2名。2014年秋、2015年春も選手8名のため連合チームで出場した徳島市立。しかし、そんな苦難からわずか半年後の昨秋県大会で彼らは6年ぶりの公式戦1勝。この春は2勝・県大会では18年ぶりにベスト8進出を果たした。
では、彼らはなぜそのような大躍進を遂げることができたのか?夏は7年ぶり選手権徳島大会1勝の先を狙う徳島市立が積み上げた「キセキ」を追った。

「選手2名」。そこからの我慢と変革

徳島市立高等学校(徳島)  | 高校野球ドットコム

個々のイメージを持って素振りに取り組む徳島市立高等学校の選手たち

 「全国優勝」。

 徳島市立野球部グラウンドの前には、このような石碑が立っている。ただ、この石碑は野球部のものではない。1991年に全日本ユース、1992年にインターハイを制し、元日本代表のMF藤本 主税(現J2熊本U-15チーム監督)はじめ、Jリーガーも多数輩出している全国レベルの強豪・男子サッカー部が打ち立てた栄光である。

 公式試合も行える人工芝グラウンドを持つサッカー部にこそ及ばないが、1666・1967年に初参加後、1973年に再創部された野球部も徳島県内で中堅校だった時期があった。
横浜隼人(神奈川)を2009年夏に甲子園に導き、2014年にはオリックス・バファローズのドラフト2位の宗 佑磨も育て上げた水谷 哲也監督が3年生だった1979年夏には初のベスト8進出。以後、夏の徳島大会では1982・1997年にベスト8。秋も1979年秋にベスト4へ進出している。

 しかしその後、選手数は徐々に減少。そして部存続の危機が2014年に訪れる。4月には3年生3人のところに1年生が4人入ってきて、夏は2人他の部活から選手を借りて出場しました。ただ、3年生が引退し、夏を終えると1年生も2人が退部。すなわち1年生2名のみとなってしまったのだ。

「そこで聞きました。『部活は続けるのか?』でも2人は『やる』と言ったので春まで待って、新入部員の入部を待つことにしたんです」
今年就任10年目を迎える岩脇 達克監督が当時を振り返る。この春に卒業した田中 健太郎(投手)、園井 誠(内野手)。この2人による部活継続表明なくでは徳島市立野球部の存続はありえなかった。

 そして「残ってくれただけでも素晴らしい」と真から感動した指揮官自身も以後、大きく指導法を変える。当時、講師として赴任していた藤井 肯人コーチ(昨年度は徳島城北監督→現:小松島西勤務)と共に指導者と選手との垣根を低くし、練習内容も情報収集力のある選手たちに多くの部分を任せることにした。

「野球が好きなんだから、そこを折れないようにする。『けんちゃん、まことちゃん、今日も練習するか!』こんな感じになりました」(岩脇監督)。今も続く風習である。

 そのような変革の数々と、一日300回の素振りを自らに課した選手2名の我慢は、2015年4月、新たな化学変化をもたらす。現3年生のバラエティーに富む6名が入学したのである。

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バラエティーに富む3年生6人、徳島市立の門を叩く

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1年生8人が加わり22名の徳島市立高等学校の選手たち、雨天メニューの校舎内ランニングがスタート

 徳島県にはスポーツや文化活動を評価し推薦入試同様の形で受験する「特色選抜」という制度がある。この制度を使ってまず入学したのが「1年生から試合に出られると思ったし、のびのびやれると思った」現在4番の井川 翔太(捕手・副キャプテン・174センチ68キロ・右投右打・徳島市城東中出身)である。

 続いて、バレー部の姉と同じ徳島市立を志願したのは「本当は野球をする気はなかったけど、勝ちたい気持ちがあったので続けた」1番の山田 真聖(中堅手・171センチ60キロ・徳島松南<ヤングリーグ>出身>)。
そして理数科所属・東大野球部志望。「文武両道を体現するにはここしかいないと思った」2番の和気 大河(二塁手・173センチ66キロ・右投右打・鳴門市大麻中出身)。

 「藤井先生に今年のドラフト1位と言われてやる気になった」5番の新田 耕平(主将・一塁手・178センチ70キロ・徳島市津田中出身)。
「肩を痛めていたので最初は野球をする気はなかったけど、藤井先生に言われたのと、同じクラスの新田君がやる気だったので負けないと思って参加した」3番の布川 裕規(遊撃手・副キャプテン・175センチ70キロ・右投右打・徳島市八万中出身)。この3人も入部してきた。

 さらに野球以外のスポーツからも1人が加わる。小松島市立小松島中バレー部出身、中学時代は2アタックを得意とするセッターだった現8番・森 祐真(左翼手・右投右打・170センチ72キロ・右投左打)。「桐光学園松井 裕樹さんが三振を取るのを見て、バレーボールのスパイクが応用できると思ったんですが、普通なら高校野球部は門前払いになる。でも、徳島市立なら野球部に入部させてくれると思った」。もくろみは見事に成功した。

 こうして選手8名となった徳島市立。1年生たちは「試合に出場できる」ことで高いモチベーションを常時保つことができた。20時完全下校であっても、2年生10名(うち女子マネジャー2名)、1年生10名(うち女子マネジャー2名)の総勢28人(うち女子マネジャー4名)の現在と比べ2倍・3倍の練習量。それでも彼らは1学年上の2人が醸し出すフレンドリーな雰囲気の中で、素振り、個人ノック、校内にある坂道ダッシュなど誰もが異口同音に話す「きつかった」練習に取り組めた。

 他校の協力も大きかった。練習試合は名西、公式戦は美馬商(現:つるぎ)との合同チームで実戦感覚を養うこともできた。結果はなかなか出なかったが、振り返ればこの時期が現在のチームカラー「打ち勝つ」素地を作り上げたのである。

⇒次のページ:2年生投手の「影なる努力」加え、躍進のレールへ

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2年生投手の「影なる努力」加え、躍進のレールへ

 その一年後、2015年4月。徳島市立には前年に加えることができなかった待望の投手が入部する。母の弟が岩脇監督。
徳島市立に進学する流れになっていた」キレのあるストレートが武器の岩脇 大悟(右投左打・179センチ75キロ・徳島市徳島中出身)と、「学力が少し足らなかったのに、徳島市立に入学できる可能性があってラッキー(笑)」と特色選抜を選択したカーブとチェンジアップを織り交ぜる庄野 桂太(左投左打・176センチ58キロ・徳島市富田中出身)の左右両輪だ。

 現在は岩脇→庄野の継投を勝ちパターンにダブルエースを形成する2人。そこまで成長できたきっかけは、田中・園井両選手にとって最後の大会となった昨夏徳島大会。脇町に1対8で初戦コールド負け。その最後のマウンドにいたのは3年生・田中にマウンドを託された岩脇であった。

「スタミナがなくて、3年生の野球を最後にしてしまった」。岩脇の後悔は、自宅マンションの階段を昇り降りする自主練習につながる。一方、腰のけがでベンチから外れた庄野も「今度は自分が試合を作らなくてはいけない」責任感の中で柔軟体操などを採り入れる。

新キャプテンに任命された新田もしかり。週1回の筋トレなど、部員が増えた中で効率的な練習を目指すと同時に、道具の準備などチームを「つなぐ」作業にも率先して取り組んだ。

「引退はしてしまったけど3年生がいる間に1勝したかった」(山田)。かくして秋は練習試合で対戦経験のあった阿波西の傾向をつかんで8対7で6年ぶり公式戦1勝。徳島商には1対2で競り負けたものの、徳島市立は自信を手に「自分の得意なことを思いっきりできるようにする」をテーマに冬の練習へ臨む。

 そして「上位打線でつなげるようになった」(和気)春は……。甲子園出場経験のある川島に7対6。小松島西に6対5といずれも接戦を制し準々決勝へ。3対3の6回以降に失点を重ね、3対10と準優勝した富岡西に敗れたが、18年ぶりのベスト8を彼らは必然的につかみとった。

 かくして迎える3年生にとって最後の選手権徳島大会。徳島市立は「秋は圧倒されてしまった」(森)第4シード・富岡西とお互い1勝すれば対戦するブロックに入った。、「リードも含めて考えてやっていく」(井川)チームの持ち味を発揮する上では、これ以上ないところに入ったといえよう。

 となればあとは「本当に頑張ったし、力を付けた。2年生の投手2人が力を出してくれているのも3年生の人徳。あとは負けた時には必ず悔いが残るけど、そこを極力少なくしてほしい」指揮官が3年生たちに託した感謝と願いを体現するだけである。
でも欲張って、もう少し先の目標は?「ベスト4に入って鳴門を倒したい」。布川からはこんな言葉も出てきた。夏はまだ徳島市立で成し遂げていないベスト4。彼らのキセキを聞けばそれも決して夢物語ではない。

 「打線が援護して投手を助けたい」と話した新田キャプテンをはじめとする3年生6名。「3年生と一緒にプレーするのも最後なので、ゲームをつくりたい」岩脇・庄野たちをはじめとする下級生たち。2名からはじまり、20名を超えた部員の心を1つに。徳島市立は「目の前の敵に最大限の力を発揮する」(和気)集大成を出し切り、頂点をみんなで狙っていく。

(取材・文/寺下友徳

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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