「長距離走は必要?」元プロ日体大コーチが語る投手の基礎体力の重要性と練習メニュー vol.2
12月に入り、高校野球は一斉に対外試合禁止期間へと入った。解禁される2021年3月6日まで、各チームは体作りや基本練習を中心に過ごすことになり夏の飛躍に向けて非常に大事な期間となる。
今回はそんなオフシーズンに是非行いたいトレーニングや基本練習を、アマチュア球界で定評のある指導者に伺っていった。中学、高校球児に皆さんには是非参考にして欲しい。
第2回目となる今回も日本体育大学の辻孟彦投手コーチにお話を伺っていく。プロ野球選手時代の経験、大学院体育科学研究科での知識を活かして、松本航(西武)、東妻勇輔(ロッテ)、吉田大喜(ヤクルト)、森博人(中日2位)といった投手をプロに輩出した辻コーチ。
今回は「大学野球までにここまでは抑えて欲しい基礎体力・基本技術」をテーマにお話をいただき、日本体育大で行っている練習メニューも教えていただいた。
vol.1はこちらから!
松本航、東妻勇輔ら3年間で4人の大卒プロ投手を輩出した投手王国・日体大が実践する投手トレーニング vol1
選手、指導者、トレーナーの三者でコミュニケーションを取ることが大切
日本体育大・辻孟彦コーチ
「大学野球までにここまでは抑えて欲しい基礎体力・基本技術」
このテーマに対して、辻コーチがまず挙げたのが肩、肘の怪我をしていないことだ。高校時代に我慢や無理をして大学入学後に怪我が発覚し、1、2年を棒に振るケースをこれまで辻コーチは何人も見てきた。早い段階での申告、医療機関での治療を行うことが、その後の野球人生を大切にできる。
「一生懸命やって怪我するのはしょうがないです。その後に大事なのは専門家に診ていただいて原因を明らかにし、治療やリハビリをしっかり行うことです。もし気になるところがあるのであれば、早く正直に言ってちゃんとした医療機関で診てもらって治療することをオススメします」
現在は球数制限による、故障の防止策も設けられているが、球数を制限すること以上に「どんな投手なのか」を見極めることが大事だと辻コーチは力説する。フォームも一人ひとり違えば球速も違う。また球速の速さでも肩肘にかかる負担も変わってくるため、どんなフォームで何球を投げるべきかを選手、指導者、可能であればそこにトレーナーも加えて三者でコミュニケーションを取っていくことが大切だ。
「100球投げて怪我する選手もいれば、100球投げても怪我しない選手もいます。コミュニケーションを取りながら、できれば定期的に専門家やトレーナーに見てもらって選手とトレーナーと指導者とでコミュニケーションが取れれば、防げる怪我も多いのではないかと思っています。特に高校生は素直に言わずに無理することも多いと聞きます。普段の球数からしっかりとコミュニケーションを取って行くことが大事です」
辻コーチ自身、高校時代は肘の靱帯損傷により約1年半のリハビリ生活を送った。その経験から大学時代では、小さな違和感も見逃さないことを心掛け、練習、試合に関わらず常に無駄なボールを投げないことを意識してきた。
大学4年春のリーグ戦では14試合中13試合に登板し、リーグ新記録の10勝、リーグタイ記録の5完封を記録して通算20回目の優勝の原動力となったが、予め登板数が多くなることを想定してキャンプ期間中から準備をしていたと話す。
「当時はベンチ入りメンバーに下級生も多く、僕が多く投げないと勝てないと監督からも言われていました。6、7勝するつもりで1日100球を10日間投げるなど、対策していたことがあの結果に繋がったと思います。
あと僕の場合は球速が140キロ前後で、変化球でゴロを打たせるタイプの投手だったことも幸いしました。150キロ近いボールを投げる投手があれをやってしまうと、肘への負担も大きく最後まで持たなかったと思います」
[page_break:練習が出来るための基礎体力を作っておく]練習が出来るための基礎体力を作っておく
また基礎体力も、高校野球までに一定のレベルに達しておきたい大事な要素だ。
基礎体力とはすなわち練習できる体力のこと。ランニングする体力、ピッチングする体力、また練習を続ける集中力など、基本的な練習が出来る体になっておかないと、上手くなるものも上手くならない。怪我の防止の面でも、ある程度の体の強さを養っておくことは必要だ。
「最近よく長距離走は練習に必要ないと言われますが、でもプロ野球で生き残っている方々ってまあまあ長距離を走れる体力があるんですよ。そこは中高生の選手たちには勘違いしないでもらいたいんです。基礎体力のレベルがまだまだなのにそこを諦めてしまうと、今後の練習量が取れなかったりすると思います。
走るだけではなく野球は様々なトレーニングが必要ですが、走ることができないとその他のメニューもできなくなってしまいます。集中力も無くなりますし、また走ることが一番繋がるのは回復力ではないでしょうか。もちろん、やりすぎや本数で必要ない部分はあるかもしれませんが、そこも人によって違いますからね」
日本体育大学のランニングメニューは、定められた本数を走るのではなく、個々で定められたタイムを切ることを選手に求めている。30m、50m、100m、200m、300m、シャトルラン、その他10パターン程の距離の自己ベストを計測し、陸上の記録会のように自己ベストを破ることを目的にしているのだ。
基準があることで練習への集中力も増し、記録を更新することで自身の成長を感じることもできる。また自身の体力レベルがチーム内でどこにいるのか、プロ野球選手と比較してどれくらい差があるのかを知ることができ、ランニングタイムの好不調とピッチングの相関性はあるかどうかなど、様々な自己分析もできるのだ。
「基本的にMAXをを切るのがウチのランニングで、一本で切ることができればそこで終わりです。早いときは3本くらいで終わる時もあります。シャトルランなどの長い距離も3ヶ月に1回くらい確かめる意味合いで測定しており、陸上の記録会と同じように選手には測定に向けて自己ベストを出すための準備をさせます。
自分の限界を超えるという練習を常に行っていて、今ある力の7割を出し続けるのではなく、10割を越えていくイメージです。3年くらいになるとキツくなってきますが、高校の時にそういった練習をやっていない分、みんなどんどんMAXが上がりますね」
vol.2はここまで!次回のvol.3は、キャッチボールと投球練習で意識すべきこと、また投内連携や牽制練習について語っていただきます。次回もお楽しみに。
(取材・執筆=栗崎 祐太朗)