Column

甲子園に衝撃を与えた阪口皓亮(北海)。野球人生を変える58球

2017.08.13

 まさにサプライズだった。北海vs神戸国際大附の一戦。北海の先発・阪口 皓亮。マウンドに登った阪口は140キロ後半の速球を連発。ついに148キロを計測し、甲子園のファンだけではなく、NPBのスカウトを驚愕させた。人々の注目を集めた阪口はこのラストサマーにして、自分の才能を開花させた選手なのだ。

2年夏はベンチ外 仮想・アドゥワ誠を務める打撃投手だった

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阪口 皓亮(北海)※写真=共同通信社

 甲子園の快投を見て、昨秋の岩手国体を思い出す。国体は甲子園のスターが一堂に会したということもあって、岩手県営球場は満員。特に木更津総合戦を迎えた北海はエース・北海 大西健斗が人気がとりわけすごかった。大西がひとたび打席に立つと、北海側だけではなく、木更津総合側の女性ファンから黄色い声援をあげるほど。そんな中、ひっそりと登板をしていたのが阪口だったのだ。当時の阪口は185センチ66キロの細身。2年夏は甲子園には帯同しているが、ベンチ入りはしていない。初戦で対戦した松山聖陵のエース・アドゥワ誠(現・広島)対策として、打撃投手を務めていた。

 昨秋は支部予選で敗れ、公式戦を終えていた阪口にとって国体は全国クラスのチームと対戦できるまたとないチャンス。この春、夏へつなげる試合にしたいということで、阪口は必死に投げた。この試合では常時135キロ前後・最速138キロと高2年秋としては上々のスピード。スピード以上に良かったのがボールの質の高さ。回転数が高いストレートで、手元でぴゅっと切れていた。

 それが実現できるのはもちろんフォームが良いからで、足を上げた時のバランス、無駄のないテークバックの動き、リリースポイントの安定感、スムーズな体重移動…。投球フォームの基礎ができていた。これで体ができれば楽しみと思う逸材だった。絶対に化けてくれることを期待して、試合後、阪口に聞いた。阪口は最後の夏へ向けて活躍することに燃えていた。
「大西さんのように最後までストレートの球速を維持できるようにしたいですし、多間隼介と一緒に頑張って左のエースは多間で、右のエースは阪口と呼ばれるようになりたい」

 試合には敗れたが、阪口はしっかりと前を見据えていた。あれから1年ほど。阪口は186センチ80キロとしっかりと増量を果たし、大きなエンジンを身に付け、球速も140キロ台に達した。ベンチ入りした阪口は多間ととともにダブルエースとしての活躍が期待された。しかし不安定な投球が続き、いつもピンチを救ってきたのは多間だった。多間は22.2回を投げて、わずか2失点。一方、阪口は27イニングを投げて、16失点。南北海道大会で阪口を見た方からすれば、嵌ってくれればと思う期待はあるが、今回のブレークは想像できないはずだ。

 しかし甲子園という大舞台が阪口の潜在能力を呼び覚ました。

[page_break:凄さと脆さを見せながらも強烈な印象を残した阪口]

 1回裏、先発のマウンドに登った阪口。いきなり1番後藤貴大に内野安打を許すが、2番栗原凌稀に144キロのストレートでバント失敗させると3番森田貴の5球目で自己最速の148キロのストレートを投げ込み、観客をどよめかせた。まず1回裏を無失点に抑えると、素晴らしい投球を見せたのは2回裏だ。先頭の6番谷口嘉紀を力勝負で挑み、146キロのストレートで空振り三振。大丸侑也には147キロのストレートを見せた後、144キロのストレートで投手ゴロ。そして8番田淵友二郎(3年)に対しても、130キロのカットボールで空振り三振と圧巻の投球。

 3回裏には1番後藤に145キロのストレートでバント失敗を誘い、3番森田貴(3年)にタイムリーを打たれたが、後続を抑え、粘り強いピッチングを見せていた。4回裏もピンチを招いたが、1番後藤を146キロのストレートで空振り三振に奪い、マウンドに降りた。3.2回を投げて、4奪三振、1失点、145キロ前後を連発。被安打8本は打たれたものの、自分の実力はぞんぶんに披露した。

 ストレートのスピードはもちろんだが、ボールの質が素晴らしかった。角度・回転数が伴ったストレート。130キロ台のカットボールの精度も高いものがあった。

 阪口の投球フォームを見ると、ノーワインドアップからゆったりと始動し、左足をしっかりと上げてから、右足をしっかりと立たせて、小さなステップ幅から、内回りのテークバックから、胸を大きく張って、柔軟な腕の振りから、打者寄りでリリース。阪口は角度を意識して、以前よりもステップ幅を狭くした分、だいぶ高い位置で離すことができるようになった。長身投手にありがちなリリースポイントの乱れはない。8安打を打たれたものの、ストレートのコマンド自体は高かった。課題は着地時に打者と正対する時間が早く、打者から見極めがされやすくなっていること。これが別格のストレートを投げ込んでも、打ち込まれている理由かもしれない。

 この日のピッチングは南北海道大会を通じても最高の投球だった。甲子園という大舞台が阪口の潜在能力を引き出していたのだ。まだ脆さは見えるものの、一躍、ドラフト候補に躍り出たといっていい投球だった。昨秋、もがき苦しんでいた時と比べると、まるで別人になったと思わせるほどの成長を見せた。

 阪口は今後、どんな野球人生を歩んでいくのかは分からない。ドラフト候補としてみれば、上位候補として推すのは難しい脆さがある。だが、その阪口の長所を存分に生かしたら、とてつもない剛腕投手へ成長する可能性は秘めている。プロ野球はすべてを平均点にするのではなく、尖ったところを強みにして勝負する世界だ。阪口はプロで勝負できる強いストレートがある。

 甲子園で投げた58球が阪口の野球人生を良い意味で大きく変えてくれることを期待したい。

(文=河嶋宗一

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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