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障害とバイオメカニクスからみた投球動作(2) 開きとは?

2015.03.23

 さて、ピッチングにおいてよく聞こえてくるのが「開くな」という指導である。これはとってもあいまいな言葉で選手もかなり困惑しているのでバイオメカニズムの観点からまとめておきたい。

正しく知りたい開きの概念

3.バイオメカニズムからみた正しい捻りの動作の確認

第1段階(ワインドアップ)

 ワインドアップでは腰を16度閉じて、上半身は腰に対し9度、開いている形となっている。
セットポジションでは21度閉じて4度開いている。セットのほうが高く脚を上げ位置エネルギ-を蓄えない分胸も腰も30%位多く捻って、回転エネルギーを使おうとしている動きになっているのだ。

開きの概念を考えよう

第2段階(コッキング期)

 前足の接地の0.5秒前(0.32秒の所、全体で0.82秒)で腰が最大に閉じられている。そして接地0.2秒前で下方に重心が落ち切ったときには、腰は投球方向に向いていて、上半身は腰に対しては約30度閉じられている。そして接地していた時が腰は40度開いて上半身は腰に対しては25度閉じられている。
そこからはすでに腰は開き始めているのだ。テイクバックは接地の0.2秒前でスタートから0.6秒経っている。ここではすでに腰は完全にキャッチャーの方を向いている。上半身は腰に対し27度閉じられている。接地では腰は37度開き上半身も11度開いている。腰に対しては27度閉じられる。

 腰と上半身の捻りの差が最も出るのは接地の0.1秒前、40度の差が出る0.2秒前がテイクバックで下方への移動が終わり、次は一気に前方に移動する。ポイントは接地の0.1秒前に腰が一気に回転運動を起こしている点である。
そのためまず脚が上がり、テイクバックで最も重心が下がり(接地0.2秒前)、そこから約0.1秒で軸脚の伸展の加速が入り、次の接地まで0.1秒で腰の回転の加速が一気に出る。

 それで上半身はまだ回転しているので回転に差が出る。このように接地前に腰は回転しており、上半身に至っても実際には0.1秒前に加速した下半身に対して40度の開きが出たものの、接地の際には14度の差になっており、数秒後には回転を一気に始めている。

 0.1秒前に最大差が出たという事はすでに加速の準備が接地前に整って、始まっているのである。下半身が接地前に回転(開く)するのは単純に考えれば簡単で悩むことではない。なぜなら、横を向いて足を上げたら、踏みこみ脚をキャッチャー方向へ向けて力の進行方向を示さなければボールの進行方向が決まらないからだ。「開いてはダメ」では絶対ボールを投げる際に下胴が回らない。また接地後に回転運動は出しにくい。

 イメージしてほしい。まっすぐ走っていた車が急ブレーキをかけたら、乗っていた友人はどこへ行くか、フロントガラスの方向へ行くはずだ。慣性で(いきおいで)絶対サイドガラスの方へはいかないのだ。

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[page_break:回転運動の仕組み、加速期、フォロースルーの仕組みについて]

回転運動の仕組み、加速期、フォロースルーの仕組みについて

 そのため接地する前に、力を入れる方向を変えなければ力のベクトルが接地後では慣性で前へ突っ込んでしまい、回転運動が出にくいフォームになり、もっと大切な加速期の回転運動の段階で下肢からの回転の連鎖が出ない。

 よくフォーム作りにおいて第2段階を並進運動として第3段階を回転運動として接地まで後の骨盤を隠すという方法がとられるが、これでは回転運動の力の入れるタイミングを間違ってしまうことになる。

 慣性の法則で外力が加わらない限り、物体は力の加えられた方向に動き続ける。
接地前に回転運動を加えないと接地後外力が加わった時に上が支えになり、前方向へ回転運動が出るし、また慣性の法則作用、反作用を考えれば、開かないで横向きで接地すればセンター方向に反作用が出てしまい回転運動で利用するためのふみこみ脚の互作用のエネルギーをもらう行いができなくなるのだ。

正しいフォームを知りメカニズムを知ろう

第3段階(加速期)

 そしてメインの加速期では0.12秒の超スピードモーションでリリースの0.06秒前=接地後0.06秒にはすぐに腰に対して上半身が追い越す。なので接地0.1秒前に最大差が出ている。ということは、0.2秒前のテイクバックから一気に腰が開きながら前方へ重心の移動が発生して、0.1秒前には上半身も加速して開き0.1秒前の40度差から接地直後14度差になって、0.06秒経てばすでに下半身の加速は終わり、上半身が一気に回転の加速をしていく。回転スピードも上半身の方が2倍くらい速い。

 リリース時には腰は81度開き、上半身は108度開いて接地の0.1秒前から、リリース0.12秒でこの0.22秒間で上半身が腰に対し67度開いて上半身の回転、加速運動が行われたことになる。

第4段階(フォロースルー)

 ここでは腰はほとんど動かないが、98度から17度動いて上半身は162度なので44度捻られる。フォロースルーは上半身の回転と腕の回転の終了時の距離の間に減速しなくてはならない。ちなみに接地時踏みこみ脚は5度~6度内に捻られている。


今回は投球フォームと障害の起こすフォームの違いをバイオメカニクスの観点から見ていきました。まず正しいフォームをしっかりと知らなくては間違ったフォームは直せません。次回も引き続きバイオメカニクスからみた正しいフォームの解説を行い、正しいフォームの説明をしていくことでパフォーマンスの向上と障害予防について明らかにしていこうと思います。

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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