149キロ右腕・山口翔(熊本工)の夏へ向けての課題
5月13日から2日間で行われたRKK招待高校野球大会。清宮幸太郎のパフォーマンスに注目が集まったが、ドラフト的に注目なのが、山口翔(熊本工)のパフォーマンスについてである。センバツの智辯学園戦では9失点と打ち込まれ、悔しいマウンドとなったが、九州大会では最速149キロを計測するなど復調した姿を見せることができた。迎えた招待試合。相手は全国クラスの打撃力、機動力を誇る慶應義塾。山口の実力を測るにはもってこいの相手である。
実は150キロ、狙っていました
山口翔(熊本工)投手
「調子は良かったので、実は150キロを狙っていました」と試合後、そう明かした山口。もちろん150キロを狙える状態だからこそ、発言している。
センバツ後、山口が行ったのはフォームの矯正だ。センバツでの山口のフォームは踏み出した時の左肩の開きの早さが見られた。そして開いて、頭が突っ込みがちになり、着地時の右ひじの動きを見ると、肘が下がっており、トップを作ることができていない。球離れが早く、リリースポイントも定まっていない投げ方となっていた。これでは強いストレートをコントロール良く投げることができない。
センバツ後、コーチと相談しあいながら、フォーム修正を行い、臨んだ九州大会2回戦の美里工戦では敗戦投手となったが、2失点。最速149キロを計測し、本来の実力を発揮することができた。このときのフォームを見ると、開きが抑えられ、そしてしっかりと肘が上がった状態でリリースすることができており、リリースポイントも安定していた。下半身の動きはこう意識している。
「左の股関節をうまく回す意識で投げると体重移動もうまくできる」と、スムーズな体重移動ができていた。
「良い感覚でこの試合に入っていけました」と山口が語るように、立ち上がりから、常時145キロ前後の速球を連発。多少ボールが上ずることがありながらも、コマンドされたボールを投げ込み、1回表は2奪三振。4番正木智也に対してはこの試合最速となる148キロを計測。レフトフライに打ち取り、上々の立ち上がりを見せた。このままいけば、どんなピッチングを展開するのか。大いに期待したことだろう。
だが2回以降の山口は、選抜での乱調を思い出すピッチングだった。2回表、エラー2つが重なり、二死満塁。大川 裕也に中前適時打を浴び、1点を失う。3回裏に勝ち越しに成功した4回表、一死一塁の場面で、7番矢澤慶大が右前安打。エンドランがかかっていたので一塁走者が三塁へ向かい、ライトが三塁へ送球したが、送球が大きくそれてしまい、三塁に到達した一塁走者が生還。さらに9番渡部淳にも適時打を浴び勝ち越しを許してしまう。1番大川は山口の足元を襲う強いゴロ。山口の下半身に当たった打球はショートへ転がり、何とか打ち取ったが、この代償は大きかった。
バックの守備力向上も急務だ
バックの守備力強化も急務だ
5回表、被安打4、2四球が絡んで3失点。この回限りでマウンドを降りた。このイニングについて山口は、
「4回表、打球が下半身に当たってしまい、痛みがあったので、踏ん張りが利かず、下半身を使って投げることができませんでした。肩で投げるフォームになっていました。だけど、悪いなりに、最小限にとどめる投球ができないのが課題なんですけど、その波が激しくて、悔しいです」と反省のコメント。
山口は5回を投げて、被安打8、5四死球、9奪三振と良いところ、悪いところがはっきりと出たピッチングとなった。
熊本工の安田監督は、山口の投球をたたえ、守備の乱れが出たことを課題に挙げた。
「山口のピッチングは良かったと思います。だけど、守備でいらんミス、いらない失点が多かったと思います。せっかく投手が頑張っているのに…」
それでも山口のピッチングは課題は多くある。山口自身、調子の波が激しいことを課題に挙げており、「甘く入った変化球を逃さないですし、力のあるストレートは通用していたので、初回に飛ばしすぎて、ばててしまいました」と振り返るように2回以降は145キロ前後のストレートはめっきりと減った。そして甘く入った変化球、ストレートをしっかりと打ち返された。全国レベルの打線を誇る慶應義塾と対戦して、実戦力が課題となった。だが、山口を盛り立てる守備も安定していれば、試合展開はもっと違ったものになっていたことは確かである。
いわゆる詰めの甘さ。熊本のライバルはそれを見逃してくれない。特に選抜4強の秀岳館はそこを徹底的につく。秀岳館はとの差を縮めるためには、山口はピッチングの安定度を高め、バックの守備を高め、チーム全体で戦っていかなければ、2013年夏以来となる甲子園は成し遂げることはできない。
熊本工は、県外の学校との交流戦はまだ続いていく。今週行われる第7回 沖縄・熊本交流戦で春の沖縄チャンピオン・沖縄尚学、九州大会でも対戦した美里工と対戦。この試合で山口は夏へつながるピッチングができるか、注目していきたい。
(文=河嶋宗一)
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