Column

県立高松商業高等学校(香川)

2016.01.14

秋の頂に立って期す「全国での再挑戦」

 2015年秋の高校野球王者を決する「第46回明治神宮野球大会・高校の部」。その頂点に立ったのは2006年高知(高知)以来9年ぶり4度目の四国県勢。1924年・第1回センバツ制覇をはじめ甲子園では春(1924年1960年)夏(1925年1927年)各2回ずつ、国体でも1958年・富山国体作新学院(栃木)との両校優勝で全国制覇を成し遂げている古豪・香川県立高松商業高等学校であった。

 圧倒的な打力と走塁を土台に1996年の連続甲子園出場以来となった全国大会出場で新たな栄光を手にした高松商。では2016年、彼らは全国で得たことを糧に、何を補い、何を加えようとしているのか?過去、春25回・夏19回の甲子園出場に45回目を加えようとしているチームの等身大の姿と「全国再挑戦」への意気込みを追う。

熱気、いまだ衰えぬ中で冷静な当事者たち

就任2年目で明治神宮大会優勝を果たした長尾 健司監督(県立高松商業高等学校)

「野球部は明治神宮大会の翌日、新幹線で岡山を経由して高松に戻ってきたんですが、マリンライナーが高松駅に到着する前には『高松商野球部のみなさん、全国制覇おめでとうございます』と車内アナウンスがあって。そして、駅に着いたら横断幕があるし、学校についたら大歓迎。びっくりしました」

 11月18日(水)、敦賀気比(福井)を逆転で下した明治神宮大会決勝翌日に地元で受けた熱気を話すのは長尾 健司監督。そしてその熱気はいまだ衰えず・・・。いや、むしろ大きくなっている感がある。

 地元の新聞・TV・ラジオは優勝後、そろって特集・特番を編成。平日の練習でも、バックネット裏から数人が熱い視線を送る。人々の話題にも「タカショウ(高松商野球部の愛称)が」が枕詞に付く。四国4商の一角として、高松市内ばかりでなく香川県内で圧倒的な人気を誇る高松商による55年ぶりの快挙。香川県勢としても全国大会の優勝は観音寺中央が初出場初優勝を成し遂げた1995年センバツ以来となる全国制覇とあっては、この盛り上がりも十二分に理解できる。

 しかし、当事者たちは極めて冷静だ。秋の日本一について「たまたま、まぐれ」を話の端々に付ける長尾監督はもちろんのこと、「明治神宮大会優勝は想像もしていなくってびっくりした」主将の米麦 圭造(2年)をはじめ、選手たちも必要以上に日本一を誇る様はまるでない。

 試験時間割発表期間中ということもあり、個々のテーマ別練習のみとなった取材日の練習を見ただけでも、それは明らか。加えて個々の「高める意識」は他校と比べても際立っていた。

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[page_break:自発的に、バリエーションを持って「振り、投げ、取り組む」]

自発的に、バリエーションを持って「振り、投げ、取り組む」

課題のワンバウンドストップに取り組む高松商・植田 響介(県立高松商業高等学校)

 体育館脇のスペースでは「身体が引っ張られないことを意識してやっています」と語る登島 圭佑岡田 将太の1年生投手陣が取っ手状の穴が付いた樹脂製の円柱を回す「バイパー(ViPR)トレーニング」。カナダを発信地としてMLBではワシントン・ナショナルズ、NPBではオリックス・バファローズでも採り入れている新手の全身エクササイズ器具であり、高松商では長尾監督自身が必須である「ライセンス認定」を得て購入し、様々な形で活用している。

 その横では四国大会を1人で投げぬいたタフネスさと85回3分の1を投げてわずか21与四死球の制球力が持ち味の最速141キロ右腕・浦 大輝(2年)がタオルを使ってのシャドーピッチング。「よくこの練習はやっています」と微笑む。続いてトレーニングルームを覗くと、ここでは筋力トレーニングに取り組む選手たちがいた。

 一方、グランドの片隅では県大会準決勝・英明戦で決勝アーチ、四国大会2回戦・今治西戦で「後ろの打者につなぐことと、右方向を意識したことで結果につながった」逆転グランドスラム含む2アーチを放った一方で、バッテリーミスが目立った植田 響介(2年)は、ワンバウンドストップの練習に勤しむ。

 そしてグラウンドや室内練習場では多くの選手がティーバッティングを行っていた。しかも単純にトスを打つのではなく、スタンスを広げたり歩きながらのティー、バットで8の字を描いてからのティー。トスを真横から投げたり、スクワットを入れながらのティー。「変化球に対し見極めや崩れず打つことに効果がある」と秋はリードオフマンとして公式戦51打数19安打7打点7盗塁と躍動した安西 翼(2年)も手ごたえを得ているワンバウンドを打つティー。さらに逆打席や逆グリップでのティーetc。

 2015年秋の公式戦打率は12試合で.308ながら、122安打中の長打は10本塁打含む29本をマークした高松商小豆島戦後、チームの大命題とした「バットの芯でボールの芯を捕らえる」。ここで、その準備を様々な状況下でも体現できた土壌を垣間見ることができた。

 しかもこの間、長尾監督や藤澤 宗輝副部長をはじめとする大人たちも、巡回はするが常に目を光らせてはいない。にもかかわらず、どの場所でも選手たちはいわゆる「サボり」はほとんど見られない。様々な形で与えられた要素を、自分たちの課題に合わせて黙々と消化している。

香川県大会決勝で小豆島に負けたことで、選手たちが勝負の厳しさを味わったこと。さらに坂出商石田で監督を務められた犬伏 英人部長が、県大会後に私と違った角度から緊張感を持った話をして頂いたこと。1打席に集中できる打撃練習や短時間でのシートノックなどで『細かく、丁寧にやる』ことと『量より質を高める』練習を選手たちからの提案もあって2日に1回くらい取り組んだこと。そして『この学校は全力疾走や負けていてもあきらめないファンを喜ばせる資質が必要』と言い続けてきたんです。

 四国大会を前に100点ではないですが、集中する準備はできていたので、『これで負けたらしょうがない』とはなりましたし、四国大会からは犬伏部長と相談しながら試合に向けての意識付けもしていきました」

 こう振り返る長尾監督をはじめとする大人側のコンビネーションも彼らの力を最大限引き出す要素となり、秋の頂点へ駆け上った高松商。そのベースには「自発的かつバリエーションに富んで」振り、投げ、取り組む日々の練習がある。では、選手側はどのような考えで秋の12試合を戦い抜いたのだろうか?

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[page_break:「我慢できるメンタル」で春に再挑戦]

「我慢できるメンタル」で春に再挑戦

多田宗太郎投手(県立高松商業高等学校)

「準備はできていたし、大阪桐蔭相手なので打たれて当然、抑えたらすごいので楽に投げられた」(多田 宗太郎・2年)、「自分が投げる機会があったら、割り切って抑えていこうと思っていた」(美濃 晃成・2年)、「緩急をしっかり作って崩していくリードを心がけ、相手がツボにはまってくれた」(植田響介

 明治神宮大会準決勝大阪桐蔭戦を制したバッテリーの感想に代表されるように、彼らも軒並み秋の出来事を冷静に振り返る。その裏にはやはり選手たち個々の探究があった。
たとえば、多種多様なティーについて主将の米麦はこんな裏話を披露する。
「ネット動画で内川 聖一(福岡ソフトバンクホークス・2014年インタビュー【前編】 【後編】)さんや、 山田 哲人(東京ヤクルトスワローズ関連コラム)さんも色々なティーをしているのを見て『プロ野球選手がやっているなら僕らにも効果があるはず』と思って取り組んでいました」

 だからこそ、彼らは現状の課題も明確に把握し、冬に向かっている。
「今回の経験で135キロくらいの投手は打てることは分かりましたが、大阪桐蔭戦で最後に投げた高山 優希(2年)のような140キロ後半や150キロ前後には手も足も出なかったので、140キロを超える投手への対応を鍛えないと」
長尾監督と安西がそれぞれ別の場所で指摘した打撃課題はまるで示し合わせたように一致した。

 一方、「春に勝ち上がるには2枚・3枚と必要となるので、浦をカバーできるようにしたい」と多田と美濃がレベルアップを自覚すれば、「変化球を増やして全国で勝ちあがれるようにしたい」とエース・浦も呼応。投手陣にも油断はない。

 最後に彼らを主将として束ね、指揮官からも「彼の謙虚さがチームの象徴」と全幅の信頼を得る米麦は、視線を前に春への意気込みをこう述べる。
「秋の時点でつなぐ野球はできたので、あとは個々の能力をいかに高めるかが春の勝敗を分けると思います。そして春はピンチに立った時の守備など、いかに我慢できるかが大事になるので、普段の生活から我慢できることをやっていきたいです」

 小豆島との香川県大会決勝戦を出発点とし、神宮の杜で競合たちとあいまみえる中で研ぎ澄まされた高松商の探究者たちに、停滞する暇はない。彼らは秋の頂点を最高の教材として、1月29日の先にある3月21日・センバツの舞台に再び挑戦者として立つ準備を続けていく。

(取材・写真:寺下 友徳


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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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