Column

市立下関商業高等学校(山口)【前編】

2016.03.16

 グラウンドから漂ってくる関門海峡からの潮風と伝統。1950年から3年間、大洋ホエールズ(現:横浜DeNAベイスターズ)が下関を本拠地にしていた時は練習場にも使っていたという1,000人以上収容できる観客席や、1963年春優勝、準優勝が刻まれた甲子園出場記念碑にも誉れを感じさせるのが、下関市立下関商業高等学校である。

 そんな名門が昨夏、山口大会を制し2008年春以来となる20年ぶり9回目の夏甲子園出場。そして白樺学園(北北海道)に勝利し甲子園通算29勝目。その原動力となったのは勝敗に直結する「実践的走塁力」であった。
では、彼らはどのようにして走塁を磨いたのか?その理由は走・攻・守の総合練習「亜細亜バッティング」にあった。

亜細亜大練習から得た「走・攻・守」総合練習

走塁の基礎は「亜細亜バッティング」と語る佐々木 大輔監督(市立下関商業高等学校)

 走塁でのビックプレーを駆使し2015年夏の山口大会制覇、そして20年ぶりの甲子園1勝をあげた下関商。そのきっかけはさらに1年前・2014年夏の山口大会へとさかのぼる。ここでは山口西京に2対5と初戦敗退。ここで2010・2011年度の部長職を挟み、2000年から長らく指揮を執る佐々木 大輔監督は一度立ち止まって考えた。
「ウチには足が特別速い選手はいない。『その中でプレッシャーをかける』は私も以前から言っています。けれど、実際にそれが徹底できているのか?できていない。ならば徹底しようとすごく思ったんです」

 ただ、全員が参加できるような練習はすぐには見つからない。新チームとなり迎えた秋も県大会準々決勝で桜ケ丘に0対3と敗退。加えて試合内容も走塁・判断ミスが相次いだものだった。
そんな悩みの中で迎えた2014年冬を前に、佐々木監督は下関から約1000km東、東京都日の出町に足を運ぶ。亜細亜大野球部の練習見学で全ての面における「徹底」に「衝撃を受けた」佐々木監督。

「これだ!」
指揮官は早速、その原動力と思われる練習法を下関商にも採り入れてみることにした。それが現在、下関商練習の根幹となっている走・攻・守を同時に動かす「亜細亜バッティング」である。

 取材日の練習もその「亜細亜バッティング」が主体。佐々木監督に話を聞いている間も2箇所の手投げゲージが設置され、ベース前には危険防止用のネットが立てられ、準備が着々と進む。そしていざ練習が始まってみると・・・・・・。その真剣度は想像以上だった。

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[page_break:走・攻・守「徹底」を続け、生じた大きな変化]

走・攻・守「徹底」を続け、生じた大きな変化

帰塁もヘッドスライディングの三塁走者(市立下関商業高等学校)

「亜細亜バッティング」を平たく言えば、全てのベースにランナーを置いてのいわゆるランナー付きフリーバッティング。ただここでは「2箇所の手投げゲージ」に大きな意味が含まれている。
一塁側に置かれたゲージに入る打者に課せられる打球は「一・二塁間・ライト方向での進塁打」。これに一塁ランナーが連動して反応する。一方、三塁側におかれたゲージに入る打者に定められたミッションは「一死からランナーを帰す」。このゲージに連動するのは二塁走者・三塁走者である。

 加えて打撃投手はコース・変化球を使い、けん制動作も入れて打者・走者を抑えにかかる。外野手は捕球後、カットマン・内野手まで全力で返球する。よって走者も当然、各塁から4m30cmを第一リードとし、そこから第2リードをチャレンジ。帰塁も走塁も全力。三塁コーチャー・一塁コーチャーも順番に務める。選手たちからは「もっとリード取れるぞ!」など確認や叱咤激励の声が飛び交い、判断ミスにはその場ジャンプのペナルティー。これは完全に「臨戦態勢」である。

「スピード感とかは亜細亜大とは比較になりませんが、これまでは言うだけで徹底できていないことが徹底できてきましたし、全体でやろうとする雰囲気が出て、相手のスキを突いた走塁ができるようになってくれました」と話す佐々木監督の弁もこれを見ればおおいに納得できる。

 もちろん導入当初は判断ミスの山だった「亜細亜バッティング」。それでも少しずつ前に進む日々。そうやって積み上げた経験は気付きから1年後、2015年の夏に見事実を結んだ。

 その代表的な事象は甲子園1回戦白樺学園(北北海道)の2番手・中野 祐一郎(当時3年)の力強いストレートに苦しみながら11回裏サヨナラ勝ちを果たせたのは、二塁ゴロ失策で捕手のカバーが遅れていると見るや迷わず二塁へ進んだ6番・阪本 雄稀(当時3年・二塁手)の好判断がきっかけである。

 実は下関商、20年ぶりの夏の頂点を極めた山口大会ではもっと凄い「走塁ビッグプレー」を連発している。
では、その状況説明と成功の理由は1番・中堅手を務めた常信 太一と7番・左翼手、そして主将の重責を果たした佐々木 悠司ら、大学進学を前に練習参加していた卒業生たちに聴いてみることにしよう。

 その話は後編で詳しく紹介します!下記は亜細亜バッティングの内容を動画で紹介したものになります。 どんな内容なのか、動画でチェックして、具体的なイメージをしていただければと思います。

(取材・写真:寺下 友徳


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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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