つなぐ気持ちが生んだサイクルヒット。チーム一の安打製造機は誰よりも謙虚だった 杉田翔太郎(敦賀気比)
令和最初の甲子園はいろいろ記念尽くしだ。
・開幕戦で初安打が満塁本塁打
・履正社が1試合最多タイ5本塁打
・智辯和歌山が11年ぶりの1イニング3本塁打
・宇部鴻城の岡田佑斗が史上初の1番投手としての本塁打
と記録が多い大会となっているが、大会8日目、またも大記録が生まれた。敦賀気比・杉田翔太郎が國學院久我山戦でサイクル安打を達成したのだ。史上6人目のサイクルヒットに、杉田は「自分が達成すると思っていなかったので、素直に嬉しいです」とお立ち台で笑顔を見せた杉田。
そんな杉田の素顔とは。
繋ぐ意識が生んだ第6打席のホームラン
サイクル安打を達成した杉田翔太郎(敦賀気比)
小学校ではまずソフトボールから始め、その後、野球に転向すると、八尾ファイターズ時代から全国舞台を経験。
八尾フレンドを経て、敦賀気比に入学した杉田。しかし2年夏まではベンチ外。昨年の甲子園ではスタンドで応援していた。昨年の先輩たちは強いチームだと思っていたが、木更津総合に初戦敗退。全国のレベルの高さを肌で感じた。
「あんなに強い先輩が大敗するのだから、甲子園は厳しいところだと思いましたし、その悔しさを晴らすために1年間取り組んできました」
杉田が最も自信あったのはバットコントロール。先輩・西川龍馬(広島)の映像を見ながら、低めをさばく技術を学んできた。そのバットコントロールはチームメイトから一目を置かれている。2番ショートの中川宙はこう語る。
「杉田は流し打ちがうまくて、ヒットゾーンに運ぶのがうまいです。練習試合、公式戦で、チームが打てないなと思う試合でもヒットを打つのが杉田なんですよね」
流し打ちへの意識は、杉田自身も大事にしている。チームではセンター方向を意識してライナー性のバッティングを心掛けているが、杉田の場合、逆方向へライナーを打つ意識を持っている。
「僕の場合、その意識ではないと開いて打ってしまうので、そこは大事にしていきました」
福井大会では17打数7安打、1本塁打6打点の活躍。決勝戦では全国レベルの左腕・玉村昇悟(丹生)から満塁のチャンスから2点適時二塁打を放つなど、勝負強さを発揮してきた。
杉田が口癖にしているのは「4番の木下につなぐ。それがチームの勝利につながるので」。その謙虚な姿勢が大記録を生むことになる。
2回戦の國學院久我山戦では、第1打席で痛烈な右前安打を放った杉田は「良い感覚振れたので、良い感じ入ることができました」と振り返る。
その後も打ち出の小槌のようにヒットを量産。第2打席は左中間を破る適時二塁打を放つと、第3打席でも中前適時打を放つ。5回表の第4打席には右中間を破る適時三塁打を放ち、サイクル安打へリーチをかけた。
しかし7回表の第5打席はレフトフライに終わる。この場面について杉田は「ベンチからホームラン、ホームラン!と声をかけられてしまい、大振りになってしまい、納得いくスイングができませんでした」と反省し、第6打席はこれまで通り次につなぐ打撃を心掛けた。
状況も無死一塁となり、なおさら気持ちは繋ぐ意識に。そして1ストライク2ボールから4球目だった。
ストレートを振りぬくとライトへ高く上がり、スタンドイン。史上6人目。2004年の林裕也(駒大苫小牧)以来の快挙となった。
「結構上がりすぎたかなと思ったら、まあ風のおかげだと思います」と笑顔を見せる杉田。チームのためにつなぐ気持ちが快挙につなげた。
これで夏2勝。「1勝できなかった先輩たちの悔しさを晴らすことができたと思います」と喜ぶ。
しかし次は仙台育英と鳴門の勝者といずれも強敵だ。それでもやることは変わらない。これからもチームの勝利のためにつなぐ気持ちで、好投手を打ち砕くバットコントロールを発揮する。
(記事=河嶋 宗一)