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2017年は大井道夫監督ラストイヤー。最後まで「逆転の日本文理」を体現

2017.12.28

2017年は大井道夫監督ラストイヤー。最後まで「逆転の日本文理」を体現 | 高校野球ドットコム
大井道夫監督(日本文理)

2017年、新潟の高校野球界の話題の中心は大井道夫監督

12月某日、編集部から原稿の依頼があった。
要約すると、2017年を総括する意味で、今年の新潟県の高校球児の中で輝いていた人を、1人ピックアップし、原稿を書いて欲しいということのようだ。
「少し考えさせてほしい」と言って電話を切り、編集部から贈られてきた企画書を読む。

「2017年 キミ最も輝いていたで賞!」
うーん。
スコアブックを片手に、2017年に見てきた試合の記憶をたぐり寄せる。

全国的に無名の高校ながら、身体能力の高さが評価されプロ入りする綱島龍生糸魚川白嶺)。
恵まれた体格と長打力が魅力で、北信越大会での活躍をきっかけに入団テストを受け、見事プロへの切符を勝ち取った荒井颯太関根学園)。
高卒でのプロ入りはかなわなかったものの、多くの高校野球ファンを魅了するストレートで大器の片鱗を見せてくれた菊地大稀佐渡)。
1年生の頃から主力として活躍し、最上級生になってからはエースで主軸とまさにチームの柱になった成田仁五泉)。
最後の夏、ノーシードからベスト8に入り、監督を何度も男泣きさせてきた巻総合の投打の柱

細かく名前を挙げればキリがない……。どうしよう……。
考え方を変えた。
「2017年、新潟の高校野球界の話題の中心は何だったのか?」

ピーンときた。
ある1人の名前が思いつき、編集部へ電話を掛けた。
「選手ではないんですが、大丈夫ですか?日本文理の大井道夫監督について書きたいと思います」

[page_break;合言葉は「監督と1日でも長く野球がしたい」]

合言葉は「監督と1日でも長く野球がしたい」

 2017年、新潟の高校野球は間違いなくこの人を中心に回っていた。大井道夫(現総監督)。2009年に夏の甲子園準優勝、2014年に夏の甲子園ベスト4という輝かしい成績を残した名将だ。

2017年2月、あるニュースが新潟県内を駆け巡った。
「大井監督退任」
2016年秋の大会で、新潟県大会では圧倒的な強さをみせ優勝。北信越大会では惜しくも敗れ、選抜大会出場は難しいと言われていたものの、まだまだ活躍が期待されていた矢先の報道。そして、自身の言葉で、今年の夏を最後に監督を退任することを表明した。

 この報道があってからの、日本文理の選手、コーチ、関係者の団結力、集中力はすさまじいものがあった。選手は「監督と1日でも長く野球がしたい」を合い言葉に、厳しい練習で自らを追い込み、回りがそれを懸命にサポート。その結果、これまで以上に厳しいポジション争いが勃発。

 なかでも捕手はし烈で、富山から鳴り物入りで入部し1年生から正捕手として活躍していた川村啓真、シニアの日本代表に選ばれたこともある堤俊輔らがしのぎを削る中、2人に比べると実績は劣っている強肩が武器の牧田龍之介が台頭し、正捕手に成長。もちろん捕手だけではないポジション競争がチームのレベルを飛躍的に上げた。

春の大会も制し、迎えた最後の夏。緒戦から大井監督自慢の強力打線が火をふき、決勝までの5試合中3試合でコールド勝ち。全試合5得点以上という圧倒的な強さで決勝を迎える。決勝は2年連続で甲子園に出場している中越

先制し、追いつかれ、勝ち越し、逆転され、3対4と1点ビハインドで迎えた八回裏。直前に逆転され嫌な流れになりかけたが、8番・牧田のヒットと相手悪送球で進塁し、1番・飯田涼太の犠飛で同点。そして3番・川村が値千金のツーランホームランを放ち一挙に逆転。

以前のインタビューで、大井監督は「逆転の文理」と呼ばれる事についてこんなコメントを残している。

「監督が平然と『心配するな。お前らこれくらい取り返せる』って言ってると、『あれ、大量点取られても監督落ち着いてるな。これはいけるかもしれない』って気持ちになるんだ。それがおれが『何やってるんだ~』って慌てたら、選手も動揺しちゃうわけ。子どもたちは、監督の顔を見てないようでちゃんと見てるから、どんと構えて、平静にいることを心掛けている。

 そして、『うちは7回からが勝負だからな』ということは常に言っておくのよ。それを頭にたたきこませておくわけ。だからうちの試合は7回からの得点が多いでしょう。先制、中押し、だめ押しが理想だけど、そういう野球が出来ずに、たまたま先に点を取られちゃう。だから“逆転の文理”なんて呼ばれちゃうんだ(笑)」(野球部訪問 第186回 日本文理【後編】

まさに大井イズムを継承した最上級生が「逆転の文理」を体現した結果、合い言葉の通り「大井監督と1日でも野球ができる」甲子園への切符を手に入れた。

甲子園では緒戦に勝利し、2回戦で仙台育英に0対1と惜敗。監督と野球ができなくなる、これまでの感謝などが押し寄せ泣く選手が続出する中、その選手たちを最後までたたえた。

「ここまでやってこられて(選手達には本当に)心から感謝している。最後に甲子園でユニフォームを脱げるなんて幸せだ」

試合に勝ち、報道陣の前で「子どもたちがよくやった」とほめる姿は、まるで孫の成長を喜ぶ好々爺。ベンチでの勝負師の顔からは想像もできない。その姿ももう見られないと思うとさびしさは募る。

鈴木崇前コーチに監督を譲り、自身は総監督に就任。
日本文理の監督として新潟県の高校野球を盛り上げてきた大井監督。
1つの時代が区切りを迎えたが、大井監督のこと。これからも日本文理のため、新潟県の高校野球のために奔走することだろう。
グラウンドでスタジアムで、あの笑顔にまた出会えることを信じて。

大井監督、本当にお疲れ様でした。

(文・町井 敬史)

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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