Column

県立四日市工業高等学校(三重)【後編】

2016.04.10

 前編ではレベルスイングの概念に疑問を呈し、その上で、四日市工独自のレベルスイングの考えを確立する様子を描きました。そして今度はその理想とするレベルスイングにするためのドリル、取り組むについて迫りました。

「レベルスイング」への軌道作りへ

インパクトの瞬間(県立四日市工業高等学校)

 この仮説にはもう少し状況説明が必要だろう。たとえばフォークの場合。身長170センチの投手がフォークボールを投げると、ボールが離れた位置から80センチも落ちる。また、伸びのあるストレートを投げる投手でも、やはり離れた位置から40センチも落ちる。
「どちらにしてもボールは離れた位置から落ちているんです。その軌道に合わせるとなれば一般的に言われるアッパースイング。だから僕は選手たちに軌道に合わせる打撃をしなさいと伝えています」
 

 最初に必要なことを伝えておく。だからこそ小野 日出士監督は打撃練習中、選手の後ろから見ることもしない。そして打撃練習の途中に、打撃フォームの指導、矯正もしない。そこには現役時代の原体験がある。

「私は大学まで現役でやらせてもらっていた間、何が嫌だったかといえば、後ろに立っている監督さんに『上から出ているぞ!』『脇が空いているぞ』と言われることでした。僕たちは打つことで精一杯で、行動では「ハイッ!」といっても、心の中では余裕は全くないので、修正のしようがない。だから僕も同じような指導をしたら、それで終わりかなと思いまして。僕が言うときは、バットとボールがよっぽど離れている時ぐらいですかね」

 その裏付けも万全だ。6年間パートナーを組むトレーナーと考案した6段階のスイング軌道ドリルをこの冬は実施。

1.ゴルフスイングをイメージしたスイング
2.肩甲骨をしっかりと使えるためのスイング
3.スイング時に、ヘッドの位置と左肩の位置の位置が一直線になるように意識

 など、種類豊富なドリルが用意されている。

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[page_break:スイング軌道を意識して打撃力アップ]

スイング軌道を意識して打撃力アップ

ゴルフスイングをイメージしたスイングドリル(県立四日市工業高等学校)

 そんな彼らには大きなアシストもあった。秋季大会が終わってからチーム全体で本格的に取り組み始めたスイング計測アプリ「スイングトレーサー」を用いて、スイング軌道を確認していく取り組みである。この「スイングトレーサー」は、単純にスイングスピードを測るだけでなく、スイング軌道・角度など8項目の数字が出る。この立体的スイングの形は小野監督が打ち出したスイング軌道の仮説と見事にマッチングした。

「自分の言っていることに説得力が出ましたね」と小野監督も満足げ。こうしてスイング軌道を確認しながらスイングを行ったことで、選手たちの打撃能力は格段に伸びていった。その代表格は前チームから主力で、セカンドを守る加藤 礼瀬(あやせ・3年)である。

 スイングトレーサーを本格的に実施した10月時点で加藤のスイングスピードは110キロ台。それが現在は147キロへ。さらに自主練習の素振りは200回、筋トレや練習の合間で補食をする食事トレーニングで体を大きくすることを忘れず、スイングトレーサーを使う中で、自分のスイング軌道を把握。そしてチームで実施するスイング軌道のドリルをしながら修正を図ってきた。

「自分のスイング軌道や欠点が分かるようになって、ボールの捉え方も良くなりました。自分は引っ張れないのが課題でしたが、引っ張って強い打球を打てるようになりました」と、これまでは柵越えもなかったが、今ではしっかりと芯でボールを捉えれば、柵越えをするようになった。

 加藤ばかりではなく、他の選手も以前は100キロ~110キロ台だったスイングスピードが135キロ~145キロまで伸びることに。「打球も遠くへ飛ぶようになりましたし、打球音も変わりましたね。変化は実感しています」。小野監督も選手たちの成長を実感している。

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[page_break:冬の成果を実戦に結びつける春、そして集大成の夏へ]

冬の成果を実戦に結びつける春、そして集大成の夏へ

小野 日出士監督(県立四日市工業高等学校)

 四日市工の取材日はまだシーズン前。
「まだ10月から初めて、ここまででどれくらい変わったのかを統計を取っていきたいと思っていますし、それを記録して次につなげていきたい」と話す小野監督は、もう1つの手ごたえも口にした。

 スイングスピード、打球の速さ、飛距離も目に見えるように変わってきている中、良い意味で打順が固定できないようになった。すなわち伸びが著しいのは、ベンチ外の選手なのである。「この冬で伸びているのは、惜しいところでベンチから外れた選手です。そういう選手が伸びてきていて、競争は激しくなっています」

 なぜそんな傾向が生まれるのか。それは四日市工ならではの環境も起因している。基本的に入学する選手たちは、野球をするためではなく、就職を希望して入ってきた普通の高校生。多くの選手は高校で野球を終える。事実、昨夏三重大会ベスト4に入った主力選手のほとんども就職をしている。話を聴いてみると、今年も高校野球で終えて就職を希望している選手が多くいた。「野球人生の集大成」に向かう覚悟は甲子園出場への目標以上に重い。

「冬の練習が実戦に結びついているかが分からないところです。打撃は守備、走塁と比べると、アテにならないといいますか。打率は3割で良いとみられるように、失敗が多いからです。それも含めて結果としてどうなったのか検証したいところ。本当に良い方向になってほしいですね」

 小野監督の心配は杞憂になりつつある。春季三重県大会四日市地区予選では4試合で30得点。昨秋は1得点に終わった菰野相手にも4点を奪えるようになった。「改革」の気風。その先にある集大成の夏へ……。四日市工の戦いは続く。

(取材・文/河嶋 宗一


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2016年度 春季高校野球大会

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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