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肩部のコンディショニング3-2

2011.09.29

殖栗正登のベースボールトレーニング&リコンディショニング

第39回 肩部のコンディショニング3-22011年09月29日


投球障害について解説!まずは理論をしっかり押さえよう

 肩のコンディショニング編、前回に引き続き投球障害の理論について解説します。今回は『動揺性肩関節症』『リトルリーガーズショルダー』。野球肩、野球肘にならないように、練習量の目安を知っておきましょう。

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[目次]

1 動揺性肩関節症

2 リトルリーガーズショルダー
3 オーバーワーク対策
4 投球フォームと損傷の関連性まとめ

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殖栗正登のイップス克服プログラム


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[目次]

1 動揺性肩関節症

2 リトルリーガーズショルダー
3 オーバーワーク対策
4 投球フォームと損傷の関連性まとめ

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Ⅰ 動揺性肩関節症

元々、肩はルーズで関節の不安定性を持つので、厳密に言うと肩関節周囲筋、骨に異常なく肩関節が異常に緩い肩に対してこの症状が該当にします。チェック方法は、

1:下方不安定性のチェック


2:150度挙上位でのチェック

150度ゼロポジションで回旋のチェック。ルーズショルダーで93度。※正常は72度

3:前後不安定性のチェック


4:90度挙上位後方亜脱臼のチェック


5:90度外転位前方亜脱臼のチェック

 ルーズショルダーの場合は、下方、内外旋どちらも陽性ですが、肩板疎部の時は内旋位のみ陽性というのが特徴です。ルーズショルダーは筋力強化で改善報告がでていますが、強化をやめると元に戻ってしまうと報告もでているので、野球の投球動作の内外旋の繰り返しにおいて、ルーズショルダーの選手は各損傷へ発展しやすいです。

 大きな損傷では、ヒルサックス損傷(上腕骨骨頭外側圧迫骨折)、バンカート病変(関節窩前線での関節包のはく離)、肩板疎部損傷、また臼蓋後方開角が20度より広くてもいけません。反復性亜脱臼の40%は元々ルーズショルダーが要因と言われています。以上から、筋力トレーニングの必要性は絶対だと考えます。


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[目次]

1 動揺性肩関節症

2 リトルリーガーズショルダー
3 オーバーワーク対策
4 投球フォームと損傷の関連性まとめ

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Ⅱ リトルリーガーズショルダー

 この症状は投球の内外旋ストレスによる上腕骨近位骨端線の損傷です。骨端線は細胞成分に比べて細胞間基質が少なく、骨全体でも脆弱です。長軸方向ストレスには強いのですが、せん断力には弱いです。特に、肩関節には外旋筋の棘下筋、小円筋に比べて、内旋筋は広背筋、大胸筋と大きい筋力を発揮しますが、まずベクトルの違いが大きなせん断力を生み、また内旋筋が強いためすべり症も伴います。

Ⅰ型:内旋筋により外側の拡大
Ⅱ型:リリースの牽引力で全体に拡大
Ⅲ型:すべり症へ(内反変形に注意)

1:上腕骨頭部の痛み
2:抵抗下の外転90度での内旋、外旋の疼痛
3:投球肩の肩甲骨が広背筋、後方肩板拘縮のため下方変位
4:90度外転位内旋/90度屈曲位内旋/外転/水平内転

 可動域の低下は後方構成体の伸張性低下を示して、せん断力を生じやすくしています。リコンディショニングでは1~2ヶ月のスローイングの禁止、痛みがなくなれば肩後方の可動域、筋力を整えつつ、下半身、体幹、ストレッチを行います。


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[目次]

1 動揺性肩関節症

2 リトルリーガーズショルダー
3 オーバーワーク対策
4 投球フォームと損傷の関連性まとめ

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Ⅲ オーバーワーク対策

 リトルリーガーズショルダーは、多くは股関節、体幹が固い子が多いです。これは下半身の使えるフォームにならず、肩に頼った内旋投げになりせん断力が大きく働いてしまっているからです。オーバーワーク対策の基本は以下の通りです。

・【野球肘は11-12才がピーク、野球肩は15-16才がピーク】

・練習時間
小学生 3日間で2時間内
中高生 週一の休み

・全力投球
小学生:1日50球×3日=150球まで
中学生:70球×5日=350球まで
高校生:100球×5日=500球まで

・試合翌日はスローしない

・投球は一日ごとで多い少ないを分ける

・連投は避ける

ちなみアメリカでは以下のような基準です。

年代 投球数 練習日
8~10才 50球 週2
11~12才 65球 週2
13~14才 75球 週2
15~16才 90球 週2
17~18才 105球 週2

 日本の半分もないことが分かります。どちらの数字も医学会などで提言、比較されています。成長期の選手は筋力が弱く、まだ関節の弛緩性が高いです。そのためリリースで後方構成体の伸張性の低下から拘縮が始まり、すると前方に伸張ストレスがかかりやすくなり始めて、前方がゆるめに(特に中、下の関節上腕靭帯)、インターナルインピンジメント(後上方関節唇損傷十棘上腕関節包面損傷)、外旋角が大きく出てスラング病変、肩板疎部損傷となり、後方構成体が硬くなるほど前方の伸張が大きくなりストレス損傷を引き起こします。

 なので後方のコンディショニングテストと前方の不安定テストは必須で、そこにインピンジメントテストや「筋力テストや関節唇のテストを加えて、損傷部位を確かめていき、リコンディショニングを進めていきます。


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1 動揺性肩関節症

2 リトルリーガーズショルダー
3 オーバーワーク対策
4 投球フォームと損傷の関連性まとめ

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4 投球フォームと損傷の関連性まとめ

1:痛みの分類

投球時の肩の痛みがフォームの中のどこで生じるか、以下のデータが出ています。

第1フェーズ 1.0%
第2フェーズ 11.6%
第3フェーズ トップ31.7% 最大外旋26.7% リリース12.4%
第4フェーズ 11.6%

以上のことから、肩の痛みはトップ~リリースがほとんどで、なおかつ肩板疎部と前後不安定症がほとんどです。

2:世代別の損傷部位の違い

中学生 スポーツ歴も2~10年とオーバーユースになってきます。

1位 疎部損傷 36.8%
2位 前後不安定症 31.6%
3位 ルーズショルダー 26.3%

高校生

1位 前後不安定症 41.9%
2位 疎部損傷 38.5%
3位 ルーズショルダー 6.4%

大学生

1位 疎部損傷 40.4%
2位 前後不安定症 34.6%
3位 関節唇損傷 11.5%

社会人

1位 疎部損傷 37.6%
2位 前後不安定症 37.1%
3位 棘下筋損傷 9.7%

プロ

1位 前後不安定症 52.3%
2位 疎部損傷 15.7%
3位 棘下筋損傷 13.7%

 また肩こりも、高校生30%、大学生16.6%、社会人24.6%、プロ23.9%となっています。このデータからもわかるように、肩の損傷はほとんど前後不安定症と肩板疎部損傷で、中高では筋力が不足しているためルーズショルダー、大人になれば筋、腱の損傷が増え棘下筋損傷へとつながっていきます。ここで投球モーションと損傷について解説します。腱板疎部損傷であすが、腱板疎部は第3フェーズの初期、骨頭の前方移動で起きます。また、最大外旋位から内旋位の移行期に一度、体幹の回旋速度が上がり、ストレッチショートサイクルで前方構成体が伸張します。(この時、上腕二頭長頭支持機能として働き、水平外転の大きい投手ほどこの部位の損傷を受ける)この時に、関節減弱部の疎部の負担が生じます。また、烏口上腕靭帯が損傷すれば、外旋位の抑制がまた弱くなり、より負担がかかります。人工的に疎部を切断すると外転45度で骨頭が前方へ移動してきます。Joint distensionで肩の内圧を下げると痛みが減ってきます。

 次に多く見られるのは、前後不安定症ですが、正しくは腱板疎部損傷及び棘下筋腱障害合併症候群といいます。ボールのリリースで棘下筋はエキセントリックに収縮しますが、何度も繰り返すと部分断裂を起こして後方の関節包滑膜は増殖して棘下筋も炎症します。また、ゆるんだ関節包は後方の動揺性を生みます。棘下筋の動的支持の障害も起き、腱板の深層と臼蓋の後上端とのインピンジメントが発生します。そして外転位で前方の構成体が損傷してきて疎部に負担がかかると損傷して、前方にも不安になります。またバイトブレヒト孔が生まれば、関節内圧が高まり、より疎部腱板を引き上げ、インピンジメントを強くします。特徴としては、下記のようなものがあげられます。

1 肩の疎部の棘下筋付着部に痛みがあり、
2 挙上水平動作で痛み、
3 筋力、Romは大丈夫
4 下垂位で痛みが少なく、
5 内旋位での下方不安定

治療法としては、関節の内圧を下げること、Join distensionやマニプレーション(求心位を保つ)などがあります。

3:不安定肩関節症

上部、中部の臼蓋上腕靭帯の損傷でゆるみ、前方関節唇など損傷して、骨頭が前方にルーズになったものであり、挙上や下垂で不安定性を見せた時に弾発音がします。烏口突起から母指横指横の関節裂隙に痛みがでます。

4:広背筋症候群

上腕を内転・内旋・伸展、外転・外旋・屈曲すると伸展され、緊張すると肩甲骨の下角に付着しているため肩甲骨、上腕骨が上がらなくなり、インピンジメントなどの原因になります。

5:投球による肩こり

ルーズショルダーで肩甲挙筋が緊張したり、肩甲骨周囲筋、大小の菱形筋、前鋸筋、僧帽筋が緊張します。外転、外旋の繰り返しで上腕三頭筋が緊張して肘が伸展され、内側上顆炎やSTRUTHERS腱弓と呼ばれる上腕三頭筋内側の浅層筋線維からなるアーケードの下をくぐり、内側筋間中隔の前方より後方へ走行するため、圧迫、伸張、摩擦が因子で尺骨神経のしびれ、痛み、圧力低下、フローマン徴候などが出てきます。

 今回は投球損傷の理論を紹介いたしました。次回からリコンディショニングの実際について解説していきます。

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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