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速い球の投げ方2

2010.06.21

殖栗正登のバランス野球学

速い球の投げ方22010年06月21日

さて、前回のコラム(「殖栗正登のバランス野球学 第16回  速い球の投げ方1」)において、速い球の投げる方法を紹介させて頂きましたが、今回は前回の続きをお話したいと思います。

前回は「捻転動作」と上胴と下胴の捻転の使い方の差についてお話しました。球速は力×距離で決まりますが、距離や時間はなかなかフォームでは変えられないので、力の運動連鎖を下から高めていくことにより、より多くのエネルギーを蓄えて、ボールの初速度を高めることが大切なんだと前回お話しました。

今回はより細かくお話したいと思います。

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投球動作を局面で分析

まず、フォームを分割します。

第一局面:脚を上げたところからボールの最下点時(ドロップの終わり)まで
第二局面:〜踏み込み脚が接地するまで
第三局面:〜リリースまで

■第一局面

まず、「ドロップ」から始まる下肢の動作の局面においては、この時は脚を上げてから重心の平行移動と下方への移動が見られますが、この時に速い球を投げるピッチャーは2点共通しているものがあります。

1 軸脚の大腿の後傾が大きい。
2 足首の下腿の前傾が小さい。
3 体幹が基底面内にキープされている。

■第二局面

そこから第二局面に進んで、ヒザと股関節の角速度はまずヒザが「オフバランス」が出るところから伸展され、接地前位から股関節が伸展するこの角度と速度は、球速と相関性がかなりあります。フォームを作るときに意識すると良いでしょう。

■第三局面

第三局面において、踏み込み脚の角度も球の速い方が大きく曲がり10°位の差がありましたが、最大外旋位で体が正面を向くあたりから(アクセレーション期)ヒザは伸展しますが、遅い球を投げる選手は屈曲していきます。

ここで勘違いしていけないことは、踏み込み脚はピッチング動作において地面から脚が離れないクローズの状態であるので、俗に言うアクセレーション期のときは、踏み込み脚の動きは終わり、上肢の前傾が入ってきます。この時大腿直筋が収縮すると骨盤が前傾します。このまま前傾していくと自然とヒザは伸展位をとっていくので無理に伸ばしていくものではありません。

以上のことからただデーターだけをみてフォームを作ると、運動の連鎖を止めることになるので、選手も指導者も注意して欲しいと思います。

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「体を開くな」は間違っている?

第三局面で、接地する前から下胴の回転は始まり、速度は高まり、アクセレーション期まで増加していきます。上胴はその後速度を増していきますが、ここでのポイントは接地の前から下胴の回転動作が始まっているということです。

いわゆる「体を開くな」という注意は間違っています。なぜなら踏み込み脚を閉じたまま接地すると

1 力は物体に速さと運動の方向を決めるので、つま先が内にしまりすぎるとボールの進む方向に力が加わない
2 地面の反力が捻転方向の出したい方向に加わらないので下胴の捻転動作がでない
3 捻転動作を出すためには重心を止めないといけないが、軸脚だけ進み、接地の前の踏み込み脚を回していかないと重心を止められないので、接地した後、軸脚はまっすぐ進むので(外転動作)、いわゆる「つっこむ動作」になる

このように接地前に踏み込み脚は引き込み動作でないと、フォームの流れ的に下胴の可動域が狭(せば)まることにより、以下の悪影響が生まれてしまいます。

1 上胴とのストレッチショートニングサイクルが使えずに加速ができない

2 下胴が回転しない分を上胴が早い段階で回ってくるので、力の連鎖が使えず、上胴の回転するタイミングが早くなってしまい、最大外旋位からリリースまでの距離が短くなりエネルギーが減る。これは球速が遅くなる大きな原因に。

このような悪影響により、球速の上がらないフォームになってしまいます。

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体幹の使い方

よく色々な本を読むと球を速く投げるために体幹を上手に使う書いてありますが、ピッチングフォームにおいて、体幹を上手に使うことを5つのポイントに分けて解説します。

1 ドロップにおける大腿の後傾と下腿の前傾を強くださないこと
:ヒザを前に出すのではなく、股関節を曲げて使うフォームであること。ここで体幹と下腿を過剰前傾しないこと。

2 ドロップはキャッチャー方向に向かうこと
:重心が下、水平方向であること。ここでの体の使い方は上胴、下胴ともにキャッチャーと逆側にひねっていること

3 軸脚の基底面から頭が外れることにより、ヒザが伸展接地前位に軸脚股関節の伸展、外転、内旋と踏み込み脚も回り始める。ここから加速が始まる。(下胴の捻転動作)

4 下胴がそのまま最大外旋位まで捻転し、加速し続けられ、アクセレーション期で上胴の加速が一気に始まる。

5 踏み込み脚が接地した時のヒザの角度は110°であり、そのままキープされ続け、腕のリリース(内旋)と同時にヒザの伸展速度が上がる。

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上肢の動作について

接地しながら下胴が捻転して、肩には水平内転トルク(回転させる力)が生じ、この力は上腕を前方へ加速させながら関節力を生みます。次に肩が外旋位になっていくと上方トルクが生じ、上方への関節力を生みます。

この2つの力の合力で上腕の方向が決まります。また、腕の高さも決まるので、無理に肘を上げてもオーバースローはできません。

加速期での利き手の各関節における関節のトルクパワー(関節のトルク×角速度)は内旋トルクです。この動作を速く、長くすればボールの加速を高めることができます。

実践においては前方トルクは下胴の回転と関節力で出てきます。テークバックから腕を上げるときは外転、外旋動作を出すこと、またこの動作が早いほどストレッチショートニングサイクルが使えます。加速期の距離を取るためにと、腕の慣性モーメントを大きくして上胴の回転を遅らせてストレッチショートニングサイクルの下胴と上胴と腕に出すためにトップの位置は肩、外転90°にすること。

踏み込み脚が接地するとき、上胴は後方に残した状態で肩、肘90°の位置に持って行きます。

水平外転角が大きいほど、球速が大きいです。またリリース時に内旋角速度が大きいほど球速が上がります。トップを作るとき、外旋角速度が早い方が球は速くなります。これはリリースの内旋動作に対するストレッチショートニングサイクルとなるためと考えられます。

また球の遅いピッチャーほど、肘の屈曲が大きく出て、またの速いピッチャーほど90°前後にキープされています。肘の伸展のトルクは20Nm以下と小さく、上腕二頭筋がトルクの起因とはなっていません。では何故肘は伸びるでしょうか?これは肩の最大外旋位から肩の内転速度が高まるのと同じくして、肘が90°前後に置いておくと、このトルクが肘の伸展の力として働くからです。肘の伸展速度は球速と相関性がありますが、これは肘の筋力ではなく、肩の水平内転トルクと相関性があります。

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トレーニング方法について

前回においてフィジカルトレーニングの意義と数値を出しましたが、筋力トレーニングの意味や最低限の体力要素はその人の持っている土台となるので、ここをピッチングの専門的トレーニングとゴチャゴチャにして考えてはいけません。

近頃、専門的トレーニングやコアトレーニングやファンクショナルトレーニングなど、色々なトレーニングが提唱されていますが、これはその部分がピッチングという動作において必要で、なおかつその部分で使われ、どのような筋の収縮形態でどのようなスピードで使われているかを考慮して行うべきです。よくウェートトレーニングをしてもピッチング動作と違うから意味がないと言われますが、それを言ったらランニングですら意味がなくなってしまいます。

何故ウェートトレーニングをするかというと、野球において身体のベーシックの力を出すため最低限の筋量を確保するためです。もし、最低限の筋量があるならば、筋力をアップさせ、より野球のパワーの発揮に近いパワートレーニングとして段階的に進めることができます。それを数値に出して野球に必要なところまで引き上げていきます。

このような土台を作るためのトレーニングとは別に、専門的なトレーニングを紹介します。ただし、これはフォームづくりのトレーニングとは違います。

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専門的トレーニング

1 ドロップから軸脚のラテラルジャンプとドロップ時の軸脚の後傾
2 踏み込み脚の引き込みのトレーニング(タイヤ投げ、メディシンバックスロー)
3 軸脚の捻転時の押し込みのトレーニング
4 上胴捻転のトレーニング(ロシアンツイスト、ケーブルツイスト)
5 利き手の水平外転の可動域アップ(チューブ引き)とストレッチショートニングサイクルのトレーニング
6 肩の内旋、水平内転のトレーニング

大まかにはこの6つのトレーニングとなります。次回も早い球の投げ方についてお話したいと思います。

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参考文献

『野球の投球動作のメカニズム』(2003・宮西智久)
『球速の異なる野球投手の動作のキネマティクス的比較』(2005・高橋佳三)

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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