Column

中京高等学校(岐阜)

2015.12.11

 岐阜を代表する名門・中京1973年の選抜で初出場を果たし(当時は中京商)、現在まで夏5回、春5回の甲子園に出場。OBでは松田 宣浩(福岡ソフトバンク2014年インタビュー)や、今季限りの引退を決めたが、2010年の新人王に輝いた榊原 諒(元オリックス)など有名なOBも多数いる。しかし甲子園出場は2007年選抜を最後に遠ざかっている。そんな中、今年の4月に就任したのが2011年までNTT西日本の監督を務めていた橋本 哲也監督だ。中京は橋本監督が就任してから二季連続で東海大会に出場という好成績を収めている。古豪復活の兆しを見せている同校を追った。

挨拶・礼儀といった基本を毎日徹底させることがメンタルトレーニング

中京高校のスローガンである「くらいつけ」

 まず橋本監督に高校野球と社会人野球の指導の違いについて伺うと
「社会人野球は技術的に完成されている選手が多いですが、高校球児の場合、野球のヤの字も知らない選手が多いです。まず基本的なことを教えることと、やはり礼儀、挨拶といった人として正しいことを身に付けさせる。そこからのスタートでしたね。高校野球と社会人野球の違いはメンタルを教えるか技術を教えるかという、その優先度の違いですね。高校野球の場合はメンタル、心構えから先に教えます」

 メンタルのトレーニングということで、専門的なことをトレーニングをしているかと思ったがそうではなく、橋本監督曰く普段の行いが一番のメンタルトレーニングになるとのこと。

「挨拶、掃除、礼儀というのは当たり前なことなのですが、高校生が毎日当たり前にこなすことは実は難しい。だからこそ凡事徹底させることは大事なんです。メンタルトレーニングは、これは社会人の選手でも高度なものなので、高校生には難しい。ですので当たり前なことを当たり前にこなす。これが一番のメンタルトレーニングなんです」

 これは高校生だけではなく、多くの世代に共通するものだろう。社会人野球の選手を長年教えていた橋本監督だからこそ意図が説明できるのは、選手にとっては心強いだろう。

 そしてメンタルに加え、試合前の準備、心構えを鍛える。
「試合前のデータ収集や当日の試合では、バスに降りた時から試合は始まっているんだと選手たちにそう言い聞かせて、試合前の準備の大事さを説いてきましたが、そこはだんだん良くなっているように感じます」

こうして橋本監督はわずか半年で、選手を戦える集団に変えていった。

 中京は全寮制。寮の規則は当然厳しい。携帯は禁止、個人の部屋にはテレビもない。さらに中京のグラウンドは山の上にあるので、近くのコンビニに行くだけでも山を下りなければならない。周りを見渡すと娯楽施設は全くない。

 野球に専念するには申し分ない環境だが、これまで、縛りがない環境で過ごしてきた中学3年生にとってみれば、大変な環境だ。橋本監督も、「最初は子離れ、親離れできない家庭もいらっしゃいますね」と笑う。ちょうど寮の近くにいた選手たちに聞くと「掃除とか、洗濯とかは大変ですけど、だんだん慣れてきました」と語っており、徐々に自立心が育まれているようだ。そして、もう一つ自立心を育むために取り組んでいるのが練習後のミーティングだ。

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[page_break:練習後は必ずミーティング / 打撃練習の合間に筋トレを行い、強力打線へ変貌]

練習後は必ずミーティング

 中京は20時頃まで練習を行うが、そこから全員でグラウンド整備をして、夕食をとり、その後ミーティングに入る。今まで全体ミーティングはなかった。そこで当日の練習の目標を確認して、振り返りをしつつ、反省を行う。橋本監督は、短いスパンで目標立てることが大事だという。

「高校野球は、甲子園出場という大きな目標がありますが、1週間という短いスパンの中でそれぞれの目標立てをさせていきます。そうやって小さな目標を少しずつ達成していくことで、モチベーションを失わせずに打ち込むことができます。いきなり大きな目標を立てるのは高校生にとっては厳しいですね」

 主将の平 秀匡はその日ごとの目標ができているかをしっかりと話し合うことで、選手間の団結力が生まれたという。
「全体練習が終われば、そのあとは選手の個人練習に入っていくだけでしたが、全体のミーティングを設けることで、明らかに変わっていった感じはあります」
と選手間でも手応えを感じている。こうしてチーム内のことまで改革していった橋本 哲也監督の取り組みは、着実に表れていく。

打撃練習の合間に筋トレを行い、強力打線へ変貌

 橋本監督の初采配となった今年の春季大会ではいきなり岐阜県大会優勝を果たし、そして東海大会でもベスト4に進出した。もともといる選手たちの潜在能力を引き出したのはもちろんだが、橋本監督によって始まった改革が実を結んでいると言っても過言ではなかった。

主砲の今井 順之助選手(中京高等学校)

 そしてチームが入れ替わった秋になっても、その強さを維持。秋季岐阜県大会では4試合連続本塁打を放った主砲・今井 順之助の活躍も光ったが、5試合で28得点を記録したように今井以外の打者たちも成長を見せ、県大会準優勝を決めた。

 本橋監督が精神的な改革と同時に行ったのが、体力強化だ。今まで以上に走り込む量を増やしただけではなく、筋トレする時間も、オフの期間に集中的にやるのではなく、年間通してやるようになった。ただウエイトトレーニングするだけではなく、打撃練習の合間に筋トレをするようになった。そうすることで選手たちの打球の質も変わった。取材日の練習試合を見ていて驚かされたのが、上位を打つ選手だけではなく、下位打線だったり、控えの選手たちも鋭い打球を打てていたことだ。橋本監督は手応えを感じている。

「選手たちは自分たちが強い打球を打てると実感するようになったら、どんどん練習に取り組むようになったんですよね」

 主将の平は初め長打力に自信がなかったが、橋本監督の体制になってからメキメキと力をつけて、今ではクリーンナップを打つまでに成長した。平の他にはボールを飛ばす能力がチームトップクラスの北川 竜之介東海大会で5番として出場した渡邉 豪、2番を打つ吉位 翔伍などが中心。彼らに対し橋本監督は、「今井の前後を打つ打者が、自分の役割が分かってきた感じがありますね」と各野手の成長に目を細めている。

 そして橋本体制になってから初めて迎える冬。橋本監督も「私自身、楽しみにしていますね。選手たちは冬の練習が厳しいということは分かっています。12月からボールを握る練習が少なくなって、ランニングや筋トレと地道な練習が多くなり、選手たちも、指導者陣にとっても面白くない練習となります。ですから、メリハリを付けてモチベーションを高くして臨めるようにしたいですね」と冬へ向けての構想を語った。

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[page_break:東邦と戦って見えてきた課題]

東邦と戦って見えてきた課題

 この半年間で二季連続で東海大会出場と、結果は着実に出てきてはいるが、秋の東海大会準々決勝では、東邦にコールド負け。おまけに相手エースの藤嶋 健人に参考記録ながらノーヒットノーランに抑え込まれるなど、全国の壁を実感する試合となった。

 この試合を振り返って橋本監督は
「投打でまだまだのレベルですが、準備力、心構えということを意識して取り組んできて、こういうレベルのチームと戦えるまでになかったチームが、やっと戦える土俵に立ったのは本当に良かったと思います。選抜へ行くチャンスはなくなり、甲子園にいけるのは夏の甲子園だけになりましたが、それだけを目指すのではなく、短いスパンの中で目標立てをして取り組ませるやり方は変わりありません」

 今までの取り組みを継続してチーム力を高めている。一方で選手たちは打倒・東邦に燃えている。主将の平は
「練習試合でも大敗をして、そして東海大会でもノーヒットノーランを喰らい、本当に悔しい思いをしたので、チームで東邦を破るのは、目標として定めています」

 東邦と当たる可能性があるとすれば、来春の東海大会に出場するか、または夏の甲子園に出場するしかない。それだけのチーム力を付けなければならないと選手自身が自覚をしている。藤嶋投手を打ち崩すためにはどうすればよいのか、選手達は普段の練習試合から「対応力」をテーマに試合に臨んでいる。

菊谷 将馬投手(中京高等学校)

 また8失点を喫した投手陣の底上げも課題となっている。東邦戦に登板した4投手はすべて1年生。取材日の練習試合でも、東海大会で登板した伊藤 匡輝菊谷 将馬が登板した。伊藤は小気味良い投球ができる左腕で菊谷は長身から角度ある130キロ台の速球を投げ込む右腕だ。橋本監督が「一冬の取り組み次第でしょうね」と語るように、中京が全国レベルの強豪と渡り合うには、今の1年生がこの冬の間にどれだけ化けるかにかかっている。

 橋本監督就任で復活の兆しを見せている中京。指導者と選手の距離はだんだん近づいてきている。主将の平は「監督が就任した時、『俺は、お前らの親父や』と語りかけてくれました。本当に熱い方ですし、そして話しかけやすくて、本当に選手思いで信頼できる監督さんです」
と慕っている様子だった。取材日の練習後のミーティングでも、橋本監督が選手たちへ熱く選手に語り掛けていた。

 橋本監督の就任後、定めたチームスローガンが「くらいつけ 一球に魂を込めて」。この言葉を旗印に2007年春以来の甲子園へ、一投一打に魂を込める。

(取材・文=河嶋 宗一


注目記事
・【12月特集】冬のトレーニングで生まれ変わる

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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