Column

バイオメカニクスから見た障害とピッチングフォームの関連性(1) 正しいメカニズムとは?

2015.03.30

 今回も前回に引き続き、正しい投球フォームを科学の目から考察して正しいフォームを明らかにして、障害が起きやすいフォームとの比較を行っていこうと思う。

正しい腕の使い方とは?

投球動作は水平回転がメイン

1.投球動作は水平回転がメインになる

 投球動作は水平回転がメインとなりその間に並進運動が入りその回転方向と同じ方向に腕を振ってくることが何よりも大切。この投球ブレーンが外れたフォームが悪いフォームと言える。
まず第1段階で足を上げひねりを蓄え、第2段階で腰を開き接地0.1秒前には上半身がひねられ、接地してからどんどん上半身の回転が始まり加速して、0.06秒後には腰を追い越してどんどん加速していく。腕は接地とほぼ同時に出てくる。接地の0.1秒前には上半身は回転しており接地では10度くらい開いている。

 しかし肩はこの時まだ最大外旋位に向かい動いている。ボールは後、上方向へ向かっているといえ、最大外旋位をとろうとしている。この時、体は回転して、見かけよりは肘がしなる状態になる。
次に、肩の内旋、肘の伸展、手の屈曲。ボールリリースとなる。

2.速さの伝達方法

 ボールリリースの0.04秒前~0.02秒前と0.02秒前からリリースまでを

・体幹の回転も関与するが肘の移動速度
・肩の内旋
・肘の伸展
・手指のスナップ

 の4つに分けていくと、1の区間では肘の運動が54%、肩の内旋が46%なので、肘の伸展がほとんどない。

 2の区間が肘の移動が20%、肩の内旋が20%、肘の伸展28%、スナップ31%で末端の動きが大きくなってくる。最大外旋位からの腕の加速は上半身の回転の差を含めた肩の水平内転運動が一番大切で、次に一気に肩の内旋を出す。この時肘より末端を最大外旋位の角度から動かさないこと。

 そのまま上半身を回転させながら、一気に肘が伸展されて肘の回転運動からスナップへと続いていくが、肘はトルクが発生しておらず、腕は最大外旋位、前後に最大の60~90Nm(ニュートンメートル)、リリース時には5000~8000o/sの最大スピードになり、肘は、内反トルクは最大外旋直後、60~120Nmになるものの伸展トルクは20Nmにもならない。しかしスピードは2000~2500 o/sにも達する。

 しかし肘において、内反筋力は存在せず、肩の内旋のトルクで発生している。手首に至っては5Nmだけでスピードは2000~3000 o/sにも達している。肩の20倍以下のトルクでスピードは2.5倍くらいの差である。すごい事だ。

 これは、リリース直前に求心力方向に働く関節の働きで300Nにも達する。関節には力学的エネルギーの伝達力パワーの関節力パワー=関節力×関節点速度と関節トルクパワー=筋、腱などの力の伝達=関節トルク×角速度とがある。

 そして肩の内旋ピークトルクは最大外旋位後、速度はリリース時直後か後に出て、肘の回転速度がその0.016秒に出る。回転は10Nmとトルクは小さく、速度は3500~5500 o/sに達するがこれは先ほどのことからも、肩の内旋の連鎖で起きている。

 しかし肩の前方速度は体幹の回転の運動に依存している「運動依存モーメント」である。
接地の0.2秒前に下半身の重心が前方へ大きく動きながら、ふみこみ脚が接地0.1秒前にキャッチャー方向に進み下半身の回転が始まる。

 腕は外旋するので後に取り残されて、上半身は一気に加速して接地0.06秒後には腰の回転を追い抜いて加速し続け、後ろに残された、水平外転されていた腕が伸張反射で一気に力が伝達される。フォームの力は伝達力パワーが大きいが関節トルクパワーは特に肩の内旋で大きく、肩が直線に出ながらフォームを加速させ、体幹もどんどんひねられて、この時肩の水平内転(体のひねりメイン)と内旋が半々のパワーで発揮して、内外旋から肘の屈曲をとめるトルクが発生し、体のひねりからの上腕の水平回転方向への運動が肘の伸展の伝達パワーを生む。手首においてもリリース直前、求心力のトルクが発生してから、伝達力パワーで屈曲していく。

 ここでは強く書かないが、スピードボールを投げる秘訣もここにある。

以下の記事もあわせてチェック!
第42回 肩部のコンディショニング3-3(下)
第41回 肩部のコンディショニング3-3(中)
第40回 肩部のコンディショニング3-3(上)
第39回 肩部のコンディショニング3-2
第38回 肩部のコンディショニング3-1 
第37回 肩部のコンディショニング2-2
第36回 肩部のコンディショニング2-1
第35回 肩部のコンディショニング1

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[page_break:投球動作のテクニックで最も重要なこと / テイクバックからトップへの腕の正しい使い方]

投球動作のテクニックで最も重要なこと

 投球動作のテクニックで最も重要なのが第2段階から第3段階への移行の仕方だが、まずここで接地した時の動作をきちんと確認していこうと思う。
ここから強く最大外旋位が出るポイントであり、体幹は5度傾斜して左へ10度、腰は37度開き胸は12度開く。またストレスh身長の86%、ふみこみ脚60°屈曲、腕は93°拳上、水平外転24°、肘100°屈曲、重心移動は79%で前に。

 第2段階で0.8秒かかっているが重心は50%前に24%下方に。
テイクバックで半分の25%前に進んで下方に21%移動して、移動はほぼ終えている。
0.6秒の間に下方21%、前方25%の曲線的移動をなして、テイクバック完成後0.2秒で残り25%の前方への重心移動を行っている。この下方がおちきるテイクバックのことをイメージ的にためという。(ボールが一番離れたところにあるので)

 第3段階では重心は10%前へ。捻転がメインの場面でまだ慣性で前方への移動は出ている。下方へは1%と動いていない。

 第4段階でも前方へ10%、上方に10%と重心は前にいきながらも回旋し続け、完全に体重がのりきると、10%重心も上がってくる。

テイクバックからトップへの腕の正しい使い方

テイクバックを取るときに気を付けることとは

1.テイクバック時に体幹は24度、後に傾き、腕は50度拳上、24度水平外転

 これが高校レベルでは拳上が67度で大きく、水平外転は8度と小さい。

2.プロと高校生のフォームの違い

 トップポジションでプロには5度、逆に体幹が傾き、拳上は93度、水平外転はテイクバックと変わらない23度、高校生は拳上95度で水平外転は35度で約30度も増えている。

 以上のことからプロにはテイクバックで伸展、内旋し、そこから前方移動に合わせて拳上と外旋がメインになるのに対して、高校生は伸展、内旋し続けていると言える。肩、前方にすごく負担のかかるフォームである。

 その0.02秒の直後を計ると、プロは体幹の傾斜はまだ逆に3度で高校生は5度突っ込んでいる。これは重心の移動が止まり回旋動作が入る段階で上半身の0.1秒前に回転が出ないで接地した結果と言える。
腕はプロでは水平外転19度で内転動作が入り、きちんと外旋動作が入っていることが分かる。しかし、高校生は34度のままである。

 また、高校生は前方移動48%、下方へ29%と前方移動しない分、下方への移動が長くなっており、トータルで見れば0.6秒かかる。テイクバックの下方の移動が長いと言えるフォームであり、これは結果論として、軸脚の蹴りによる前方移動を減らしてふみこみの回転の勢いも減り、軸脚に体重が残ったままの第3段階移行となり、結果的には左回りの回転が減り、上半身も回らず、俗にいう腕投げフォームになり骨頭がスローイングとともに前にずれやすくなる。また、腕のみで内旋すればインピンジメントにもなる。

3.肘のしなりが出るフォームにするには?

 またトップ後0.02秒後に利き手は水平外転19度と水平内転方向へと進んでいく。機能的最大外旋位を作るため骨頭が前方へすべり、水平内転方向へ動き肘も前に進んで、俗にいう肘のしなりが出ているところでもある。しかし肩を壊しやすいピッチャーはトップとの角度が変わらず、上半身が回転しているので腕は後に残った伸展、内旋のテイクバックで接地まで持っていき外旋の出ないフォームになっている。

以下の記事もあわせてチェック!
第42回 肩部のコンディショニング3-3(下)
第41回 肩部のコンディショニング3-3(中)
第40回 肩部のコンディショニング3-3(上)
第39回 肩部のコンディショニング3-2
第38回 肩部のコンディショニング3-1 
第37回 肩部のコンディショニング2-2
第36回 肩部のコンディショニング2-1
第35回 肩部のコンディショニング1

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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