殖栗正登のバランス野球学

第16回 速い球の投げ方12010年06月08日

ボールのスピードを上げる。

 これはピッチャーにとって永遠のテーマではないでしょうか。当院にくる選手のほとんどはボールのスピードが速くしたいという方です。今回、東京都の春の高校野球の優勝校のピッチャーも当院に来院していますが、当初は130km/s膳後のスピードでしたが、現在は140km/sを越えています。

 私は選手に指導する時は、必ず「戦略的」にコンディショニングを作っていきます。注目する点は、その選手の体型(だいたい身体の大きさから筋量のつく限界が見えてきます)、フィジカルテストからの長所と短所、そしてフォームです。 

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上に行く選手 行かない選手

 私の受け持ったピッチャーの数名がプロへ進んだのですが、プロに進むのは受験テストと同じだと考えています。それは、闇雲にただいろんなことをやるのではなく、ポイントを立てて選手の長所と短所を知り、それをフォームの中で必要なところを伸ばしてやってみて考察し、また計画を立ててやってみることの繰り返しだからです。

 時々、選手と話していて、いつまでも同じ質問や、やりもしないで自分の頭の中だけで完結して、前に進もうとしない選手がいますが、こういう時、私は選手に次の様にかなり厳しく伝えています。

「独断だけでは前に進めない。そこに知識をより多く加えて、考えの幅を広げないと駄目だ。」

 上にいく選手を見ていて思うことは、1.顔の表情がすばらしいこと、2.目が輝いていること、3.あいさつが良いこと、4.返事がいいこと、5.頭がよいこと、そして、6.いい意味で素直なことです。彼らは独断にはまらず物事を大きい視野で見ることが出来ています。また、高いレベルで戦っているので自分よりレベルの高い選手も見ており、謙虚です。頭が良い事は、理解する能力と理解した内容を体へ体現する能力の高さです。学んだことを実践する段階で躊躇(ちゅうちょ)してゴチャゴチャと考えているとたいてい失敗します。

 壁にブチ当った時の乗り越える方法は、壁を登る能力を身につけることですが、それを身につけるための時間は限られているのです。選手、特に学生の方ほど、そうだと思います。だから、良い方向に進む可能性の高い事は何かを考えて、実行しなくてはなりません。

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「初速度」と「運動連鎖」

 まず、速い球を投げるためには、ボールの初速度をある必要があります。つまり、ボールにより多く力学的エネルギーを与えなくてはなりません。エネルギーは仕事に等しいので、より多くの『力』と『距離』を与えればよいのです。または、『力積』で考えれば、より多くの力と時間をかければよいとなります。

  しかし、ピッチャーのフォームにおいて与えられる距離と時間は限られているので、いかに正しいフォームの運動連鎖で下(踏み出し)から力を加え続け、力を増やすかが大切になってきます

 まず、キネマティクスですが、よくピッチングの本を読むと「加速期」というフェーズがあります。少し知識のある選手だと、この加速期(最大に外旋がかかり、胸をはって、リリースまでの期間)に、ボールに力を加えていると答えてくるのですが、実際にフォームが加速されてくるのは踏み出し足の接地前後です。

 また、選手によってはリリースの直前に力を入れる方がいますが、リリースの直前(9.985秒前)はボールは減速しています。これはボールが指先にいくほど力が入りにくくなるからです。しかし、そのボールの加速度が落ちる時に手首のスナップ動作が強く出てきます。いわゆる前腕の回内手首の屈曲、尺曲です。このことから、スナップ動作はボールへの加速のためではなく、ボールへのより多くの回転を加えるためだとわかります。

 この観点から考えていくと、速い球を投げるポイントは接地時の地面の反力と、リズムよく下肢の捻転動作を行うことです。

(参考)第13回ピッチング動作とトレーニングプログラム

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「捻転動作」のポイント

 では、ここで捻転動作について、きちんとポイントを確認したいと思います。

1 身体のセグメントの両端がその長軸回りに互いに逆向きに回転する動作

2 投球における捻転は、軸脚のバッターに対する地面の反力の両端の逆回りの力の一つです。

3 踏み出し足の地面の反力は重心移動にブレーキをかけて、捻転動作の逆向きの力の一つです。

4 重心移動がとまること5それにより急激な捻転動作が起きる(方向転換)

6 ここで生まれた力学的エネルギーがピッチングに大切です。

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ピッチング動作のポイント

 また、ピッチング動作についてのポイントをまとめていきます。

 1 下胴(左右の股関節を結んだベクトル)は、踏み出し足完全接地で回転速度を最大化して(650°/s)、足が完全静止して最大外旋位時で急減する。

 2 上胴(左右の肩を結んだベクトル)はこの下胴の激減に次いで、加速し始める。最大外旋位直前で最大(1200°/s)になる。

 3 この動作は完全なストレッチショートニングサイクルの加速を使っている。

 4 ピッチングにおいては足を上げた時はバランスが崩れないところまで上胴、下胴を共にひねり、その後、重心を移動させながら(下、水平方向に)ドロップを行い、オフバランス時で下胴が打者方向に急激に回転して、テークバックすることで慣性モーメントが大きくなり上胴の回転が遅れる。この時、上胴を動かさないことがポイント。ここは下胴がポイントであり、最大外旋位を向かえて腕のストレッチショートニングサイクルが高まり、内旋される時の前に上胴の加速が始まる。

 5 特に上胴の回転速度は900〜1700°/s下胴は450〜750°/sである。いかに上胴の捻転速度を使えるかが速球を投げるポイントで、この力を出すタイミングを間違えないこと、すなわち身体の開くフォームとは、上胴の加速のタイミングの間違いである。しかし下胴は開いて行かないと下胴の回転速度は得られず、また、一番最初の地面反力を貰えないのでここを勘違いしないこと。

 6 つっこんだフォームとは踏み出し足が逆方向へ回転していないフォームである。これは下胴を捻転させたフォームではなく、力学的回転エネルギーも発しないフォームである。これがつっこむとダメな理由である。

 7 踏み出し足の捻転角が小さくなると球速は減少する。

 8 球の速いピッチャーほど上胴の回転速度が速く、またストレッチショートニングサイクルをうまく利用している。

 9 踏み出し足接地時は下胴回転角は-66°、上胴は-116°で、足が固定された時は-37°で上胴は-86°、リリース時に-18°で上胴は32°となり、ここで角度を見ていくと足の固定後に上胴の角度が大きくなっていくのがわかる

 10 体重移動はするが、重心は移動させないこと。これが一緒だと、俗にいうつっこんだフォームになり、踏み出し足の逆動作と上胴の回転動作のタイミングを間違える。

 今回は速い球の投げ方①として下半身の捻転動作と上胴の捻転動作についてお話をさせて頂きました。次回は腕の使い方について解説したいと思います。

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参考文献

『野球の投・打動作の体幹捻転研究』(2009・宮西智久・桜井直樹)
『野球の投球動作のバイオメカニクス的研究』(2000・宮西智久)

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プロフィール

殖栗正登先生
殖栗正登先生
  • 生年月日:1976年1月22日
  • 出身地:新潟県
  • 新発田南高校卒業後、立正大学、東京医療専門学校へと進学。
  • 怪我のため、野球部を退部するもプレイヤーとしての情熱を持ち続け、米国、台湾で野球(2軍練習生)として夢を追う。しかし、度重なる怪我によりプレーヤーとしての道を断念し、引退。
  • その後柔道整骨術やカイロプラクティックなど、体に関する様々な分野を学び、整骨とボディバランス整体とストレングス・コンディショニングを融合したボディバランス整体院トレーニングルームを開設。
    現在、ボディバランス整体院で、多くのプロ野球選手から大学野球,高校野球などのアマチュア選手まで幅広く指導。モデルなども指導している。
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