Column

仙台育英高等学校(宮城)

2013.03.24

みちのく便り~心の高校野球~

第11回 仙台育英高等学校(宮城)2013年03月24日

選抜に向けたいわき合宿の模様

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 2月16、17日と、土日を利用して仙台育英が福島県いわき市で合宿を行いました。いわきは東北地方では比較的、雪が少なく、2月でもグラウンドが使用できます。15日の午後に学校のある宮城・多賀城市からいわきに移動し、約3ヶ月ぶりの土の上での練習となりました。
 仙台育英は、昨年の11月、ちょうど、明治神宮大会が始まるときにグラウンドに工事が入りました。近隣への砂埃の飛散を防ぐため、全面人工芝にする工事です。そのため、塩竃神社へのランニングや室内練習場での打ち込みなど、限られた環境の中での練習が続いていました。そうでなくても、当然ながら雪の影響もあります。
 そこで、センバツに向けて、週末を利用したいわき合宿が行われました。

久々のユニフォームでの練習で身も心も引き締まる

▲仙台育英 佐々木 順一朗監督

 2月16日、いよいよ、久しぶりの外での練習です。仙台育英は冬の間、ジャージで練習します。土の上での練習も、ユニホームを着ての練習も、新鮮でした。「身も心も引き締まった感じです」と上林。外はひんやりしていました。雪がないとはいえ、肌に突き刺さる風は厳しい物です。前日の雨の影響で、午前中は東日本国際大の室内練習場を借りました。練習の準備をしつつ、いの一番にバットを持ったのは上林でした。「早く練習したくて、ウズウズしています」。
 グラウンドマネージャーの水沼航平が集合をかけます。
 上林「よし!1日練習!」
 部員「よし!」
 上林「今日の目標」
 福田義基「今日の目標は、【感覚をつかむ】です。今日からユニホーム練習がはじまって、午前中は室内での練習になるんですけど、きっと午後は外を使えると思うので、外で久しぶりにやるということで、キャッチボールから良い感覚をつかめていければいいと思ったのでこの目標にしました」
上林「感覚をつかむということなので、それを重点的にやって、あとはしっかり、残り組もいるということを考えて自覚もって行動していきましょう」

 水沼が「今日から遠征はじまるわけで」と話し始めた時、佐々木監督が登場しました。
「この遠征は第1回目、2回目、3回目とあります。イメージ的には1回目で、やってみたら距離感がおかしいとかいろんなことをいっぱい感じて帰りたいなと思っています。室内でばっかり練習をやっていたので、外でやった時、どうなんだろう?と、その違和感を次の1週間でちょっと詰めるような練習をして、次に来た時はチームプレーとか、いろいろ入っていってもいいのかなと思います。その時にまた違和感が出ると思うんだけど、その違和感を詰めて、最後の3回目は紅白戦なり試合形式なりを少ししていけるように。そして、違和感はなくなっていくという感じなので、そんなにあせってはいないです。多分、日本で一番、遅れています、仙台育英。チームプレーに関してはね。日本で一番、遅れているんだよ」
 部員から笑いが起こりました。佐々木監督は続けます。
 「なぁんでも一番はいいんだよ」。
 笑いはさらに大きくなりました。
 「一番、進んでいるか、一番、遅れているかです。途中はいっぱいいるんだから。そんな感覚で一番、遅れているのを取り戻すんだ、と。後半勝負強いでしょ、みんな」
 部員「はい!」
「前半に飛ばすとろくなことないので。後半になってから飛ばすように。今、焦ってないのはそういうことです。違和感を感じるというのと、違和感を除いて行くというのと、最後はチームプレーに変わって行くと。あとは沖縄での試合に臨めるように。暖かいところに行くので、その時はもう、一番、遅れているというのではない。みんなと仲間に入るような状況にやっていきましょう」

 佐々木監督が去った後、水沼が口を開きました。
 「今、先生に言ってもらったとおり、このいわき遠征でたくさん失敗しながら冬の実感をつかめるように。1つ1つ確認しながら、まずはけがなく、今週、乗り切れるようにやっていきましょう。メニューは、SSKをやったらアップして、午前中はバッティング。午後はグラウンドで練習です。バッテリーはバッティング中にピッチング」

 仙台育英の練習メニューの1つ、SSKとは「するどい、スイングを、きわめる」の略のことです。20分の間、5秒に1回、スイングをします。凛とした空気の中、水沼のかけ声とビュンというスイング音だけが、ただただ響きます。SSKは同じ時間、同じ本数を全員で振ることになり、差別はありませんが、ほんの少しの意識の差が結果に表れてしまうメニューです。


グラウンドで感じた違和感からセンバツへスタート

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 昼食の後は平球場に移動。久しぶりに土の上に立ちました。冷たい風が吹き付けていますが、選手たちは嬉しそうです。グラウンド整備も久々。
「グラウンドに感謝の気持ちをもってやらないといけないので。(今度から)人工芝なんですけど、うちのグラウンド。やっぱ、土、いいですね。甲子園も土なので、しっかり慣れたいと思います」とは正捕手の小林遼。整備を済ませ、集合がかかりました。
 佐々木監督「風は強いんだけども、初めて外でやります。おっし!」
 部員「しゃー!」
 佐々木監督「朝、言ったように、感触を確かめてもらうだけなので。スパイクでの外、土、そういうものを感じて、違和感を感じて、今回は帰ろうと。変な言い方だけど、今日と明日でいっぱい、違和感を感じて、その違和感を直すようにしてください。寒いので、体を動かしながら、キャッチボールとトスを外でやるのは久しぶりだろうから、しっかりとやりましょう。(キャッチボールで)思いっきり遠くに離れるのは肩の具合とかあるのでそれぞれに任せます」
選手たちはニコニコしています。

▲気合いを入れて打席に入る仙台育英の檜森

 アップをした後、スパイクに履き替えて、いよいよグラウンドに飛び出して行きました。キャッチボール、トスをし、ノックです。マウンド周辺に円になって集まりました。
 小林「2013年初めての土となるんで。寒いので5割程度の送球でいいんですけど、元気は10割出していきましょう!」
 熊谷敬宥「昨日、内野手には言ったんですけど、寒いので、すごいボールとかいらないんで、内野手は捕ってから早くだったり、外野手はしっかり相手の胸に投げたり、そういう細かい部分から感覚を戻していって、元気は10割出していきましょう」
 加藤尚也「口酸っぱく言うんだけど、寒いからしっかり肘とかね、怪我に気をつけて、元気出してやっていこう」 
 水沼「ノックの時間、長いんで、待っている時間、冷えてきたと思ったら自分で動かしてしっかり万全の状態で臨めるようにしてください」
 ボールまわしでは思うような送球はできず、テンポもよくはありません。
 ノックも簡単なゴロを弾いたり、後逸したり…。送球が大きく逸れる場面もありました。

 ノック後の反省では熊谷敬宥が「すごいボールはいらないって言われている中で、高め投げたり、相手のことを思ったことをしなかったりと連携とかうまくいかないと思うので、そういう細かい部分で感覚を取り戻せるようにやっていきましょう」と話しました。続けて加藤が「この元気を継続できるようにやっていきましょう」と言えば、菊名裕貴は「こういう(寒い)状況でやっていけば、普通の状況でもできると思うので、気持ち高めてやっていきましょう」。最後に水沼は「この感覚は今日しか味わえないことなのでしっかり感覚を楽しんで、次、1本バッティングなので集中してやっていきましょう」。

 1本バッティングでは、水沼が投手になり、レギュラー組が打席へ。快音を響かせた人も、そうでない人も。いろんな「違和感」を感じた1日となりました。
 佐々木監督「ちらっと見たけど、ベース間の距離とかね。打った感触とか全然違うものじゃないかなと思うんだけど。しばらく、飛ばないはずだから。飛ばそうと思う必要ないから。飛ばなくて当たり前。変で当たり前。それが違和感だから、それをわかってくればいい。あとはスパイクの感触だね。違うでしょ?そういう感触も大事にしましょう。帰ってそれを想像しながら1週間やって、次、ここに時はまた変わるという感じにしよう」

 

センバツは目標を『優勝する』にしていない

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 2月17日、練習2日目。この日の目標は小野晴輝です。
「今日の目標は【違和感をいいものに】です。昨日、先生に違和感を感じろって言われ、今日は紅白戦っぽい1本バッティングすると言ってもらって、違和感を感じていいものにして仙台に帰っていければいいと思ったので、この目標にしました」
 上林「昨日、今日は、違和感を感じれればいいと思うので、今日も全力で違和感かじるようにやっていきましょう」
 水沼「今日もいろいろ失敗しながら、来週につながるような最後、締めができるようにやっていきましょう」
 アップ、キャッチボール、トスと進み、ノックとなりましたが、土の状態は良くありませんでした。風が冷たい割に太陽光は強く、グラウンドはどんどん、ドロドロしていきます。

▲打撃練習で徐々に感覚を取り戻す

 まるでスケートリンクにいるかのように足を取られる内野陣。この日のノッカーは水沼。ノック中、佐々木監督と郷古武部長は一輪車を持って球場の外へ出て行きました。ノックを中断し、グラウンド整備をすることに。ドロドロの土を取り、新しい土を入れました。そのままノックは再開せず、1本バッティング。この日の投手は鈴木天斗、馬場皐輔など投手陣が務めました。その最中、佐々木監督はつぶやきました。「ピッチャーが投げると変わるな、雰囲気が」。登板を終えた投手と捕手が反省点を話し合う姿もありました。

 平球場では打撃練習ができないため、昼食後は東日本国際大昌平のグラウンドに移動しました。すでに5カ所でフリー打撃ができるよう、準備されてありました。約2時間、たっぷりと打ち込んだ選手たち。はじめは捉えきれずに凡打する場面も多々、ありましたが、徐々に感覚を取り戻した様子。冷たい風が難敵となりましたが、充実した2日間の練習となりました。
「今回のテーマが、違和感を感じるってことだったんですけど、そのテーマ通りに、この2日間はできたかなと思います。あさってから、また、室内での練習になるんですけど、この2日間が無駄にならないように、しっかり、外の感覚を意識しながらまた1週間、やっていきたいと思います」と上林。

 仙台育英は、この後、2回のいわき合宿を行いました。そして、3月6日に沖縄入り。7日は琉球大と沖縄水産のグラウンドで練習し、8日から練習試合で実践感覚を戻してきました。東日本大震災から2年が経った3月11日はあえて試合を入れず、午後から沖縄水産で練習。2時46分は、あの時の地震の長さである2分40秒間、黙祷を捧げました。沖縄では、13日まで計9試合を戦いました。序盤は思うような戦いはできなかったものの、徐々に、ビッグイニングを作る仙台育英らしさも出てきました。
 佐々木監督はよく「うちは優勝を目標にしていない」と言います。2月の宮城県監督会でもこんな話しをしていました。 「神宮大会でなぜ優勝できたかというのは、まったく分かりません。本当に強いという感覚もないですし、ピッチャーは必ず3、4点とられますので安心できた試合は1試合もなかったなと思います。前は優勝したくて、勝ちたくて指導していたような気がします。その時はまったくできなかった優勝が、チームで勝つためとか優勝するためという目標をいっさいなくしてから、なんと、神様が贈ってくれたのか、国体は大阪桐蔭と同時優勝。
 そんなことを思うと、矛盾というか皮肉というか、勝つことを思わなくなったら、何となく勝てたんだと。ここに、今後のヒントがあるのかなと思いながら、今後の指導にいかしていきたいと思います。期待していただいている中で申し訳ないですが、センバツは目標を『優勝する』にしていないので、楽しんで、みんなで笑顔で試合をしてきたいなと思います」

 底抜けの明るさと元気、そして、豊かな個性—。優勝候補の一角としてセンバツに臨みますが、そんな他人の目は気にせず、Going my way。それが、仙台育英です。

(文・高橋 昌江)

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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