Column

早稲田大学系属早稲田実業学校高等部(東京)

2016.03.31

 2006年夏の甲子園優勝を果たし、昨年も甲子園ベスト4入りするなど、全国屈指の名門校である早稲田実業。例年、激しいレギュラー争いが行われているが、どういう選手がレギュラーを勝ち取り、また公式戦で活躍するのかを和泉 実監督に伺った。

心が強い選手が公式戦で活躍する理由

ノックに戻る選手たち(早稲田大学系属早稲田実業学校高等部)

「やっぱり心の強さのある選手がレギュラーを勝ち取っていくと思いますよ」
レギュラーを勝ち取る選手について話をきくと、そう答えた和泉監督。その強さを見るために、早稲田実業では、指導者は何も言わず、見守るというのが練習スタイルだ。そこで見ているのは選手の所作だという。

「最初は見た目を見ますけど、公式戦というのは、心の強さが問われる場面が出てくる。それは見た目だけでは分からないので、私たちは問いかけよりも、選手の動作から見て判断します。たとえば不測の事態にあったとき、選手たちはどんな表情を見せるのか、どう行動に移すのか。この場面こそ、選手自身の心の強さが分かるので、我々指導者はそこを観察します。よく最後は気持ち!と言いますけど、本当にそうなんです。我々も心が強い選手になってもらおうといろいろ指導をするのですが、なかなか変わるのは難しい。肉体的な成長はできても、技術的な変化、心の変化は本当に難しいんです」

 心が強い、勝負強い選手は最初からそれが備わっているとも語る和泉監督。逆に変われる選手は自分の弱さを受け入れる選手だという。その一例として挙げたのが、斎藤佑樹とバッテリーを組んだ白川 英聖だ。白川はもともと投手で高校2年から捕手へ転向したが、最初は斎藤の投げるボールを捕ることができなかった。

「投げたい欲求が強かった男が捕手になって、そして慣れない捕手で投手のボールを捕ることもできず、投手陣からいろいろ言われ、彼にとってはかなりつらかったかもしれません。しかし彼は自分が捕手としての能力が低いことを認めることができた。そこで粘り強く練習に取り組んだからこそ、斎藤のボールを捕れる捕手になったんです。彼にその粘り強さがなければ、正捕手になっていることはなかったんじゃないかな」

 もし白川でなかったなら、斎藤の持ち味を引き出すことはできていない。すなわち日本一にもならなかったともいえる。
弱みを認められる選手は、課題に向き合って練習に取り組める。しかしなかなかそれができる人間は少ない。
「高校生だからどうしても虚勢を張りたくなるのは仕方ないですよね。弱みを認められない選手は、好きなことをやりがち。苦手と分かっていてもなかなかできない。それが心の弱さなんです。そういう選手はトーナメントだと使いづらいんです」

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[page_break:昨年のレギュラーは自分を客観視できる選手が多かった]

 その理由を分かりやすく話してくれた。
「良い時は良い、悪い時は悪いと一喜一憂する選手はトーナメントでは使いづらいです。なぜかといえば、東京ならば甲子園に行くまでに8回勝利、そして甲子園では6回勝たないといけません。そういう中で良い時は良くても悪い時は悪いなら、使いづらいと思うでしょう。だからどんなことでも一喜一憂せずに自分のやるべきことを淡々とやれる選手が強いですし、頼りにできるんです」

 和泉監督はレギュラーになるべき選手の答えをすでに述べている。つまり自分のルーティンワークをしっかりとこなせる選手が強く、レギュラーになれるということだ。和泉監督曰く昨年甲子園に行った選手は、そういう選手が多かったという。

昨年のレギュラーは自分を客観視できる選手が多かった

早稲田実業ナイン

 和泉監督が昨年の選手で真っ先に挙げたのがエースの松本 皓だ。松本は、常時130キロ台の速球ながら、キレのあるスライダー、フォークを巧みに投げ分ける右投手。ただ球威が課題で、コントロールミスをすると打ち込まれることが多かったという。松本は自分の課題、力量を自覚しており、甲子園3回戦東海大甲府戦後の談話では、こんなことを話していた。
「自分は結構点は取られると思いますが、何とか最少失点に抑えれば、打線がその分、打ってくれると思います」

 このコメントに和泉監督は驚いた。
「何か達観しているんですよね。高校生で、あんなことは言えません。松本は非常に客観的にものを見ることができる投手で、自分の課題が分かっていて、それが出てしまったときは打たれることも自覚していて、その中でも最少失点に抑えることができる投手でした」

 また控え投手の上條 哲聖も、メンタルが強い投手だった。
「投手としての力量は高い選手とはいえませんでしたが、彼の場合、自分の弱みだけではなく、相手のことを認められるメンタルの強さを持った選手で、大舞台でも任せられる安心感がある投手でした」
その上條は東東京大会甲子園では主にリリーフとして活躍した。

 基本能力の高さは大事だけれど、それだけで勝負をしていたら、天性の能力を持った選手に負けてしまう。投手は打者を抑えるのが仕事。その中でも何ができるかのかを考えるという能力。松本、上條も突出した能力を持った投手ではなかった。自分を客観視して、勝負ができる選手は、どの舞台でも活躍ができるということだろう。

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[page_break:早稲田実業の選手たちは自分の時間を使うのが上手い]

早稲田実業の選手たちは自分の時間を使うのが上手い

打席に入る清宮 幸太郎選手(早稲田大学系属早稲田実業学校高等部)

 早稲田実業にはなぜこういった選手が生まれるのか。その理由の1つとして、受験を乗り越えていることが挙げられる。早稲田実業は全国的にも有名な進学校で、合格しなければいくら野球の技術があっても入ることはできない。

 早稲田実業に入った名選手の受験エピソードを振り返ると、十時間以上の勉強をしたなど、受験に合格するという目標に向かって真剣に取り組んでいる。受験というのは、全体的に点数が高くなければ合格はできない。苦手科目があれば、克服に向かって取り組む。野球に置き換えてもそれは同じことだ。進学校の選手たちにはそれが自然と根付く環境があり、自分の目標に向かって、課題を持って取り組むことができるる。和泉監督は、早稲田実業の選手は自分の時間を使うのが上手いという。

「だからうちの選手たちは自分の時間を大事にしますし、目標に向かって、予習する、復習するという習慣が根付いている。練習を見ていても全体練習が終わってからの個人練習でも、例えば1時間だけでも、しっかりと突き詰めて練習に取り組むことができる。これがうちの文化になっているので、白川、松本、上條のような選手が出てくるのではないでしょうか」

 早稲田実業清宮幸太郎関連記事が注目されるが、清宮も自分の練習を大事にする選手。取材をした時の印象は、非常に知識を持った選手という印象だった。意識も高く、本当に17歳を迎える高校生なのか?と思わせるほどの聡明さを持った選手だ。
現代のアスリートは知識のある選手も多い。清宮がここまで順調に成長できているのは、知識の高さはもちろん、受験を通過するために、勉学にも粘り強く取り組める姿勢が野球にもつながっているのではないだろうか。

 早稲田実業から学べることは、目標に向かって地道に取り組む、自分の課題にしっかりと向き合って根気強く取り組める姿勢ではないだろうか。つまり自分の弱さを認めることで、自分がやるべきことが分かって来るのだ。 

 今年の選手たちは、昨年の甲子園ベスト4に入ったことで、新チームのスタートが遅くなり、手探り感が否めなかったが、秋季大会が終わってからレギュラー取りへ向けて激しい競争が行われた。主将の金子銀佑によると、「去年ベスト4にいった先輩たちを間近で見てきたので、みんなそれに続こうと、各自が意識高く持ってやっていたと思います」

その言葉通り、3月25日の聖光学院佐野日大との練習試合では連勝。本塁打も多く飛び出るなど、昨秋よりも格段に伸びている。秋に出場していなかった選手も活躍を見せており、それぞれが課題を持って取り組んでいたのが伝わってきた。

 今年、早稲田実業では多くの招待試合が組まれている。和泉監督は、
「実戦こそが一番伸びると思います。公式戦にはかなわないですけど、全国レベルのチームと戦える招待試合は大きく伸びるチャンス。斎藤佑樹の代もそういうチームと試合できたことで、夏で大きく伸びていきましたからね」

 4月2日の都大会初戦ではどんな選手がスタメンに名を連ねるのか、またレギュラー入りした選手が今後の公式戦を通して、チームの勝利に欠かせない選手が1人でも多く出るのか。
2006年の全国制覇から10年という節目の1年で、歴史に名を残す活躍を見せていきたい。

(取材・文/河嶋 宗一


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2016年度 春季高校野球大会

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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