都立葛飾野高等学校(東京)【後編】
下町の野球小僧が集まった都立葛飾野。前編では個性的なメンバーを紹介しました。後編ではチームの鍵を握る]神戸友彰投手の存在について触れつつ、夏へ向けて、選手たちに意気込みを語っていただきました。
神戸の存在感
神戸 友彰投手(都立葛飾野高等学校)
ノックが続いている間、大黒柱の神戸友彰は、外野でタイヤを引いて走っている。その後、アンツーカーのところに行き、横のネットに向けて至近距離から投げている。「駿台学園戦では、ピンチでストレートが高めに行きました。肘の使い方を直そうと、ネットスローをしています」と神戸は語る。
都大会2回戦の駿台学園戦では、神戸が本調子でなく、4対9で敗れた。この敗戦は、チームに多くの教訓を残した。まず神戸自身は、「春まではピッチングとバッティングを同時にしていましたが、ピッチングの方に課題があったので、ピッチャー中心のメニューにしています」と語る。
とはいえ、春季大会で4試合連続本塁打を放った神戸の打撃は魅力だ。沖山 敏広監督は言う。「一つは体の強さ、それに意外と器用。それに頭の回転が良くて、配球を読みますから」
1次予選の都立雪谷戦(試合レポート)のサヨナラ本塁打も、1球大きく空振りし、続く相手投手の釣り球の超スローボールは余裕で見送った後、インコースのストレートをしっかり捉えた。敗れた駿台学園戦でも本塁打を放っている。しかしそれでも敗れた。捕手の北井 亨樹は、「神戸に頼ってばかりでは、勝てないことを実感しました」と言い、沖山監督が、攻撃の中心になってほしいと期待を寄せるタカムラ ブレイン 七瀬も、「神戸に頼り過ぎていたと思います」と語る。
チーム全体に、神戸に頼り過ぎず、足を引っ張らないようにしようという意識が、根強くある。1次予選の都立八王子北戦(試合レポート)は、延長13回タイブレークで9対8と大苦戦した。苦戦の原因の一つに、捕逸2、暴投1というバッテリーエラーがあった。「そこから都立雪谷戦までの1週間、マシンの変化球を止め続けました。そこからパスボールはしていないです」と、北井は言う。
また1回戦の都立大崎戦で先発した2年生の茨木 亮丸は、「自分に任せても安心というくらいに力を付けて、神戸さんを少しでも休ませることができればと思います」と言う。
ベスト8を目指して
日が落ちるとティーバッティングを行う(都立葛飾野高等学校)
ノックの後は、シートバッティングが始まる。日が暮れると本格的な照明設備はないため、工事などに使う1個のライトを頼りに、半数がティーバッティング、残りの半分は、学校の周りを走る。さらに月2回は、専門のトレーナーの指導を受ける。どういう理由からどこの筋肉を鍛えているか、分かった上でトレーニングをするのと、何も考えず、漠然と体を鍛えるのとでは、トレーニングの効果は全く異なる。
また控え投手である茨木は、「自分はベンチプレスをあまりやるなと言われています。重量をあまりあげられない分、下半身を鍛えるように指導されています」と言う。
筋力をつけるには、負荷のかかるトレーニングが必要である。都立葛飾野高校にも、ベンチプレスを90キロあげられる選手が、かなりいるという。しかし成長期の子は、無理にやり過ぎると、ケガの原因にもなる。そうした強度の見極めも、専門家の目は助けになる。
夜8時前、グラウンドに整列して校歌を歌い、1日の練習が終わる。その姿はまさに、下町の野球小僧たちの集団である。夏の大会の目標はベスト8以上。これは、監督も選手も一致している。そのためには何が必要か。沖山監督は言う。「取れるアウトは取る。取られてはいけないアウトは取られない。まずキャッチボールの練習をちゃんとできているかです」
試合前のキャッチボールやボール回しを見れば、そのチームの実力はだいたい分かる。やはり基本をおろそかにしていけない。そうした監督の考えは選手にも浸透している。
「チームとして意識しているのはキャッチボールです。肩慣らしとしてではなく、アウトを取る練習として、3秒以上ボールを持っていてはいけないなど、ルールを決めてやっています」と、辻川 輝主将は言う。
チームとして課題があるからこそ、春季都大会では夏のシード校になるベスト16まで勝ち進めなかった。1年生が13人加わり、部員数は47人。強豪ひしめく東東京で準々決勝に進出するのは、簡単なことではない。それでも大黒柱の神戸だけでなく、選手個々が課題に向き合いながら、厳しい中にも生き生きと練習する。都立葛飾野のこの夏の躍進が楽しみだ。
(取材・文/大島 裕史)
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