安河内 哲也先生「部活生の勉強」
第1回 安河内 哲也先生「部活生の勉強」2009年04月09日
「大好きな部活は一生懸命。」「でも勉強はしなくちゃと思う。ただ、どう勉強すればいいかわからない。」
そんな思いを抱える球児にむけて、今月より高校野球情報.comでは学ぶということについての考え方やプロ講師直伝の勉強法を配信していきます。
よろしくお願いいたします。
高校野球情報.com スタッフ一同
「点数を取りたいから」ではなく「好きだから」
まずは、勉強に興味を持つこと。1つは勉強に関連するものを体験してみること。
例えば世界史が苦手な生徒は、そもそも世界史が嫌いなんです。興味がないんです。だから勉強においては点数が取れるかどうかはひとまず置いといて、勉強を好きになる工夫をしなくてはならない。先の例では世界史のマンガを買ってきて読むことだけするなど、点数点数とカリカリせずに、好きだからちょっとやってみようかなって思うぐらいでいいんです。
スポーツでも同じですよね。野球が嫌いな人が野球がうまくなりますか?まずは好きになる工夫を考えましょう。
もう1つは解ける楽しさを思い出すこと。人間ってわからないものをやらされると嫌いになるんです。
でもわからなくなった瞬間をさかのぼっていくと、その瞬間のちょっと前までは7割くらいは点数が取れていたんです。
7割点がとれると人間は楽しいって感じる。だから、自分ができていたところまで戻ってみる。そこで解ける喜びを思い出してみましょう。
目標なきところにやる気なし
そのうえで、目標を持つこと。野球で甲子園に行きたいという目標があるように、勉強でも大きな目標がないとやる気にならない。もちろん、ある大学に行きたいという気持ちはあると思うのですが、それはよく考えると目標ではないんです。
その大学に合格したらどうなるの?って話です。人間の存在する意義っていうのは、社会に出て何かの形で貢献して、誰かの役に立てることだと思います。それが目標になるのです。
将来どんなことをしたいかという遠くて大きな目標があれば、そこから逆算して、実現するためにどうすればいいかが見えてくるはずです。すると、今やっている勉強に意味がでてくるんです。ただ大学に行きたいから、では三日坊主はなかなか治らないはずです。
勉強は時間対効果だ
勉強は時間対効果に尽きる。部活をやっている生徒は相対的に勉強の時間が少ないです。
でも、部活をやっている生徒というのは、部活をやっていない生徒に比べて、「短い時間でたくさんやる力」が優れている。
自分自身も学生時代は部活(登山部)に一生懸命に取り組むことで、短時間に多くのことをこなす集中力を培って大学へ進学したし、生徒を見ていても部活を引退してからの半年間成績の伸びはものすごい。
だから時間を上手に使うスキルというのは、部活をやっている生徒は潜在的に身につけているのです。
だからといって、部活と勉強はだいぶ違う。部活で身につけた力を勉強に転換する技術を身につけなくてはいけません。
【技術1】分刻みでやる
部活をやっている多くの生徒が口にするのは「今日は1時間も勉強できない。」という言葉。でも、1時間連続して勉強なんて部活生になかなかできません。
勉強は1分間、2分間、5分間と分単位で勉強時間を区切ること。例えば、朝早く学校に行って、授業を受け、部活をして、家に帰って風呂に入ってからでは、勉強のための時間なんて取れないように思うかもしれません。でも、その一日を検証すると、電車に乗っている時間やご飯を食べている時間や休み時間などを合わせて、一日3時間も勉強する時間があるのです。それを3時間連続で勉強しようとするから「時間がない」と思うわけであって、1分間、2分間を積み重ねて3時間にすればいい。
でも1分間じゃ勉強なんてできないと思うかもしれません。実は人間の脳というのは可塑性というものがあって、短い時間でやらなくてはならないという障害があると、脳もその障害を乗り越えようと働く性質があるのです。
例えば、単語100個を覚えるとき、部活も何もなくて忙しくない人は2時間も3時間もかけてしまうのですが、部活をやって忙しい人は10分間で100個覚えたりする。
つまり忙しければ忙しいほど、短い時間で覚えることに慣れていくから、忙しいことはむしろメリットなんです。
【技術2】声にだして勉強する
声に出して勉強すること。音読というのは脳科学的にも注目されている勉強法であり、前頭葉が活性化して脳に対する刺激が高いと言われています。ただ眺めていても部活に疲れた頭は眠くなるだけで何も吸収できないと思うんですが、声に出すことで感覚器官を刺激して脳へ刺激する。
例えば、英単語にしても、ただ眺めるのでなく、スピーディーにリズミカルに音読すれば、10分で済んでしまう。
【技術3】毎日少しずつやる
そして体に無理のないペースで、毎日少しずつ勉強すること。健康状態をベストに保つ。これは部活をやっている生徒は精神的にも肉体的にも体力があるので問題ありませんね。
でもある日にだけ必死に勉強して次の日熱出して寝込むのでは意味がないので、体に無理の来ないスケジュールでやることは大事。部活をやっている生徒は、明日はテストだから朝まで勉強しようとしたり、ガチンコでやろうとする。そうして次の日のテストはうまくいってもすぐに忘れてしまう。
これでは受験勉強は続かない。毎日ちょっとだけでも無理のないペースで続けることが大切なんです。
【技術4】バイキング式ノート作り
高校生はノートづくりが苦手です。ノートを作ることはバイキングと考えてください。ホテルのバイキングとかで沢山とって残したりする人がいるけど、高そうなものや美味しそうなものを厳選して、食べられるだけとる。これがバイキングの基本でしょう。それと同じことをノートでもしなくてはならない。
試験に出るもの、点になるものだけを厳選してノートにとって、それを覚える。多くの生徒はワカメやレタスのような高くもおいしくないもの、つまり試験には出ないし点にもならない余計なものまで山のようにノートにとって、覚えないままほったらかし。そういう意味のない無駄な時間をなくす。ノートなんてつくっても点数は上がりません。ノートは覚えるためのメモ。内容を厳選すればノート作りの時間は5分の1くらいになり、残りの時間を覚えたり、問題を解いたりする時間に使いましょう。
【技術5】定食式勉強方法
優先順位をつけて勉強をすること。バイキングの時は高そうなものだけ厳選したけど、定食だとそうしてもワカメやレタスのような高そうではないものも出てきてしまう。受験勉強も定食みたいなもので、自分の得意な科目だけでなく、自分の苦手な科目まで出てしまう。
そこで、苦手なものから取り組むこと。なぜかというと、人間は好きなものを食べた後では、嫌いなものはのこしてしまうから。受験の科目も同じで、得意な科目だけ一生懸命やって、苦手な科目は後でやろうとするから、結局やらないままになる。逆に苦手な科目を先にやれば、得意な科目であれば疲れていても好きだから勉強できちゃうんです。入試では得意科目で落ちる人はいません。苦手科目で落ちるんです。
【技術6】素直に話を聞
あとは学校の先生とか塾の先生とか、その勉強の定評のある「達人」の話は素直に聞くこと。野球でも同じで、コーチに逆らって我流でやっていてもいつまでも伸びないでしょう?達人の意見に従う素直さが必要です。
【技術7】自己管理
自己管理をすること。例えば、部活仲間で集まって勉強しあう時間を作ったり、部活の後は必ず図書館や自習室に通ったり、「他人の目」や「勉強する環境」を利用して、勉強をやらざるを得ない状況にむけていく。
勉強と部活を両立させている生徒の共通点は実はこの自己管理です。私が予備校の生徒を見ていても、毎日少しでも自習を続けている生徒と、同じ時間を寝ている生徒とでは差がつくのは当然でしょう。
努力する覚悟
勉強は親や学校から「やらされている」と考えている生徒が多いんですが、自分のために勉強しているという意識をもってほしい。勉強に限って言うともっとわがままで自己中心的でいい。
やりたいなら、やれ。やりたくないなら、やるな。
それぐらい覚悟ができなくては、やる気は続きません。スポーツも受験もそこは同じで、「やらされている」と思っている人が上手くなるわけがないんです。
だから自分なりの目標と、自分のためにやっているという意識がとても重要です。
大学受験の勉強は、将来の自分へのプレゼントだと思います。この大学受験を頑張ることができれば、社会のどんな仕事についても頑張れるはずです。社会で成功している人は共通して「勉強する力(効率的な勉強方法)」と「頑張る力(勉強するやる気)」をその両方を持った勉強家です。
球児にメッセージ
スポーツで頑張るのも、勉強でも頑張るのも、一生懸命頑張ることはよいことだから、大人になるまでに「これ以上頑張れないくらい頑張った」という経験を、部活でも勉強でもしてください。絶対、いい思い出になると思いますよ。