Column

樹徳高等学校(群馬)【後編】

2015.12.14

 前編では選手たちに意識改革を行い、自主性を育んだことについて紹介していきましたが、後編では秋季大会の戦いぶりを振り返りつつ、来年へ向けての意気込みを伺いました。

秋季県大会では控え選手の活躍が目立つ

小寺 伶弥投手(樹徳高等学校)

 今秋の群馬県大会では控え選手の活躍も目立った。2桁の背番号をつけていた大関 優虎(2年)が大会の途中から4番に入り、4回戦の明和県央戦でホームラン。ピッチャーの越塚 駿(2年)が故障をすると、1年生左腕の小寺 伶弥が代役を務め、準々決勝の前橋商戦で初完投。以降はエース格の活躍を見せた。

 木村 喜文監督曰く
「選手の層が厚いと言われるんですけれど決してそうではなくて、そうせざるをえないチーム状況だったんです。ベンチから外れた選手には、気持ちが持続するように『いつでもメンバー交代があるから準備をしておけよ』とは言っていたんですけれど、代わりに出場した選手たちは本当に役割を果たしてくれました」

 群馬県大会では準決勝で健大高崎を11対1の5回コールド、決勝では桐生第一を4対2で破り、関東大会に駒を進めた樹徳。しかし、関東の壁は厚く、花咲徳栄(埼玉)には2対4で競り負け、初戦敗退を喫した。

「初回、一死二塁でヒットが出て、このケースではウチはいつもランナーをホームに突かせるんですけれど、この時は三塁コーチャーが止めたんですね。『大事に行ったから仕方がない』と思ったんですけれど、後続の4番、5番が三振してしまい、この回に得点を挙げられなかったのが痛かったです」

 普段通りの試合ができなかったが、選手は良い経験をし、課題を持ち帰ってこられたのも確かだ。

関東大会に出場したチームの中で、ウチは平均体重が15チーム中13番目だったんです。たまたまかもしれませんが、体格が小さかったチームはどこも初戦敗退だったので、冬場は選手の体を大きくさせたいと考えています。もともとランニングはしっかりやってきたチームで、夏にバテてしまう選手とか、足がつってしまう選手はいないんですけれど、今冬はランニングを少し減らしてでも、その分、ウエイトトレーニングをやらせてみようと思っています」

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[page_break:投手指導の名人に教わったシャドウピッチング]

投手指導の名人に教わったシャドウピッチング

1500m走のスタート(樹徳高等学校)

 同時に、木村監督は投手陣には3種類のシャドウピッチングを課し、球速アップに取り組ませる予定だ。

「足を開いたままで体重移動するシャドウピッチング、振りかぶって普通に投げるシャドウピッチング、足を開いたまま蹴り足を上げるシャドウピッチングと3段階あるんですが、この練習をやると腕が振れるようになるんです。そうやって良いクセが付けられれば変化球を投げる時でも腕の振りが緩みませんし、ストレートもグッとスピードが上がる。3年生の清水 蓮も入部当初はMAX122キロだったのが140キロを超えましたから、きちんと練習すれば誰でも速くなるんです」

 この練習法は、前田 幸長(元巨人など)、小野 和義(元近鉄など)らを育成し、投手指導の名人と謳われた稲垣 人司氏(故人)に教わったのだという。

樹徳に赴任する前は春日部共栄(埼玉)で投手コーチをしていたのですが、土肥 義弘(元西武など関連動画)や中里 篤史(元中日など)など、当時、プロに行った選手はみんなこの練習をしていました。ただ、地道な努力が必要で、粘り強く練習を続けられないと身に付かないので、やらせるのは『このピッチャー』と思った選手だけです」

 今冬、小寺投手は初めて、このシャドウピッチングに取り組む事になる。
「先輩から『キツい』という話は聞いていますが、今秋はストレートを打たれて失点する場面が多かったので、もっと球速を上げて空振りが取れるピッチャーになりたいです」

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[page_break:野手は振り込ませて力をつける]

野手は振り込ませて力をつける

ロングティー(樹徳高等学校)

 一方、野手に関しては、とにかく振り込ませる予定だ。
「長所やウィークポイントを見付けて修正していくのはシーズンが始まってから。今はとりあえず振って、スイング力を付ける事が目標です」

 そんなにうるさく言うつもりは無いという木村監督だが、選手はそれぞれ自主性を持って練習に励む事になる。

「ロングティーでは肩を下げずに振って、ボールにバックスピンをかけて遠くへ飛ばす事を課題にしています。また、バットをインサイドアウトに振る事を意識していて、ロングティーでも普段のバッティングフォームのまま打てるように練習しています」(嶋田 翔主将)

「ティーバッティングや素振りなど、いろんな方法で合計1000スイングをノルマにしていて、それでも足りないと思ったら、さらに100でも200でもスイングを増やしています。あと、土日は走り込んでいて、午前中に10kmくらいのコースを走ったあとに午後もランニングをしています。今は『走って、振って』の繰り返しです」(高橋 将幸選手)

 着実にレベルアップを図っている樹徳だが、木村監督はさらに加えたいものがある。
「あとは駆け引きですね。盗塁を例にとると『変化球の時に走れ』と言うだけでも選手は『いつ変化球が来るのか?』を考えるじゃないですか。そこから相手ピッチャーとの駆け引きが生まれてくると思うんですね。そうするとバッターとして打席に入る時も『次は何を投げてくるのか?』と応用して考えるようになると思います」

 さらに質の高い野球を目指すため、木村監督は外野手の定位置にも、こだわっているという。

「選手たちに定位置はどこなのか聞いてみると『芝がはげているところ』とか、『何となく、このあたりです』みたいな答えが返ってくる。でも、それではダメなので、ホームベースから85mのところに扇状にラインを引いて、目をつぶってでも85mの位置に行けるようにさせたんです。こうすると基準ができるので、あとはその時々のシチュエーションと自分の肩や走力を考慮して守備位置を決められるようになる。だから、一見、ギリギリで捕っているように見えるけれど、実は計算されていて『100本飛んできたら、100本全部捕れる』というような守備陣にしたいですね」

 近年、群馬は健大高崎前橋育英桐生第一など全国でも実績を残している私立校に加え、前橋商前橋工高崎商といった公立校も実力を付け、県全体のレベルが引き上げられている。そんな中で樹徳も、新監督が起こした新たな風に乗り、より高い場所へ向かって突き進んでいるようだ。 

(取材・文=大平 明


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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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